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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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挨拶は大事です

 あの後、同部屋の三人とは、多少のぎごちなさは残ったけど、仲直りした。

 

 いやいや、最初から喧嘩してないけどね。

 ラピスちゃんの人を指差すあのポーズは癖らしい。

 「癖だから仕方ないのよね。」と笑顔で僕に向かって、指差しながら本人が教えてくれた。


 そう言えば…学生時代、失礼にも教官を指差した学生の指を、おもむろに無言で掴み平然と折った武術教官がいたなぁ。

 その教官曰く、指差したままの状態は、弱点を晒しているに等しく、機転を利かして、先ずは折るのが定石らしい。

 痛さに泣き叫んで転がる生徒を尻目に淡々と解説してくれた。

 

 するとラピスちゃんは、今までプロフェッショナルには遭遇した事がないということだ。


 …なんたる幸運の持ち主。


 心配になり、教官の話を語り、これからも冒険者を続けたいなら、その癖は直した方が良いと忠告した。

 僕は、ラピスちゃんよりお姉さんだから、先ずは言葉で教えてあげるのだ。


 …僕って優しい。


 本当は、その教官曰く、いきなり体験させるのが肉体に刻み込まれて良いらしいけど、子供にそんな酷いことは出来ないから、次回からで良いかしらと、ラピスちゃんに聞いてみる。

 すると、ラピスちゃんは笑顔を引き攣らせ、血相変えて指を急いで引っ込めた。

 指先を守るように左手で包んで胸元に引っ込ましている。

 

 いやいや…次回からだから、大丈夫だよ。


 指を折られると、その手を活かし切るのは難しい。

 戦うに際し、著しく負担がかかり、生き延びる確率が下がる。

 ああ、本当は、かの教官に倣って鬼となって指を折らなければラピスちゃんの為にはならないのに、心の弱い未熟な僕を許して欲しいと謝る。


 「いっ、いいの。いいのよ。だって姫様は女の子だもの。そんな野蛮なことはしなくてよいのよ…オホホホホッ。」

 ラピスちゃんは、そう言って後退りしながら許してくれた。

 脱兎の如くと形容される逃げ足の速さと、臆病で不戦の姿勢を持つ兎の非戦闘スタイルは、僕が見習いたいところ。

 兎獣人たるラピスちゃんなら、きっと僕と気が合うよね。

 …などと言って、ラピスちゃんに一歩近づいたら、その一歩分ラピスちゃんは後ろに下がった。


 …あれ?

 

 和かに笑顔で、前に出て近づくと、その分ラピスちゃんが退いていく。

 その動きに淀みはなく、速やかで自然な動きです。

 釣られるように追いかける。


 すると、ラピスちゃんは反転して脱兎の如く逃げ出した。


 あ!?…考えるより先に身体が動き、僕はラピスちゃんを追いかけ始めた。

 疾風の如く逃げるラピスちゃん。

 追い掛ける僕。


 …


 …た、楽しい。

 身体が躍動して全身を血流が駆け巡る。



 …

 

 ラピスちゃんは、単に直線で逃げるだけではなく、あらゆる障害物を利用して逃げた。

 それらを時には回避し、時にはぶち破る。

 更に錯覚させて、逃走しようとしてくる。

 そんな逃げ切るための智慧を、頭脳を覚醒させて、瞬時に見破るのは楽しい。


 …


 ラピスちゃんの三次元的な動きには驚き、真似してみる…出来た。



 …



 時折り、振り向いて僕が着いてきているか、眼を身開いて確認してくれている…もっと速くても大丈夫だからと親指を立てて合図を送ってみたりする。


 そうか…これって、もしかしてラピスちゃん流の自己紹介なのかもしれないと閃いた。

 なるほど…これならば、ラピスちゃんの身体性能を観ることが出来る。

 しかも多少でも運動にもなるし、一石二鳥です。


 ラピスちゃんに倣って、空中を一回転しながら、そう思いました。

 


 …




 …それから一時間近く走り切り、ラピスちゃんは元の部屋に戻るとシレーヌさんの背中に隠れました。

 身体がくの字に折れ曲がり、ゼーハーゼーハーと息をしている。


 …ふっ、役者やのう。


 迫真の演技…これが擬態というやつですね。

 僕には無い技能です。

 技の多彩さに感服します。


 しかし…騙されませんよ。


 仮にも体力特化のレッドならば、これくらいでへばるわけがありません。

 ハクバ山探索の最後の方では、魔法特化のウバ君でさえ、これくらいは走り切って平然としてました。


 しかし、…この擬態は中々のものです。

 仲間のレッドの実態を知らなければ、騙されていたかもしれない高度な演技です。

 だが、今世の僕はボッチではないので、自分基準ではない仲間基準も身に付けています。えへん!

 だから、騙されないのです。


 まだまだラピスちゃんの引き出しは多そうですけど、初対面で全部披露してくれるわけではないでしょう。


 うんうん、だから今日の処はこれくらいで…。



 ラピスちゃんの挨拶は受けた。

 だったら返礼しなければ…ならば僕も、一つ挨拶代わり。

 …

 神々に感謝を唱えながら…繋がったと感じたと同時に、両の手を打ち鳴らし、[白響]を周囲に響かせた。

 神気を帯びた白き波動が、僕を中心に、音波とともに広がっていく。

 「ゼーハー、あ、あんた、…いい加減に、…グヘシ!」 

 あ!ちょうど起き上がったラピスちゃんに波動がぶち当たっちゃった。

 彼女は、吹っ飛んで倒れた。


 この波動は、悪意、敵意以外にも妄想、煩悩…そして僕に対する競争心にも反応してしまうことがある。

 どう違いを分けてるのか、この違いは、僕には分からないけど。


 辺りが神気に満ち浄化されていく。

 僕に害なす虫などは、自動的に浄化消滅してしまう、恐るべき便利な技です。

 もちろん、皆んなにとっても役にたっていることでしょう。

 現に、シレーヌさんやクラウディアちゃんは、気持ち良さそうにしている。

 疲労回復に効果あり、病んだ部分も直してくれます。

 cleanの魔法に似ているけど、こちらは魂まで浄化してくれる優れものです。




 これを持って、僕の挨拶と代えさせていただきます。







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