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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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獅子の心

 平和が好きです。


 争わないのが一番で、僕は争うくらいならば逃げます。

 もし、それでも来るならば、もはや戦うしかないけど。


 獣は群れを形成する場合、格付けで順位が決まっているという。

 これは、争わないためには有効で、もし平等ならば争いが絶えなく、その群れは滅ぶであろう。

 もっとも平等な群れなど見たことないから、淘汰されてしまったのだろう。

 それでも平等を優先するならば…争うほどの力がない無気力な、阿片が蔓延したような平和な群れくらいしか想像できない。



 何が言いたいかと言うと、獣人達の中では序列があるのが通常であると昔、親友に聞いた覚えがあるのです。

 当時、あるのが不思議そうに答えたら「…何を言う?今、貴女が所属する人族にも序列はあるでないか?」と逆に不思議そうに応えられたのを思い出しました。


 つまり、獣人族の大戦士を自称していたウルフェンを投げ飛ばした僕は、獣人達の中の格付けで、かなり高い位置にランクインされたらしい…。


 何故なら、あれから、力を使ってお腹空いた僕に食べ物を献上してくれるなど獣人達から接待が続いたのだ。

 獣人達の見目麗しい女の子達が周りに侍り、ぼくの一挙手一投足に注意を払い、小間使いのように甲斐甲斐しく世話してくれる。

 更にその周りを屈強な男衆が、僕らを護るようにかたまっていて周囲を警戒している。

 何しろレッドの獣人達だけでも、20人近くいた。

 見送りの者まで含めるとその数は倍以上に膨れ上がる。

 そんな幾重のモフモフ層に阻まれショコラちゃん達とも合流出来てない。


 あれれ?コレってハーレム?

 或いは拉致監禁?


 もし、前世の男のままだったら天国に昇るような夢心地であったのだろう。

 何しろ周りは、若い可愛い女の子ばかり。

 でも今の僕は女の子だから、獣人達の好意には嬉しく感じるものの…それ程ではなく困惑の度が強い。

 何しろトイレの中まで付いてくるのだ。

 何処に移動するにしても、僕を中心に群れが移動する。


 うーん、これには困りました。

 僕には、前世のように孤独を好む癖はありません。

 でも、一人でいる大切さも知っています。

 周りに侍る彼女らからは、好意と善意しか感じられず、だからこそ困りました。


 ああ、こんな時、親友がいてくれたなら…。

 …

 あれ?そう言えば、学生時代にも似たようなことがありました。

 僕が学校に在籍当時、全体の学生数からしたら少ないながらも、貴族の獣人らやそのお付きの者、優秀な在野の獣人達も在籍していて、集団を形成していました。

 ある時、彼らの中の乱暴者を懲らしめたら、今回と似た状態になりました。

 たしか、あの時は…親友に困っている旨話したら、元の状態に戻りましたね。


 …周りを見渡すと、ウルフェン君の同期の眠そうな眼をした女の子と、遠間で目が合いました。

 んん…確か彼女は、自称大戦士たるウルフェン君に対して、ぞんざいな物言いをしてました。

 きっと獣人達の中でも高位の一族かもしれない。


 手を小さく振って、用事がある旨を彼女に知らせる。

 最初、その場に留まっていた彼女ですが、僕がしつこく手を振り続けると、溜め息を一つつき、トコトコ近づいてきた。

 「で…何?」

 うん、敬意も敵意もないニュートラルな反応は、あの時の親友の反応にソックリで、これは期待できるかも。

 僕は、周りのお付きの獣人らを一時的に直近から人払いしてもらうと、好意は嬉しいが距離感が近過ぎて困っている旨を彼女に相談した。

 …

 聞き終えた彼女は、しばし眼を閉じて考え込む。

 …

 直近で見ると、彼女は人形の様に美しいのが分かる。

 僕より小柄で歳下であるのは分かっていた。

 腰まである波打つ金髪は豪華なほどに輝いて、シミ一つない白い肌に映えている。

 閉じた目元を含む顔の造作が精緻と言えるほどに美しいのに、全体的に妙な迫力がある。

 猫耳がついてるので、猫系統の獣人であるには違いないと思う。

 その沈思黙考する姿は、王者の風格さえ漂う…。


 あ!…ライオンさんです。

 僕はピンッと来てしまった。


 うんうん…その姿は、サバンナに佇むライオンを彷彿とさせます。

 カッコ良くて可愛いです。

 …気持ちがムズムズします。

 撫でたい気持ちと、撫でて噛みつかれたらどうしようと思う気持ちが錯綜する。


 彼女が眼を開けた。

 ジト目で見られる。

 「…何か失礼なこと考えてません?私達はいきなり噛みついたりしません。」


 あう…思考がダダ漏れでしたか?

 反省、反省、表層思考を読まれるなど、まだまだ未熟であります。

 彼女は読心もこなすらしい…僕の後輩らは優秀でありますね。

 ホッコリとした誇れる気持ちが湧き上がる。

 「…お気持ちは了解しました。さすれば人数を減らしましょう。」

 彼女の顔が薄っすらと朱に染まっている。


 それから、彼女は彼方此方歩き回り、その度に僕の周りから人数は減り、最終的には戻って来た彼女一人になった。

 「お付きは私に一本化した…シンバと呼んで!」

 一働きして満足そうな感がある彼女は名乗った。

 それから、少し申し訳なさそうに、獅子王族の自分より高位の獣人には会ったことないから言葉遣いは失礼するかもしれないけど、決して本意でないので許して欲しいと、ことわってきた。

 

 ん…え?僕、獣人ではないよ。


 すると、シンバは、僕の頭をおもむろに両手でガシッと摑むと、僕の眼を覗きこんできた。

 予測外の動きには全く対応できません。

 それでもシンバの真剣な顔つきに、しばらく動かないでいた。


 …

 

 「… … …ある。…本当に僅かだけど、薄っすらと混じっている。貴女、外見は人族だけど、中身は獣人。」

 …

 …

 …え?

 …

 シンバは、そう言ったきり務めは全部果たしたかの様に、僕の脇に寄り掛かり黙ってしまった。

 しばらくすると寝息が聞こえだした。

 …

 そう言えば、猫系統の獣人らは良く寝るらしい。


 いや、そうではなくて、僕、獣人?

 えーー!?

 いやいや、違うでしょう?

 だって僕の両親やお祖父さんらも人族でした。

 全く寝耳の水の情報です。



 

 それから、ようやく獣人達の幾重の層が剥がれた結果、ショコラちゃん達と合流出来ましたが、僕の頭の中はHatenaマークが沢山浮かび、受け答えがしばらくの間、心無し状態でありました。

 

 

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