忠義
ラピスちゃんが、小生意気な態度を僕に対して、取って来てるのは分かっているつもりです。
それは歳下の従兄弟が、僕に張り合う前世の記憶を思い出し懐かしささえ感じます。
通算一世紀近くの記憶を持つ僕からしてみたら、微笑ましい光景で、本気にはなれません。
だから、適当に追いかけっこして遊んでいたら、ほどよく身体が解れてしまいました。
それに身体中の筋肉を全て使って、追いかけて、追い詰めるのは、何やら妙な高揚感を感じてしまった。
獲物を追い掛けるハンターの気持ちって、こんな感じ?
身体のエンジン駆けるのにちょうど良い運動になるし、何しろ、走って、跳んで、急発進、急停止、ジグザグ右左折、グルグル回転したり、ラピスちゃんたら、緩急自在の動きで追ていくだけで、非常に良い運動になります。
…また明日も、やりたいデス。
充実感あり、嬉しい気持ちで思わずラピスちゃんの頭を撫でると、ビクッとしてたけど、僕たち確実に距離感が縮まったよね?
これってもう…友達と言えちゃうかも?!
多少のフワワな高揚に幸せを感じていたら、クラウディアちゃんから、いきなり忠誠を誓われた。
「アールグレイ様、この場にいる三名、我らが生涯の主を貴女様と定め、忠義を全うすると誓います。…ご了承いただけますか?」
え?!?
シレーヌさんも連座し、ラピスちゃんに至っては、隣りに座っているクラウディアちゃんから、無理矢理頭を押さえつけられ、三人揃って頭を下げている状態。
思わず周りを見渡す。
…
ここには、僕しかいないことを、確認した。
士官講習初日に、初対面で何故、同部屋の三人から主とされなければならないのかが、…分けがわからない。
しかし、実際に僕の目前には土下座している三人がいる。
…
…
途中ラピスちゃんがジタバタし出したけど、クラウディアちゃんの伸ばしていた手がピカッと光り雷が走ったら、大人しくなってクタッとなった。
…
…困った。
困ったけど、どうやらクラウディアちゃんとシレーヌさんは、僕が返答するまで、頭を上げる気はないらしい。
「僕たち初対面だし、いきなり主と言われても…まずは友達からでは、どうですか?」
これは、僕にしては真っ当な意見ではないかと思う。
確かにクラウディア准尉達は、ギルドのレッドだから、社会的地位もある立派な人達であると思うし、言動や人柄に一定の信をおける。
自分がレッドなので、自画自賛的な言い方にどうしてもなってしまうけど、このトビラ都市において、冒険者のレッドクラスは、客観的に見ても、信用信頼度でトップクラスな格付けです。
前世の職業で例えれば、自衛隊のレンジャー一個大隊の強さを持って腰軽く巷を彷徨く強力な権限と実力を兼ね備えた裁判官兼執行官のような印象です。
…
でも…身元確かで、立派な人達であると分かっていても、会った初日に主人になるとかは、何か違うと思うのだ。
ん…しかし、僕には前科があったと思いつく。
アナスタシアから騎士の誓いを立てられた時も、実は会った初日には違いない。
しかしながら、あれは諸事情があったから別枠ですよと自分の中で反論してみる。
「…何卒お願い致しまする。」
僕の断りの言葉に、三人の頭が更に低くなり、お願いしながら額が床に張り付いた。
僕が了承しないと、まるで生命が無いように必死な掠れた声のお願いに、クラウディアちゃん達も、もしかしたら何か諸事情があるのかもしれないと…思い至った。
何より、15歳位の女の子をいつまでも床に額着かせてるわけにはいかない。
僕の中で、理屈より情に天秤が傾いた。
溜め息をつきながら、友達と兼務だからねと、再三念押しして了承した。
それにつけても、何だか最近、家来が増えていくのは何故であろうか?
やれやれと…僕がそんな思いに馳せてると、僕の了承の言葉を聞いた途端にガバっと頭を上げたクラウディアちゃんは、「私めのことはクララとお呼び捨て下さい。…早速、私は関係各局に周知して参ります。しからば失礼します。」と言いたて、満足顔で部屋を飛び出していった。
…
元気いっぱい、瞳が輝いて、とっても嬉しそうであった。
まあ…あんなにも喜んでいるのであれば、まあ、いっかと思わないでもない。
いや、しかし…。
シレーヌさんが、「さあさあ、姫様、お片付け致しましょう。」と、まるで昔からの僕の側付きだったような、自然な感じを醸し出しながら、僕の荷物の荷解きを手伝い始める。
テキパキと手伝ってくれるのを見て、この人も、なし崩しに家来になっちゃったけど良いのかしら?と思う。
…
そもそも、白狼様とか、姫君様とかって何?
尊敬の念を込められながら獣人達から僕、そう呼ばれ続けているけど、いったい、それってなんなん?




