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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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クラウディアの憂鬱(前編)

 ああ、吃驚しました。

 だって、ラピスったら、初対面でいきなり、白狼の姫君に、あんな挑戦的な態度とるのだもの。

 

 瞬間、私はラピスの死を予感しました。





 …






 この場で、私の自己紹介をしときましょう。

 私の名は、クラウディア・ラ・アリス。

 年齢15歳、所族は柴犬獣人族であり、魔導師の資格を有する新進気鋭のギルドのレッドとは私のことです。

 いつもは、山羊獣人族のシレーヌ姉様と兎獣人族のラピスと組んで、主に護衛系の依頼を請け負って、生計を立てている。

 私達が獣人で組んでいるのは、単に仲が良いからで他意はない。


 獣人が、多数を占める純粋な人族から未だに下に見られる傾向があるのは、まごう事なき事実だけど、しかし、これは、私の思惑とは別にしても、お互い様なので、気にしてはいない。

 第一気にしても現実が変わることはない。

 人族と獣人族とは、違いがある。

 ただ、それだけの話しで、そこに尊卑の概念を適用するかしないかは、個々の資質による。

 その判断が、私もその人を判断できる材料になる。


 私達獣人は、人族より早く独り立ちをする。

 5、6歳で、親の仕事を真似て働き始めて、10歳を過ぎる頃には、独立を果たす。

 私は、魔法の才能を見出されて奨学金の特例生として学校で魔法を学んだ。

 …スキップして5年早く卒業したけど。

 その後、獣人のコミュニティで、シレーヌ姉様を紹介され、仲間になり、ギルドでラピスに出会って、三人となり、仕事を請け負いながら現在に至るのだ。


 この度、ギルドの特例制度に乗っかり、私達は遂にギルドのレッドたる資格を得た。

 これは、獣人族の中でも若手では出世頭と言っていいほど。

 魔法の叡智に比べたら、それほどに興味はないけど、友達や両親からは、褒められたりしたので、些か鼻が高い。

 それに貰う報酬が格段に上がる。

 …これは嬉しい。

 ラピスは、大したことはないからと言っていたけど、彼女の耳がピンと立っていたので、嬉しくないはずはない。


 しかし、調子に乗りすぎです。

 若気のいたりとはいえ、畏れを知らないとは、恐ろしいことだ。


 …



 白狼の姫君は、あの細腕で、大戦士を拝命しているウルフェン兄さんを力で一蹴してしまうほどの力の持ち主。


 でも、それだけでないことを私は知っている。


 姫君の身体を纏っている超極薄の感知できないほどの膜の微少な照り返し…魔力眼で、凝視していた私以外、誰も感知出来ないほどの超絶技巧の技から作出されたガラスを薄く伸ばしたようなシャボンのような膜です。

 アレを作成するのは才能だけでは足り得ない…これまでに如何程の研鑽を積んだのか考えただけで気が遠くなるほどです。

 若手の中では最先端を走っていると、少しだけ自負していた自分が恥ずかしい。

 しかも、アノ膜の表面の紋様が動いているのを見た時は、しばらくは信じられなかった。

 紋様が流動して渦を巻き、刻一刻と表面の模様が変化していたのです。

 !

 何コレ?…こんな魔法、見たことがありません。

 けど、見れば見るほどに、信じられないくらい精緻な魔術の冴えです。

 ウルフェン兄様を倒すほどの闘士でありながら、超一流の魔法使い…?

 少なくとも魔導師を拝命した私の遥か先をいく魔術師には違いない。

 

 姫君が[白狼の咆哮(ホワイト・ハウリング)]を発動させ、神威を周囲に鳴り響かせた時、私は咄嗟に耳を塞いで伏せった。

 だが、それでも私は、伏せながら魔力眼で姫君を見続けた。

 アノ魔力の膜は、姫君が咆哮してる間も変わらずに、展開しており活動し続けていた。

 あれ程の複雑怪奇な紋様なのに常時展開型の魔法?!

 感動なのか、神威の影響なのか、畏怖なのか訳が分からないながら、私は身体の震えが止まらなかった。

 

 気がつけば、隣りで私と同様に咄嗟に伏せったシレーヌ姉様が、ガタガタと震えている。

 姉様は剣術の達人で、察知にも定評がある。

 もしかしたら、微細な超絶技巧の魔力を感じとったの?


 …違いました。

 ウルフェン兄さんが、投げ飛ばされた後に聞いたら、あの時、試しに姫君を投影してイメージで戦ってみたら、一瞬の刹那で刀ごと粉微塵に斬殺されたらしく、次は抜く前に斬られ、終には抜くと心が決める前に真っ二つにされ、火柱に包まれ灰となり散る夢想を見せられたらしく…幻想にも関わらず憔悴しきっていました。

 …ゴクリ。

 白狼の姫君、恐るべし。


 伝説では、白狼姫は神の巫女として獣人族全体の窮地の際、現れて指針を決定するお方。

 言わば非常時の最高指揮官。

 その姿は伝説では、麗しく美麗で秀麗、光り輝く容姿を持ち、瞬時の力は大戦士を凌ぎ、その魔力は魔導師を遥か下に置く。

 広大無辺な御心と、先を見通す眼力に優れ、古老の知恵と勇者の如き恐怖に打ち勝つ精神を持つ。

 月の出る夜には、空をも飛んでいくとも言われてます。


 白狼族自体存在はしてますが、その数は少なく表に出て来ることは、滅多にありません。

 噂があっても大抵は偽物です。

 しかし、本物だと鑑定は可能なのです。

 それが、只今姫君が発動されている[白狼の咆哮(ホワイト・ハウリング)]なのです。

 神気を内包した白狼族特有の武威を咆哮に乗せ、天地を震わせてるこの御技は、実は白狼の王家の血族にしか出来ぬ秘技。

 偽物には、とうてい真似できないのです。

 何しろ、この技の咆哮の波動には、自己の思考が明け透けに反映されてしまうので、余程心が透明で真白な人でなければ使えないのです。


 私は、…感じました。

 あの方が真実(まこと)に本物の白狼の姫君様だと。


 だって、畏怖するほどの力強いその波動に晒された時、私には脳裏に姫君の心のイメージが見えたのです。

 広大で無窮な青空に吹く風と煌めく陽の光りに、泣きたいほどの暖かみと慈しみの心を感じました。

 次いで夜空に輝く月明かりを見えたときは、弱きものを打ち据えることに対しての純粋な怒りと哀しみ…怜悧な決断と罪を背負う重い覚悟、しかしその先に灯る希望を感じ取ることができました。

 …最後に欠伸した猫が幸せそうに寝てるのを見たのは、愛嬌だと思います。

 これだけ、赤裸々に自己の御心を開示されては、参りましたと言うほかありません。


 特に、自分より弱きものに対しての愛しみの御心は、こちらが恥ずかしくなるほどで、もし敵対したとしても、とうてい嫌いにはなれない。

 だって、…私達は彼女に愛されている。

 そんな人を嫌いになるのは難しい。


 ああ…私は、本当に綺麗なものを見たとき、心が震えることが初めて分かりました。


 畏怖しながらも、涙が自然と、溢れ落ちました。


 迫害されやすい私達、獣人達に取って、白狼の姫君は、地上に顕現された獣人の神と同一であったと、古代の書物に記載された一文に得心がいきました。

 知識と経験が合一したのです。

 感動に心震える。


 咆哮が止んでも、私は、この畏れ多いお方に対して、自然と頭が垂れて、大地にいつまでも額着いていました。


 私だけでなく、この場にいる獣人の皆が、理屈ではなく感じた筈です。

 たとえ姿は人族でも、この方は本物の白狼の姫君であり、私達の遥かな高みにいる方でありながら、地上に顕現された神であると。


 しかし、私達は考えました。

 最後に見た欠伸してる猫…あれの意味は…多分、姫君様は崇拝されることを望まれてはいないのだ。

 あれでワザとお茶を濁された?

 大昔に姫君様が顕現された時代…古代の書物の内容を早急に思い出す。

 …

 夜、月を観ながら寂しげに涙を人知れず流す姫君の絵と、神は孤独なり、の一文。

 …

 ああ、神は孤独に弱いのだ…一人にさせてはいけない。

 私は、周りにこの話と私の推論を伝えた。

 周りの獣人達も頷き、私の気持ちが伝わったことを感じた。

 だから私達は、気持ちを一つにして姫君の周りを固めました。

 姫君が移動した時には、ほぼ全員で付いていく。

 …

 だが、些か大袈裟になってしまったようだ。

 なにしろ、自然な気持ちの発露で個々に行動してるから調整するものがいなかったのだ。

 途中、獅子族のシンバ様の政治力で掣肘されてしまいました…無念。


 寄宿舎に向かう途中、ルームメイトになったシレーヌ姉様と兎獣人のラピスと合流する。

 実はこの部屋割りの編成は偶然ではない。

 王族のシンバ様と、お隠れの白狼神族の代行者たる大戦士ウルフェン兄様の政治力でねじ込んだと推測される。

 だって、私達3人はギルドでチームを組んでいる。

 そして例外を除けば、私達のチームは若手で一二を争う程の強さなのだ。

 チーム内バランスが良く、特に護衛に関しては実績を積んでおり、ギルドでも若手ではトップクラス。

 やんごとなき姫君の護衛にはうってつけです。

 改心したウルフェン兄様にも頼まれましたし。

 因みにウルフェン兄様は、私の従兄に当たる。


 最近、大戦士の責任と立場から獣人全体の行く末を悩み抜いて心が荒んでしまっていた兄様ですが、話し掛けられ姫君のことを頼まれた時、元の優しい顔つきの昔の兄様に戻っていました。

 だからというわけでもないですが、この任務は、つつがなく達成しなければなりません。


 しかし、ここで私は一つポカをしてしまいました。

 ラピスには、白狼の姫君の護衛任務を話しましたが、この子は、白狼の姫君様が披露した[白狼の咆哮(ホワイトハウリング)]を発動させた、あの場には実は居なかったのです。

 寝坊して、遅刻ではないもののバスの発車ギリギリに来ていたのです。

 そして、歴史に疎くて、学業を疎かにしたのか、伝説を御伽話程度と認識している。

 更に自分本位で、地位や権力には興味も敬意も示さないあの性格。

 そして、何も考えず、楽天的前向きな気質、更に挑戦的で向上心の塊のお馬鹿さんなのを、すっかり忘れていました。

 …その性格、気質は、それほど悪くはないと思います。

 でも、今回は、それが裏目に出ました。


 



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