月の雫
微睡みの合間に夢をみた。
…
その個体は、それは酷い最期を遂げた。
しかし、それは予想に反して、黒く染まらずに、自ら輝きて、そしてその輝きは美しかった…。
ああ、まるで暗闇に仄かにひかる蛍のようじゃ。
傷つき、儚く光る、その蛍は、たまたま我の袂へと降りてきたのだ。
このままでは、砕けて散り、消えていくのだろう。
…
さて、我は如何にすべきかと思う?
我の予想に逆らい黒きに染まらずは◯、暗闇に光る仄かな美しさも◯、そして今まさに孤独に消えゆく儚さも◯、そして運命に逆らい続け明滅続ける根性も◯、更に我の元へ偶々来た幸運も◯じゃな…。
…
これは…褒美を与えなければな。
それに多少の揺らぎがなければ、世界も運命線もつまらんじゃろう。
機織る[運命の神]から苦情が来るかも知れぬが、それも一興。
奴めは、真面目過ぎて面白みがない。
それに眠りの合間に、なかなか良い夢を見せてもらった。
だからこれは、その礼なのじゃ。
…美しき光りを放つ蛍よ、来世では、幸せに生きるのですよ。
ひび割れ、正に今砕かれんとする魂に、我は指先から月の雫と称されるエーテルを垂らした。
ひび割れが消え、蛍が月色に輝く。
その輝きは、喜びに溢れているようだ。
お礼を言っているようにも見える。
…フフ。
多過ぎたかしら。
だが我に似たる動向や性向に、愛おしさを感じたのだ。
いわゆる贔屓と言う奴じゃが、誰にも文句は言わせん。
この蛍が、我の元へ来たのも、遥かな高みから見下ろせば、運命のような気がするのも癪だが、我は我の思うべきことをするだけ…
何より我のもとへ来た、傷つきて今にも消えんとする蛍をそのまま捨て置くことなど出来ようはずもないじゃろう。
これは、一炊の夢じゃ。
…
ああ…そんなこともあったな。
眠りの闇に又も沈みながら、思う。
あの蛍は、今度こそ、それに相応しい日常を過ごしているのだろうか…?