初日・寄宿舎にて(前編)
荷物を持って寄宿舎に入る手前。
僕の後ろには、ショコラちゃんやシンバ達が控えている。
ふむふむ…なかなかに古き趣きがある。
これぞ、鄙びた作らえに、伝統、年月を感じます。
この寄宿舎で、先輩諸兄らが学友と共に勉学に明け暮れていたかと思うと想像するだに感無量です。
…
僕が寄宿舎の前で感動に立ち止まり、想像の余韻に浸っていると、ペンペン様が、クェクェ言いながら些少の荷物を持ち、僕を追い越して寄宿舎の中へ入っていった。
ペンペン様は、リアリストなのだ。
現実を直視し今を生きる。
うんうん…素晴らしいけど、少し情緒も欲しい気がします。
古きものに悠久の時の流れと記憶を感じとるのを良しとする…懐古趣味を同じくする人とは、古今通じて現実に会ったことがない。
これは残念の極みなり。
大なり小なり、皆、昔を懐かしむ気持ちはあるはずなのになぁと残念に思ったりして。
寄宿舎を改めて外から観察する。
二階建ての赤い屋根、真中に塔が突き出している。
壁は白く塗られた木板を重ねて整然と並んでいる。
窓は大きく、窓枠のデザインが典雅で美しい。
よく見ると細かな処にまで装飾が施されている。
建てた人の思い入れを感じる。
古き年月を経ているのは一目見て分かる。
だが丁寧に補修され、大切に管理されているのだ。
見栄えが良く、美しささえ感じる。
…映える。
建物の美観が、背景の緑と青空にとても映えますよ。
キャー!
内心で、喜びの悲鳴を上げる。
素晴らしい、スパシーボです。
これぞ、マリアージュの極みです。
ルンルン気分で、ギシギシいいながらの敷居を跨ぎ、ペンペン様に続いて寄宿舎の入り口をくぐる。
中廊下を通り、ペンペン様に続いて指定の部屋に入ると、4人部屋の相部屋でした。
二段ベッドが二つあり、窓際に机が4つあります。
共有スペースは、中央にあつらえたテーブルだけです。
見事にパーソナルなスペースが何もありませんね。
まだ部屋には誰もいません。
僕らが一番乗りのようです。
…
うーん、ここで二ヶ月暮らすのですか…?
学校時代の寄宿舎は、気心の知れた親友と二人部屋であったし、洗面、シャワー室、台所まで完備されてて、もう少し広かった気がする。
ここでは、もう寝るか勉強するしかない。
士官学校側の意図が明け透けにみえるようだ。
テンションが下がった僕をしりめに、ウキョウキョと楽しげに鳴きながら、ペンペン様がベッドに寝転んでいる。
その様子は、まるで、旅行にでも来てるかのよう。
いつもと変わらぬペンペン様のあり様にホッとする。
ああ…つまり、そのベッドが僕のベッドになるのですね。
「ああ、ここや、ここや。」
「あっ、白狼様と一緒だ。」
「皆様、粗相のないようにね。」
姦しい若々しいはずんだ声が聴こえてきて、部屋に入って来たのは、3人の獣人の女の子達です。
皆んな、僕の知らない子達です。
どうやら、ショコラちゃん達とは、別部屋になってしまったよう。
これは、もしかしたら同期で固まらぬようにシャッフルされたのかもしれない。




