入校準備③
今日のミッションを手早く終わらせて、シャワーを浴びて汗を流しながら、戦略を練った。
実は、走っている時から練っている。
泡のように浮かんでは消える構想…数えてはいないが、既に数百はシュミレートしているが、あまり宜しくない。
ならば、これは根本的に一人では無理があるのだと理解した。
単独で、このタワーは登れない。
むむむ…やむなし。
…単独行は諦めよう。
つまり、僕には優秀なガイドが必要です。
そう最初の方針を決めたので、一先ずはスッキリはした。
浴室を出て、頭にタオルを巻きつける。
ターバンではないよ。
…ガイド役には当てがある。
但し、あまり借りは作りたくない相手だけど…気は進まない。
けど、背に腹は代えられない。
…
端末から、呼び出す。
驚くべきことに、呼び出そうとした相手方はコールが鳴り出す前に出た。
「フッ、きっとアールならば私を呼ぶと思って待機していたよ。今行くから待っていたまえ。」
すかさず、自宅のインターフォンが鳴る。
えー?!
思わず通話ボタンを押してしまう。
画面に、今、端末で通話したジーニアスの異名を持つギルド人事部所属のエトワールの姿が映った。
えー!?
「あ・け・てー!アールの愛しの大親友エトワールちゃんでっす!」
満面の笑みで、やたらとテンションが高い物言いです。
…
…
流石の僕も引いた。
…ないわ…と言うより、怖い。
彼女、いったいいつから僕の自宅前で待機してたの?
…
一瞬、全てなかったことにして、他を当たろうかと考える。
「だ、ダメだよ、ダメ!それは悪手!協力させて!何も要求しないから、ハグくらいで…、嘘、嘘です。無償の愛で御奉仕させていただきます。お願い、消さないで!今日一日の私の苦労がー!」
癇に触ったので、通話を消そうとしたら、それを察したのか止められる。
…エトワール、君、今日、やたら、感覚が鋭いですね。
僕の思考パターンを読まれているみたいで、あまり良い気分ではない。
自宅で無ければ、カメラでもあるのかと疑うくらい。
因みに、此処の自宅には、その類いの資機材、魔法術式は通用しない。
…
冷静になって考えてみたら、ジーニアスと字名を持つエトワールほど適任者はいない。
人事部というギルドの中枢にくい込んでいるのも、内部の情報に詳しいだろう。
守秘義務があるから極秘情報は教えてくれないだろうが、それでも業務に支障のない範囲で、掟に抵触しないグレイな利益になりし情報を教えてくれるかも。
それに変態だけど天才には違いない。
いや、天才だけど変態なだけだった。
まあ…どっちでもよいか。
僕は、判断に迷いながらも…最終的に開錠ボタンを押した。
だって、あんなに嬉しそうにしてるのを無下には出来ないもの。