入校準備④
「ああ…友達のお家に呼ばれるなんて初めて…感動ー!」などと言って嬉々として、クルリと回って自宅に入って来たエトワールと、妙な気配を感じたらしいペンペン様が、「ウキャ?」(なんやねん?)玄関先でパタリと出会い、見つめ合っていた。
お互いに顔が強張っている。
ペンペン様の警戒網にエトワールが引っかかったらしい。
うんうん…流石ペンペン様です。
エトワールのヤバさが分かるらしい。
通常ならば僕も自宅内に入れるのを躊躇う。
何故なら、自宅は僕のパーソナルスペースだから。
僕は、日常では緩みに緩み切っている。
安心して緩み切った日常に、緊張感を伴う人は入れたくはない。
そしてエトワールは、ある種の緊張感を伴う人なのです。
…
彼女は、僕にはない領域の人で、これは未知との遭遇です。前世では、遭遇することすらなかった。
もしかしたら、天才たるエトワールと庶民の僕とは、相性が、すこぶる悪く、会話自体が成り立たないかもしれない心配がある。
…仕事中ならば、仕方無いけど、日常生活に高レベルの緊張を保持する事態は望まない。
そこで、僕はハクバ山探索メンバーの女子陣を全員呼び出すことにする。
応援要請です。
うん…エトワールと密室でワンツーマンでは、何だか危ない気がしたのだ。
それにエトワールに教えを請う屈辱を平均化したい。
…これは、僕の気持ちの問題。
僕が端末で、各々方へ連絡つけてる間に、エトワールとぺンペン様の距離がジリジリと近づいて来ている。
…
正確にいうとエトワールが、ジリジリとゆっくりとしたスピードで近づいて来ている。
…
そして、一人と一匹の距離は、段々と…直近となり、エトワールがゆっくりゆっくりと手を伸ばして…ペンペン様の首の辺りを触り、ヒレを摘んで上げてみたり、最後にはお腹を撫でていた。
その間、ペンペン様は、まんじりとして動かず。
(何だコイツは?)と胡乱な目付きをして、エトワールを凝視していた。
…
「…これ、…いる?」
緊張の数瞬間後、そう言って、エトワールが手持ちのバッグから取り出してペンペン様に差し出したのは、エトワールの実家が経営する高級チョコ菓子Morozoffのチョコ玉のセットでした。
…後ほど聞いたけど、脳の栄養補給にいつも持ち歩いているらしい。
途端に、ペンペン様の顔色が変わった。
「…ウキョー(お主も、悪よのぅ。)。」
ペンペン様は、これまでに聞いたことない妙な鳴き方をすると…ヒレを伸ばして真剣な面持ちでチョコを受け取り、部屋の奥へ去って行った。
…心なしか、ステップが軽い。
因みに、括弧内は僕の想像です。
…これって、ペンペン様に入室許可を得られたってこと?
現象面では、食べ物で買収されたとしか見えない。
エトワールが軽く溜め息をつく。
「…フー、流石だなぁ、アール。初めて見たが、アレが魔法生物というものだろう?アールの自宅内に棲息してるとは…さすがの私も、いきなり出会して緊張したぞ。なんて心臓に悪い。だが…実に興味深い。今日は、アールの部屋に招かれるし、魔法生物にも会えた…なんて素晴らしい日なんだ。」
エトワールの顔は、興奮して少し上気している。
うーーん。
…こうして観る分には、普通の娘さんなのにね。
部屋の奥からペンペン様の喜びの鳴き声が聞こえて来た。 どうやら、早速チョコを食べたらしい。