昼食
戻って来た獣犬族のクララ含めた同部屋の三人と、食堂へお昼を食べに行く。
同じ釜の飯を食べると、気心が知れて仲良くなると言う。
これは、僕が思うに、一緒にご飯を食べる行為とは、互いに同じ共同体に属することを認める行為なのだ。
だから、仲間になりたいならば、努めて一緒に食べるのは有効です。
逆に嫌いならば、一緒に食べなければ良い。
これの意味するは、
一緒に食べる=仲間、
一緒に食べない=敵、
そして、その逆もまた真なりなのです。
食堂では、僕の周りには、ショコラちゃん達も合流して、様々な可愛くて綺麗な女の子ばかりで御花畑のよう。
但し、これだけ密集してると、周りは女の子の芳しい香りでむせかえるほど。
嫌ではないけど、…この中に僕がいて、場違い感が甚だしく候。
それにしても、…惜しいです。
もし、僕が今世、男で生まれていたら…ハーレムだったろうに。
或いは、天国かと嬉し涙で卒倒してたかも。
そう思うと、惜しくも非常に残念な有り様です。
でも、僕は今世、女の子だから仕方ないのです。
…やれやれと肩を竦める。
もっとも前世の記憶持ちだけど、人格まで継承はしていないから、男性の気持ちは、あらかた理解は出来るし、気持ちを察することは可能なれど、本気で思っているわけではない。
女性としては、僕、ノーマルですから。
人格形成は、既に前世の記憶が甦った10歳の時点で出来上がっていましたし、前世の記憶が、僕の性格に多大な影響を与えたのは、間違いないけれど、前世の人格は、僕を押しのけて乗っ取ることはしなかった…。
今では、前世の僕…彼は、僕の人格に溶けて薄まり無くなってしまった感がある。
だから、当時の彼の僕に対する思いも分かるのだ。
それは、まるで自分の娘に対するような気持ち…一生の天寿を全うした自分が、今まさに人生を育まんとしている魂の系譜を受け継ぐ者を押し除けるなどは、死んでも出来ないという矜持、一生一期…人の一生は一回限りだからこそ尊いとする考え、それと自己の娘に対するような愛情だ。
魂は一緒だから、愛情とは、これ如何にと思うかも知れないけど、一時期は別人格が併存していたのだから、当時の彼の思いの記憶を継承して残っているのです。
ほぼ僕を主人格に統合された今でも、彼の残滓はまだ残っていて、たまに吹き出すことはある。
当時の僕が彼に対して抱いていた感情は、お父さんである。
奇しくも、当時、僕は父を亡くしたばかりであった。
…
ここで、僕は話しが長くなる事に気がついた。
うんうん…これは又別の機会の話しですね。
「ところで、僕って、皆んなから白狼の姫君様とか呼ばれているけど、何で?」
唐揚げを、突つきながら、周りに問うてみる。
迂遠な聞き方はしない、単刀直入に物申す。
周りが途端に静寂と化す。
唐揚げよ、こんにちは!
よくぞ、5000年の歴史を乗り越えて来たものです。
僕の目前には、前世の姿と全く変わらぬ姿の唐揚げがおわします…なんて美味しそうな佇まいであろうか。
僕の視線は唐揚げに釘付けです。
皆の返答を待つ。
「そ、そりゃ、アレやアレ、確か…御伽話にある白狼族の姫様は、獣人達が危急の際に、夜空を飛んできて現れて、皆んなを救けてくれる…あー最後は、分からん忘れたわ。」
なんと最初に返答してくれたのは、対面に座ったラピスだった。
しかし、意欲に知識が追いつかなかったらしい。
クスリと笑う。
何の思惑もなく、純粋に返答してくれるのは嬉しい。
他人の思惑が見え過ぎるのも、疲れるものです。
僕が笑ったことで、場が和んだらしい。
一気に緊張の糸が解れる。
対面に座すラピスの右隣りに座すクララが、几帳面にも手を上げてから、次いで発言した。
「姫君様は、どうやら御自覚が無いように推測されますので、改めて説明致します。遥かな昔、古代の中期頃に我々獣人族の御先祖に当たる方々が出現した頃、狼族の王家に白狼族がなり、その英邁たる人格と智慧と強さから、獣人族全体の初代の長となったのです。やがて、少数であった白狼族は、王族の地位を獅子族に譲渡し、神官の地位に退かれ表舞台からはいなくなりました。しかし、獣人族全体の迫害が始まった際に、白狼族の姫君が突如現れ、右往左往していた烏合の衆の皆んなの指揮を取り、導き、救けたのです。古代の時代故、真偽の程は不明ですが、口伝として私達、獣人族の末裔に御伽話として伝わっているのです。そして、その白狼族の末裔こそ、貴女様、アールグレイ様なのです。」
… … …
おー、そうだったのですか、それはそれは…。
「…でも、僕、人族ですが?」
僕が、質問すると、今度は獣人達が奇妙な顔をした。
してないのは、唐揚げを食べているラピスぐらいです。
あと、ペンペン様とシロちゃん。
「…姫様に質問ですが、御先祖様に白狼様の血を受け継ぐ方がいらっしゃらないですか?」
山羊獣人のシレーヌが、話しを引き継ぎ進める。
うん?うー、いない、…思い至らないな。
家系図は、一度見たことあるけど人族だけだった気がします。
「あ!…もしいるとしたら、グレイ本家から枝分かれした初代アール・グレイ様の奥方様が、正体不明の銀髪の綺麗な人だったと言い伝えを、父さんから聞いた覚えがあります。白狼ならば銀髪かな?なんてね。でもその御先祖様ならば、荒唐無稽な話ししかないよ。たしか、盗賊が襲来した際、折悪く病気で倒れた夫を救けるため、夜空を飛んで、口から超音波を発し敵を薙ぎ倒したとか、線が細いのに、盗賊の頭目の脚を掴んで、怪力を発揮して、振り回し、盗賊達を成敗したとか信じられない逸話まである…多分、嘘に違いないけど。」
…などと思い出しながら話したら、「その方です!」と、その場にいる獣人達全員から総突っ込みされた。
え?あ!、そう?
19年生きてきて、初めて分かる事実です。
だって、当人の名前すら伝わっていないし、逸話も、当主が倒れるという絶体絶命の危機であった時だけだから、よっぽど表には出たくなかったのかなっと、単純に、生粋の引き篭もりかと思ってました。
実は、白狼族であることを、ひた隠しにしていたのですね。
…誤解してました。
御先祖様、御免なさい。
「でも、僕、見た目が全然白狼族ではないよ。何で皆んな分かったの?」
素朴な疑問を問うてみると、皆が絶句するなか、ラピスだけが僕に同意するように、「そやそや、なんでや?こいつ偽もんかもしれんで。」と言って、クララに又感電させられていた。