[閑話休題]ラーメン放浪記(ルフナ・セイロン編)
「救けていただきありがとうございます。せめて貴方様のお名前を教えて下さい。」
「…名乗るほどの者じゃねえさ。気をつけて行きな。」
俺の名は、ルフナ・セイロン。
だが、こんな当たり前の事で、名乗るほどの事でなし。
俺は、ただ、通りすがりにチンピラに絡まれて困っている人を見かけたから、手を貸しただけ。
俺は、何か言いたそうにして見つめてくる女性の視線を振り払い、その場から足早に立ち去った。
困っている人を見かけたら助けたくなるのが人情で、俺は当たり前のことをやっているだけ、取り立てて人に言う話しでもないだろう?
だが、昔の俺はそうじゃなかった。
余計なお世話だと、他人のイザコザには通り過ぎるだけだった。
自分のケツは自分で拭くべきだ。
その頃は、そう思い込んでいた。
潮風に吹かれ蒼天の青空を仰ぎ見る。
海から吹いて来る風が、大洋の遥かな向こうから、海を渡り、俺に当たりて、吹き抜けていく。
ああ…この風は、まるでかの人のように自由で涼やかな煌めきながら俺を突き抜けて行くのだ。
…
あの人に出会ってから、俺は変わった。
脳裏に見目麗しいシルエットが思い浮かぶ。
思うだけで、芳しい香りを感じて、浮かれる気分になる。
…
今、思えば、あの出逢いが、俺がクソガキだった頃からの卒業だったんだろう。
一生を、子供のままでいる奴もいる。
賢しげで、自分が頭が良いと思い込んでる奴、小山の大将で、勝ち負けや強さだけに拘泥る奴、金儲けに特化して自分のことしか考えない狭量な奴…みんなみんなクソガキだったなと、今ならば分かる。
ああ…あの頃の俺は若かったんだなぁ。
だが、子供はいつか大人になるものだ。
カモメが飛んでいる青空を眺めた。
…
よし!今日は、もう気分が乗らないから休日としよう。
最も、仕事の下調べで昨日から通しで寝ていないから、今日一日は、日勤免除というやつだ。
…働き過ぎは、身体に良くない。
臨海に発展した街並を、強くなった日差しを浴びながら帰路につく。
このトビラ市全体は、超古代時代の永久コンクリートを使用した遺跡と、樹木が混在した隙間に、新しい建物が繋ぎのように建て増して、古きもの新しきもの有機物と無機物が絡みつく存在して、趣きのある風景となっている。
俺は、産まれたときから見て育ったから、見慣れた風景だが、こうして改めて見てみると、時代の変遷…人類の歴史を感じられる。
そう…街並みを歩いているだけで、平面化した時の流れを見てとれる。
この臨海地区は、かつては海の底で、さらに超古代時代では埋め立てられ島であったり、その前では海の底だった。
海だったり、島だったりと考えると足元不如意で、海上に立っているようで心もとない気がする。
確かめるように、足下を叩く如く何回か踏み締めた。
よし!…大丈夫だ。
俺は臆病ではないが、足元とは時には突如崩れてしまうことがあると知っている。
信じられないことでも、全てを疑え。
足元は、叩き過ぎで石橋を壊すぐらいでよい。
…突如、空腹を覚えた。
むむ、夜勤明けは腹が空くもの…ましてや今日は、朝も食べていない。
ああ、コッテリとしたラーメンが食べたいなぁ。
疲労と空腹に身体が高カロリーを欲している。
エ系のラーメンが、確かカマーの西側にあって、なかなか美味いと聞いたことがある。
ちょうど昼時だし、一丁行ってみるか…?