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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
438/618

車中にて…(裏)

 …送迎バスの車中は、地獄だった。






 一人ならば、幾らでも耐えられよう。

 しかし、狭い車中で、周りは鍛え抜かれたゴツイ男ばかり、ゴツさの密集率が半端ない。

 因みにエアコンなる高性能な機能は、このバスにはない。


 ヒーー!…狭い、暑い、臭い。


 三重苦だ…思わず俺は、思いのたけを口に出していた。

「地獄じゃ。周りがゴツい男ばかりで、癒しがねえー、泣けてくるー。」

 苦渋に喘ぐ、俺の魂の叫びだ。


 俺の心情を吐露した言葉に、すかさず周りから、不平不満の色を帯びた叱責が返ってきた。

 「…お互いさまじゃい。文句あるなら降りやがれ!」

 「おめぇ、泣き言言うなゃあ。男らしくないで。」

 「狭いぞい!…あ、足踏まれた。誰やねん?」


 ケッ、むさい男共の言葉など傾聴に値しない。

 実に耳障りだ。

 …無視だ、無視!


 獣人のデカい男どもにサンドイッチ状に挟まれ潰され息も絶え絶えで、新鮮な空気が吸いたいと上を向き、金魚のように口をパクパク開けば、男の汗臭い匂いがプンと鼻につく。

 …

 ohー、Noー

 お前ら、風呂ぐらい入れや!

 鼻が曲がる…もう耐えられない。

 着くまでに1時間は、ゆうに掛かる。

 時間を考えると、…気が遠くなりそうだ。


 …このままでは、マズイ。


 そこで俺、アプル・フォーチュンから、意識が遠くなりかけながら一つ提案したいと、息も絶えだえに挙手して訴えた。

 !

 後ろに、ハイ、ハイと手を振りアピールする。

 訴え先は、車内において最上位の階級であるあの人であるから、座っている最後尾の席に目を移す。



 そこには周りに美女、美少女を侍らしながら、ゆったり座り、眠そうにしているアールグレイ少尉殿がいた。

 相変わらず、見れば見るほど鼻血が出そうな、魅力的な身姿だ。


 彼女は瞼を閉じて、ウツラウツラしている…儚くて清楚で綺麗で可愛い…周りに神秘的で神聖な輝きを放っている。

 

 まるで地獄の底から、雲の合間に垣間見えた、天上画のようだ。

 その上、後方から、ほんの微かに冷気が流れてくる。

 …冷気の魔法使いが最後尾に居るのか?!

 快適で寝れるほどの環境が羨ましい…こりゃあまりにも格差があり過ぎる。


 …それにしてもアールグレイ少尉殿が座っている辺りは天国のよう…なんて羨ましい。…この狭い車中で天国と地獄が顕現している。

 こ、これは不平等窮まりない。

 …羨ましすぎて、涙が出てくるわ。



 だから、この意見は、今、この地獄から逃げ出したい俺の魂の叫びでもある。

 そもそも、大きくてゴツい男共だけを密集させるから、こんな地獄が現れるのだ。

 …間に小さな可愛い女子を挟めば、この密集率は平均化される。

 必然、男が多い職場とはいえ、片側だけでも女子を配置するならば、…さすればこの地獄は緩和されるに違いない。

 必死に、後ろに向かって情熱を込めて理路整然に説明する。

 俺の真っ当な意見と華麗なプレゼンに、周りの男どもが期待してソワソワしだしたのが気配で分かる。

 …

 どうだ?この俺の起死回生の策は?

 今回最大派閥である獣人の男どもは、女に阿るなど気にいらんとストイックさを気取って格好付けてやがる。

 …とは言え、正直女子とはお近づきになりたいに違いない。

 これは、俺の周りの男どもの密集率を下げ、より良い環境を作ると同時に、これからの男女友好の場を設けることでもあるのだ。

 …女子達も、男からの積極的なアプローチならば薮坂ではないはず…無碍にはしないだろう。


 そして、俺は心の平穏を取り戻せるのだ。

 まさに一石三鳥の策!

 この際、贅沢は言わない。

 畏れ多いアールグレイ少尉殿の隣りでも、俺は構わない。

 きっと芳しい香りに包まれて、天国のようにスヤスヤと安らかに寝れるかもしれない。

 この俺の起死回生の策。

 もし名付けるならば、天上から糸を垂らして地獄に落ちた罪人を救おうとしたお釈迦様の故事にちなんで…蜘蛛の糸作戦だぁ!


 …どや?(ニヤリ)


 俺の秀逸な内容の意見具申(魂のシャウト!)に、動き始めたバスの車内の喧騒が静まり返る。

 そして、俺のプレゼンは終わった。

 返答は如何に?



 … …




 少尉殿が、眠そうに欠伸を堪えながら、身じろぎもせず、こちらも見もせずに回答した。

 「…却下。」

 

 …そして、瞼を閉じた。

 


 え?



 …



 …


 静寂漂う車内に、クゥクゥと静かな寝息が聴こえ始めた。

 相当眠かったらしい…。




 …そ! そそそ、そんなー馬鹿なー!?!


 「このやろ、このやろ、期待させやがって。」

 「こいつめ、こいつめ。どうしてくれる!」

 「ふざけるな、チクショーめ。」


 あ、あ、痛い。

 いたたた…。

 期待させた分、周りからの落胆からの当たりが激しい。


 グハッ!

 チクショーメ、やられたらやり返す、倍返しだ。


 だが狭い車中では、互いに避けることは、できない。

 仲間内なので、不文律により武器も魔法も禁止である。


 原始的にお互いに、殴りあいになった。




 …







 …着く頃には、皆疲労困憊しながら、互いにもたれ合い身体の痛みに耐えながら…座席で寝れた。

 殴りあった周りの獣人達とは、何故かこの後、仲良くなった。




 

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