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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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[閑話休題]ラーメン放浪記(ダルジャン・ブルー編)

 …端末が鳴った。

 

 それは、ちょうど襲撃者と丁々発止で切り結んでいる時でした。

 わざと他の者が嫌がる、依頼料安めなのに釣り合わないリスクが高い襲撃必死な護衛依頼を受け、まさに今、渦中の最中なのです。



 ああ…今までの私は、安全圏で安穏としていた。

 尊いアールグレイ少尉殿の日常をみるに、戦場では彼女は常に安全圏から一歩踏み出していた。

 臆病なほどの警戒心、細心の戦略、戦術、大胆な臨機応変からの突破力が、その危うさを補完している。

 でも、彼女を見守っているうちに、それを支えているのは彼女の日常の不断の努力であると知った。


 昼間見た彼女は、陽の光りを受けて、煌めいて見える。

 光りをふんだんに浴びた彼女は、神の祝福を浴びた聖女のよう。

 見てるだけで高揚し、幸せになる。


 陽が落ちて夜に会った彼女は、薄らと闇夜に浮かぶ満月のように輪郭が際立ち神秘的に輝いている。

 それは暗闇の中の希望の灯火を掲げ孤独に歩んでいる巫女のように神々しい。

 見てるだけで、彼女の歩む茨の道に、哀しみに胸が狂おしくなり、彼女に縋りつきたくなる。


 …これでは、いけない。

 彼女は、確かに…尊い。

 でもよく見れば彼女は、私より歳下の、小さな儚い女の子に過ぎないのに。


 …


 彼女を仰ぎ見るのではなく、私は、彼女に並び立つを目指すと決めた。

 生半可な決意で通るほどの道ではない。

 だが、彼女は私を友人だと言う。


 …その信頼に応えたい。



 …



 周りを埋め尽くす多人数の襲撃者に対して、剣を抜刀し、空中を一文字に切って牽制する。

 今までの猪突猛進では、生命が幾つあっても足りない状況…いや、それでもなんとかなるかもしれない。

 でも、推すだけでは、彼女には追いつけない。

 …それでは足りないと感じる。

 押すではなく、引くのも計略のうち。


 私は、摺り足で素早く何歩も引き下がりながら、レイピアの剣先に魔力を込め、半円形に紋様を空中に描いていく。

 敵には、この紋様は見えていない。

 未だ対応する動きがないことから、牽制のための奇妙な無駄な動きとしか認識してないのだろう。


 フッ。

 思わず、笑いが込み上げるも、口元を引き締める。

 勉強不足は生命の綱引きに直結するものなのか…知らないということは恐ろしいものだと感じいる。


 最後に、左足と左腰を引いたと同時に左手で、端末を取り出して応答した。


 これは、今、絶対取らなければ後悔すると、直感が働いたせい。

 

 同時に、描いた魔法陣を、炎のエレメンタルを剣先に込めて、一文字に切って捨てる。

 剣先を立てて即座に胸元に戻す。

 …

 半円状に空中に描いた複数の魔法陣が燃え上がりて壊れ、幾つもの無数の炎の龍が空中を焦がしながら飛び出して行き、襲撃者達を追尾して飲み込んでいく。

 引いた私に、何も考えずに進みて直近まで詰めて来ていた彼らに、コレをかわすことは、まず不可能だ。


 この魔法陣の正体は、追尾型のマジックミサイル。

 そこに炎のエレメンタルを付加した。

 対象に当たると燃え上がり吸着して消えることがない。

 …この炎を消すには術者を倒すしかない。


 悲鳴を上げながらのたうち回る炎柱を、眼中に捉えながら、端末からの声を聞くと、アンネだった。

 「もしもし、ジャンヌ?…少尉殿とラーメンをご一緒にいただくのだけど、せっかくだからどうかしら?ラーメンってあなた、知ってるかしら?庶民が貴族に隠すほどの美味なる味らしいですわ…。」


 …ビンゴです。

 はわわわ…カミナリに撃たれた衝撃が頭から足先まで貫き、続いて幸せ感が込み上げる。

 これって、少尉殿とランチデート!?


 やはり、私の直感は正しかった。


 そして、アンネったらマジ天使。

 私を誘ってくれたアンネの優しさに胸が暖かくなり、感動しました。

 きっと私だったら、自分の幸せばかりで、他の人に対して気遣いなど思い浮かばない。

 …密かに反省する。


 それはともかくアンネからの参加の有無の質問に、思わず何度も頷いていることに、これでは伝わらないことに気づいて参加する旨を、搾り出して声に出す。


 …詳細を聞きながら、算段する。


 どうしようかしら?

 自宅に戻り着替えていく時間がない。


 炎に焼かれ苦悶しながら、それでも向かってくる根性ある輩を、魔力抜刀した刃を飛ばして止めを刺しながら、考える。


 幸い今日はパートタイムの護衛依頼のみ。

 レッドの依頼料が高いことから、ダージリン嬢の発案で企画試案実行された依頼です。

 あらかじめギルド情報が入っていた襲撃者を殲滅させたら、ほぼ終わりの案件です。


 アンネと会話しながら歩いて、次々と炎柱を切って捨てていく。

 …最後の炎柱を切り終わると、私は端末を閉じながら、剣を鞘に納めた。


 呆然としている依頼者と護衛一行に、依頼完了を確認すると、依頼者は眼を見開き口を開けた状態で諤々と何度も頷く。


 …うむ。これにて依頼完了。

 すかさず気持ちを切り替える。


 さあ、急いで途中のデパートで、庶民の服を買い揃えて着替えて、カマーに行かなければ!


 だって…私の少尉殿が待っているのだから。

 

 



 

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