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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
433/618

入学SUNDAY③

 彼の言動から推察するに…つまり、同僚に対しマウント取りたいために、弱そうなこの子に目につけ難癖をつけたのですか…?


 …


 僕は怒ってはいない。

 前世にも、この様に、淺ましくもくだらなき考えに拘泥する者らは、少なからずいた。

 辟易しながらも、もう慣れた。

 うん…嫌な慣れ方だなと自分でも思う。

 あまりにも多く経験して飽きてしまい、気分的には、進行方向に犬の糞が捨ててあるなくらいのフラットさです。

 


 性根が腐っているのだろうと思う。

 だから、自分が汚物のような臭気を発していることすら気がつかない。

 大迷惑です。

 せっかくこの世に産まれてきたのに、なんて勿体無い。

 この者の母御も、現状を知ったら、さぞや残念であろう。


 …その者、臭気を纏いて、ギルド前の野に降り立つべし


 プッ…

 妙な言葉が頭に思い浮かんできて、吹き出す。

 

 「テメェ、何笑ってやがる!ああ、やられてえのか!」


 この様な者らは、沸点が低く、馬鹿にされたことを敏感に察する。

 しかもボキャブラリーが貧困で、言葉は擦り切れたテープのように使い古された由緒ある言葉である。

 …何故だろう?

 …

 精神が幼いと言葉の数が少なくて、更に相手を威迫する目的で限定すると、自然と言い回しが決まってしまうのかもしれない。

 かようにしばし、内に黙考してると、喚いていた獣人は益々切れた。


 まるで壊れたスピーカーのようです。

 ちょっと煩い。


 僕に取っては、彼の評価は駄々下がり、道端に落ちていた犬の糞が、生意気にも人間様に対して喋っている感があり、もはや不思議現象でありメルヘンの類いです。

 それは、多分に僕の主観ではなく、彼自身が周りにその様に喧伝しているのだから、僕がそう思うのも仕方無きことだろう。


 その証拠に、余りの彼の頭の悪い言動を見かねた同期と思われる周りで傍観していたレッド達から待ったが掛かった。


 「ウルフェンちゃん、そこら辺で止めといたら?あんまり頭悪い言動されたら、私、同期として恥ずかしいわぁ。」


 「…少尉殿、彼は頭が悪くて、根性が腐ってるだけで、悪い人間では有りません。どうか死刑だけはお赦し下さい。」


 「おお、神よ、彼は一人で獣人の評価を著しく下げています。なんてことでしょう!ああ…彼は自分のやっている事の意味が分かっていない程に幼いのです。どうか、少尉殿のご寛恕を請い願い奉ります。」


 最初の言は、金髪の若い小さい眠そうな目をした女子で、次の言は、メガネを掛けた黒髪の長身の若い男子、最後の言は、獣人の静かな趣きの僕より歳上の男性です。

 全員真新しいレッドの制服に身を包んだ新人将校達です。

 見渡せば、他にも声を掛けずとも心配そうにしている者らが何人かいます。


 …


 …僕は彼を見直した。

 庇う仲間がいるのならば、まだ彼には掬える余地があるのかもしれない。

 僕は彼の評価を、道端に落ちていた犬の糞から、糞のような人間と改めた。

 でも臭いことには変わらないから、あまり近づかないで欲しい。

 ふむ…かろうじて人であるならば、魔法による焼却処分は止めておこうと意思にストップを掛けた。


 …危ない、危ない。

 もう少し遅かったら、彼は炎柱で瞬時に丸焦げで灰となり風に飛んでいるところでした。

 流石に、そこからの復活は無理です。


 今日は本当に良い天気だな…。


 僕は、良くも悪くも未だに人を殺処分にした経験はない。

 今世は他人の生命は貴重としながらも腐った果実を取り除くのに躊躇しない常識ある世界である。


 殺処分後に政府に届出さえすれば罪には問われない。


 その世界に産まれ育った僕も精神構造は常識人であるから、前世の意識が忌避すれども、今世の僕が常識に沿ってやらねばならぬことは理解している。

 今まで、経験がないのは偶々の結果であるに過ぎない。


 しかし、正直、彼の生命を手に掛けない方向に思考がシフトしたのは、ホッとした。


 ウルフェンと言う名前の獣人は、上位の階級への不敬により秩序罰が該当するが、優先する貴族の慣習法では、レッドは貴族格とされ、今回僕も彼もレッドだから、決闘で決着を付けるが妥当であろう。

 しかし本来なら、僕は死をもって償わせるところ、同期3人の嘆願により、情状酌量の余地あり…減刑と処す。

 うんうん…僕の中では既に解決済みな案件です。


 良かった、良かった、誰も傷つかずに済んで本当に良かった。

 

 未だに煩く喚いているウルフェンなる獣人を、僕はジロリと睨んだ。

 指を突きつけ、(いにしえ)の作法に従い口上を述べる。

 「おい、おまえ!僕の耳障りにも程があるぞ。獣人とは、口だけの勇気も礼節も無い種族なのか?それともおまえが馬鹿なだけなのか?文句があるなら口ではなく行動で示せ!さあ、泣け無しの勇気をふり絞りさっさと来い!もし怖いならママの処に泣いて逃げ帰って慰めてもらえ。そして世間知らずなクソガキは二度とギルドの敷居を跨ぐな。」


 …


 まるで天使が通ったかのように、喧騒が静まりかえり、辺りに静寂が満ちた。




 …



 あれ?…口上間違ってないよね?




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