騎士団
黒蟻は、武装解除された。
抵抗はしなかった。
黒蟻全体の指揮官は、どうやら突入してきた部隊を指揮していた者であったらしかった。
もう、なんかまるでヤル気なくして、放心して、肩を落とした状態で騎士団に連行されていった。
騎士団を率いていたのは、若い貴族様で、平民な僕にも丁寧な物腰で対応してくれた。
その打てば響くような応接の仕方は、優秀な印象を相手に与える。しかも謙虚で控えめなのに自分の言い分は通す。この人、たぶん恐ろしく頭がきれる。しかもそれを隠そうともしない。計算ずくだ。挙動仕草から、普通に強者であることもわかる。生まれも人間性も能力も、完全に雲の上の人だな。
もう会うことは無いだろうけど、僕も一期一会の精神で、感謝を盛大に表して対応したよ。
貴族様は、最後に僕の手にキスして、「また会いましょう。」と言って風のように去っていった。
きっと貴族の社交辞令だねと分かっていても、僕に気を使っているのが分かるので悪い気はしない。
そして、騎士団が風のように去った後には、消火されて廃墟になった本邸と、グースカ寝ているクラッシュさんが残った。
…いい加減おきなよ。
幸い離れの別邸は無事だったので、クラッシュさんを全員で運んで、中で休んだ。
護衛5日目の朝。
離れの居間で、ご飯、味噌汁、サラダ、ベーコンエッグで朝食を済ます。
朝、目覚めた後、クラッシュさんが土下座していたり、腹を切ってお詫びすると大騒ぎしたり、一悶着あったけど。
何とか殿下がおさめてくれた。
もう、殿下の器量の大きさは、主君向きだよ。家を継いでも良いんじゃないかなぁ。
端末に、青藍騎士団から連絡事項が届いていた。
さすが騎士団。配慮が行き届いている。
情報共有の為、皆で読んでみる。
[今回騒乱を起こした団体組織は、通称[蟻]と言われる始末屋でした。標的はキャンブリック・アッサム嬢。依頼人は公益団体○○○執行役員◉◉◉◉でした。[蟻]は契約を解除。もし大規模な報復をお考えなら都市政府にあらかじめお届け下さい。またお困りのことがありましたら連絡ください。私の個人連絡先を記載しておきます。青藍の騎士団第一大隊隊長シッキム]
あの隊長さん、シッキムさんって名前なんだ…。ふーん。
さすがですね。優しいし、アフターサービスも万全だ。
しかし、お陰で分かりました。
やはり、黒蟻は傭兵組織で、もちろん依頼を受けて襲撃してきたわけだ。
でも、さすがにここまで大掛かりだと、都市政府が黙っちゃいないよ。いくら人の命が軽くても、騒乱罪規模のレベルだもの。
いやはや、都市内で騒乱罪レベルのテロを敢行する者がいますよ。と密告した甲斐があります。
また、複数の伝手を頼って騎士団に根回ししましたし。
自分達の命と人生が掛かっているとしたら、蜘蛛の糸は何本もあるにこしたことはないですよね。
しかも、二重三重にしとけば切れにくいし。
それが何本も天から下がっている状況を想像する。
地獄に落とされても蜘蛛の糸を準備しとけば、あとは登ればいいだけだもの。
これが、[準備]と言うものだよね。
前世の僕は、準備というものを理解していなかった。
同じ過ちは、おかさないのだ。
依頼主は、同じく元秘書の人だった。
なんだろうね。この執拗な感じは。執念を感じるね。
まるで、殿下を殺さなければ、自分の命が危ういような、切迫感さえ感じてしまう。
とりあえず、珈琲でも入れましょうか?殿下。
自分の命が狙われるなんて、殿下の精神的負担はいかばかりか…。
皆、難しい顔をして、黙りこくってしまった。
クラッシュさんが、途中、備え付けの通信装置に呼ばれ中座した。
うーむ。また保険を、また、いくつか増やそうか…。
この部屋に近づいてくる足音が聞こえた。
たぶんクラッシュさんだ。
扉が開く。やっぱりクラッシュさんだ。
「殿下、あの依頼主から面会の申し込みがありましたぞ。」
そうきましたか……そうなると次の手は…。
「殿下、やはりここは我輩が出向いて彼奴めをプチッと。」
クラッシュさんが、いつのまにか手に持っていた胡桃を指先でグシャッと割る。
いや、駄目だろう、それは。
「及ばすながら、殿下の命を守る為ならば、私も覚悟を決めてやります。」
悲壮感漂わせ発言するギャルさん。
ギャルさん、なにを…やるというのか…何故皆やる一択なのか?それは最後の手ですから。
その後、殿下が、二人を止めてくれた。
殿下が良識ある人で本当に良かった…本当に。
さて、ここからが仕切り直して、僕達のターンですね。
まずは、




