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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
441/618

初日・寄宿舎にて(中編)

 姦しい女の子三人組は、お互い知り合いみたい。

 むむっ、…これは出遅れたかも。


 大丈夫、僕、ボッチには慣れている。


 しかし、仲良くしてくれるならば、それはそれで嬉しく思う所存です…。

 ここら辺の人見知りするコミ障具合な心のあり様は、前世から僕全く進化していないよ。

 魂に根づいてるとしたら、もしかしたら、恐るべきことに直らないのかもしれないと内心恐れ慄く。

 しかも相手は、若い女の子三人組です。

 強敵です…精神的に負荷が掛かってる…肩に重しが乗って舌が回らない…できるならばスルーしたい。


 いや、大丈夫です…だって今世は僕も女の子だものと、自分に言い聞かせる。


 しかし、そんな心配は杞憂だった。


 「白狼様は、そちらのベッドでよろしいのですか?」

 歳の頃は22、3歳、グレイの長髪をした細身のお姉さんから声を掛けられた。

 優しげな顔立ちと声色なのに、刃を鞘に入れたような迫力を仄かに感じさせる。

 山羊か羊のような耳をしてる以外に獣人たる要素は見受けられない。

 後から聞いた話によると、アルプス・アイベックスなる山羊の一種の獣人で、名前はシレーヌ・ボーノ・メリーさん、戦闘タイプは、長物から小物や暗器まで使える、刀使いがメインのオールラウンダーらしいです。

 

 僕は、声を掛けられた事にドキドキしながら、うんうん頷いた。

 おお…立派な大人な人がいる。

 あちらから声を掛けてくれるなんて、本当に助かります。


 僕も仕事と割り切れば、或いは役割りに徹すれば….出来ないこともないですよ。

 でも日常生活では、気が弱くて大人しい、人見知りする(たち)なので、初対面の人に、こちらから声を掛けるなんて、到底無理、無理。

 だから、こんな風に日常で気遣いできる人を尊敬します。


 続いて年若い甲高い声がした。

 「じゃあ、ワタシ、姫様の上がいい!」

 僕より歳下の、年齢15歳位の長い耳をして、ウェイブぎみの金髪を肩の上辺りで切り揃えた子で、元気溌剌、その場でピョンピョン跳んでいる。

 何の獣人かは、一目でわかりました。

 戦闘スタイルは、多分…徒手格闘系かな?

 身体の力のベクトルが縦横無尽に流れているのを感じられる。達人によく見るスムーズな流れに戦闘センスの高さがうかがえる。

 ああ、この子、極稀に見る格闘の天才だわと腑に落ちる。

 「私、ラピス・アンジェリカと言います。宜しくね、白狼の姫様。」

 甘くて丁寧な物腰で、僕を姫様呼びしてるけど、目が挑戦的に僕を舐めるように見て、口角の両端を上げ、左手を腰に、右手の人差し指を僕に突き付けて来た。

 !

 うん…?握手でなく指?

 もしかして、僕、煽られてる?


 ああ…これだけ天性の素質に秀でたら、驕っちゃうのも無理ないかも。

 でも…惜しいなぁと淋しく思う。

 もし、僕が、そんな高性能の格闘センスがあったならば、もっと有意義に使えたはず。


 「…貴女よりも、私…キャ!あ、あああ…。」

 そんなラピスが、突如、悲鳴を上げて、そのままのポーズで倒れた。

 ラピスが前のめりに倒れたことで、更に小さな黒髪の少女が後ろにいることが分かった。

 拝むように右手を胸の前で指先を立てている。

 その右手からパチパチと光りが放射していた。

 その表情は、半眼で少し怒り気味かも。

 「ラピス、白狼の姫君に無礼であるぞ。控えおろう。大戦士殿から代理を頼まれた我の顔を潰す気か?!この痴れ者が!」

 可愛い顔が台無しの厳しい物言いです。


 あの右手の光りは…放電?


 目線を下に移せば、ラピスなる兎ガールが倒れた状態で痺れたようにピクピクしている。

 雷魔法を発動した女の子は、頭から犬耳をピンと立てている。歳の頃は15歳前後。

 ラピスより、更に幼い。

 この歳で、難しい雷魔法を無詠唱で、いとも簡単に発動させている…魔法の天才と言ってよい。

 度重なる若い才能の煌めきを目の当たりにして、頭がクラクラする。…天才って、いるところには居るのですね。

 「姫君よ、我は柴犬の獣人、魔導師を拝命しているクラウディア・ラ・アリスと申す。我に免じてこの痴れ者を、どうか赦して欲しい。彼女は、幼くてあまりにも浅慮ですが、悪気はないのです。」

 そう言って、頭を深々と下げた。




 …頭を、上げようとしない。


 …


 「…赦します。」

 クラウディアちゃんは、僕の言葉で、ようやく頭を上げた。

 うんうん…夏季講習の合宿初日から、少女達の麗しい友情を見せられては、もう赦すしかないよ。

 どうやら、今世の僕の心は、感情の振れ幅が大きいみたい。

 僕よりも幼い少女達の友情を垣間見て、感動している。

 クラウディアちゃんは、小さいのに凛々しくて優しいのですね。

 …偉いなぁ。


 そして、実は僕、注意するための実力行使の手加減が難しいので、少し安堵しました。

 









 

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