交渉人
俺の名前は、ルフナ・セイロン。御年30歳のナイスガイだ。
今日は、冒険者ギルドに来てやったぜ。
ギルドとは言っちゃいるが、半官半民で出資して運営している仕事の斡旋業社だ。だが、ただの一公社とバカにしちゃいけねぇ。仕事は騎士団が受けることができない仕事を騎士団になり代わって任務を達成するのが仕事だ。つまり騎士団を補完するのが役割の公社直轄下の個人事業主の組合組織だ。だが組合といっても連合組合の規模は、都市政府、衛星都市、各貴族領といった全域にわたり、傭兵としての規模、武力は、一騎士団を軽く凌駕する。
また、個人事業主がギルド登録するにも審査に受からなければならない。
更に基本実力主義の階級制を採用し、高い規律を保持。
俺の黒星三と言えばベテラン中のベテランだ。ギルド員として一目置かれる。
俺より上の階級、下士官、士官となったら、貴族には劣るものの、社会的地位は高い。
もっとも、俺がこれ以上、上がれば下士官待遇になり、他の奴の面倒を見なくちゃならん。
万年兵長と言われようが、人を指揮するなんぞ俺の柄じゃないから、だから、俺は今の階級がいい。
気軽な気持ちで自由に好きな仕事をうける。
だから、今のままでいいのだ。
うーーん、金が無い。
少し前に、一儲けしたが、あれこれ買っちまったら、あっというまになくなってしまった。
物は、買った瞬間に価値がある。
俺が欲しいと思い、手に入れた物に価値がある。
だから、俺は満足だ。
もし手に入れる手段が金でなければ、俺はきっと働かない。
まったく世の中良くできてる。
ギルド入り口に入って最初に目につくのが、金髪の髪の長い受付嬢だ。
美人だ、しかも若い。
まるで、Gホイホイのように、男共がギルドに入ってきやがって受付嬢に声を掛けて寂しそうに去っていく。
フッ、確かに美人だが、俺はどっちかというと、もうちょい背が小さくてオッパイが大きい子が好みだ。
うむ、美人だが、俺の好みではない。残念だ。
その、受付嬢が俺に向かって手招きしている。
「ちょっと、そこのあんた、こっち来なさい。」
心なしか、態度がぞんざいだ。
それでも、無視するのは女性に失礼にあたるので、近づいていった。
「あなた、ルフナ・セイロンでしょ。」
件の受付嬢は、指先を俺に突きつける。
なんだ、こいつ。
なんだとムスッとして黙っていると。
「仕事探してるんでしょ。いいのあるわよ。端末貸してみなさい。短時間で高報酬の仕事よ。あなたにピッタリの仕事だから受けなさい。」
それにつけても、間近で見ると至極綺麗な女だ。極上といっていい。これで可愛げあれば完璧だなどとマシマシ見てたら…
「ちょっと、聞いてるのぉ?」
おお、ビックリした。おまえ、顔近づけすぎ。
「高報酬?マジか、どうせろくでもない内容だろう。リスクの高いのは勘弁だぜ、命あっての物種だぁ。」
「あら、そんなこと言っていいの?なんと依頼人は、あなたの推しのアール・グレイ准尉よ。」
むっ、推しとは何だ?
「アール・グレイ准尉だと、どういうことだ?この前会った時は、まだ蒼星一だったぞ。」
「あら、知らないの?AFC(アルちゃんファン倶楽部)の一員とは思えない情報の遅さね。アルちゃんは先週、不敬罪が撤回され軍曹に戻り、翌日、長年の功績により曹長に昇任、翌々日、今回の活躍により、准尉に昇任、更にセイロン本家の推薦により、春の士官学校に入校予定が決定。卒業したら少尉に任官予定だわ。
まあ、今までの活躍からみれば順当なところね。実力から見れば、まだまだ地位も評価も報酬も足りないくらい。
ねえ、あんた、このままだと准尉に置いてかれるわよ。士官と兵隊じゃあねぇ。接点がなくなるかもね。」
な、なにーーー!どういうことだ。
AFCとは?なんだ?
「あら、ちゃんとあなたの所にも、毎月ファン倶楽部の会報が来てるでしょ。今月のアルちゃんの誌面の写真はレッドの制服を着て鏡の前で襟元を恥ずかしげに整えるアルちゃんよ。今日付けで届いてるはずだけど。」
毎月、届いていた軍曹殿の写真と記事はファン倶楽部の会報だったのか。
でっきりギルドの会報とばかり思ってた。
それにしては、軍曹殿の写真ばかりで変だと思っていたけど。
しかし、申し込みしてないし。基本給から会報代を天引きされてるし、どういうことだ?
「あら、あなた不器用だから、私が登録手続きしといてあけたわ。感謝なさい。」
おまえ勝手に何してくれてんねん。
「あらら、じゃあ入らなかった方が良かった?写真削除しても良いわよ。」
いや、こ、こ、これはこれでいい。
受付嬢が、ジト目で見て来る。
「それより、受けるの受けないの。依頼は交渉の仕事よ。アポを受けてくれるように説得すること。もし成功したらセイロン兵長が、強さだけでなく、知力にも秀でてることがアルちゃんにアピールできるわよ。しかも高額報酬。更に私から昇任の推薦もつけるわ。」
「いや、べつに昇任なんて面倒くさい…。」
「あんた、アール・グレイ准尉に捨てられるわよ。次、会った時には忘れられてるかもね。」
そ、それは、嫌だ…。
「お願いします。」
「最初から、そう言えばいいのよ。」
受付嬢は、ふふんと鼻を鳴らす。
まるで、私に歯向かうなど100年早いといわんばかりだ。
受付嬢の胸の名札に目をやると、ダージリンと書かれていた。
ギルド受付嬢恐るべし。
こうして、俺は、軍曹殿、いや、准尉殿の仕事を受け負うことになった。
うおー、おれは、やってやるぜ。
成功したら、思い切って、准尉殿に電話してみるか。