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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイ士官学校入校する
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入校準備①

 ペンペン様とシロちゃんに寄宿舎についていくか聞いてみる。

 何しろ約二ヶ月の強行軍合宿みたいなもの。

 優秀な士官候補生の一年間の行程を二ヶ月に圧縮するのだ。

 …無茶にもほどがあるよ。

 これからを想像するだに恐ろしい。


 …


 うん…おそらく自宅に帰っている余裕はないな。

 幸い寄宿に伴う料金は、食事代、教科書代を除き全部無料のギルド持ち。

 …よ、ギルド、太っ腹です。

 ここら辺が、僕がギルドを評価してる所以(ゆえん)であります。

 資金でもってギルド員を支える方針がみえうる。


 尋ねた結果、僕の目前で、魔法動物同士、キュイ、キュウ、キュ、キュワ…などと互いに意思を込めた鳴き声が錯綜している。

 …

 僕は、いったい何を見せつけられてるのだろうか?

 これって多分会話してるんだよね?


 …


 数分間、謎の合唱を見せつけられた後、結論が出たらしい。

 ペンペンさんが僕の肩をペシペシ叩いている。

 多分…ニュアンス的に「オイラにまかせとけ、一緒にご飯食べてやるから。」などと言ってる気がしたので、もう一度一緒に来るかどうか尋ねたら、二匹とも鳴いて頷いていたので、今回は一緒に来るらしい。

 僕も二匹のご飯の心配しなくてよいので、一安心です。


 「…面倒みる余裕ないから、お片付けは自分達でしてね。」

 二匹に対しあらかじめことわると、信じられないような顔をして僕を見てくるペンペン様。

 その気持ちを読み解くに、「おまえ…まさか…飼主責任を放棄する気か?」などと訴えてる気がする。


 …気がするだけなので、軽く無視してみたら、ペンペン様はショックを装ってる風に仰け反りて、後ろに二、三歩よろけて歩いたところで…クエクエ言いながら台所の方へ去って行った。

 台所からゴソゴソ音が聞こえてくる。

 今までの下りを忘れたのかのように台所を漁っている。

 ペンペン様は、どうやら、小腹が空いたらしい…。


 前世で聞いたことがある、鳥は三歩歩けば忘れる話しが思い浮かんだ。

 





 着替えて、入校のしおりを頼りに本屋とギルドのハシゴに出掛ける。


 ああ…外に出て空を見上げれば太陽でいっぱいです。

 歩いてるだげで、汗が滴り落ちてくるくらい狂った暑さです。

 これでは、昔の小説家が、太陽を悪者にする気分にも頷ける。

 少なくとも僕が感じている、この暑さは太陽のせいです。

 蝉がミンミン鳴くのも、暑さに拍車をかけている。


 厭世的な気分で、駅まで歩く間も、僕の思考は廻る。


 魔法があるならば、ウバ君に習った体温調節魔法をかければ良いと考える人がいるだろうが、それは素人考えです。

魔法を使うにも集中が必要で、例えれば、それは自転車をこぐに似ている。

 こいでる間は、向かい風で涼しいだろうが、ずっとこいでるには、やはり疲れるのだ。

 …魔法は、万能ではない。


 電車に乗る。

 今日の目的は、買い物だから気軽に私服にショルダーバッグを携行している。

 動き易さ優先の服で、見た目は二の次三の次の服です。

 僕は目立つのは嫌いだから、地味な色合いを好む。


 背景に溶け込むと一安心する。

 ジロジロ見られるのは好きではない。

 だから外に出ると、隠形の術は常時発動している。

 今の僕は、モブだから絡まれることもなし。

 他人と交差しなければ争いは起こらないし平和が一番です。


 僕は弱い。

 サンシャの件で、僕は再認識しました。

 戦ったら負けるのであれば、戦わなければよいのだ。

 あらゆる手段を用いて、逃げて逃げて逃げまくるのだ。

 僕には勝つ必要もないし戦う理由もない。

 僕の預かり知らぬ処で、相手が、何を思おうとも自由だし、何をしようとも勝手です。


 だからまず相手に認識されないことが肝要です。

 …林のように静かに。

 そして気づかれないうちに逃げ出すのも重要です。

 …風のように速く。

 アンドロメダ・チェーンのように周りの防御の準備を怠らなく、山のような要害の地の砦のように鉄壁の防御をあらかじめ建てておくのだ。

 それでも、尚も来るのは、致し方ない。

 …容赦なく遠慮なく躊躇せずに、覚悟を決めて瞬時に踏み潰すしかしないと思う。


 僕は、そんな大層な人間でもないし、懐の狭い小さな人に過ぎません。

 …許容範囲は、そんなに広くはない。

 いわゆる一般庶民なのです…うん、そうだね。

 出来れば善意で行動したい気持ちはあるけども…全ての衆生を千の手で救うとされる千手観音様とは、僕の志向は相容れない。






 …







 全てのミッションをコンプリートして自宅に帰って来た。


 買って来た教科書にギルドでもらった資料を足すと、タワーが出来た。

 …

 ギルドで会ったダージリンさんの説明によると、これ全部丸暗記又は理解して即時解答できるようになることが卒業試験の合否基準だとか。

 …

 マジですか…?

 それ…誰基準なんですか?


 ペラリと頁を捲ると、図はあまりなく、文字がビッシリ印刷されているのが目についた。

 割と読書は好きだけど、…これはない。

 これはないわ…。

 数行読み込むだけで新しい概念に頭がクラクラしてくる。

 数式と記号を駆使した計算式が模様のように美しい。

 

 果たして通常の貴族の優秀な士官が一年で理解出来るのかさえも疑わしい。

 そう言えば、前世では士官学校は四年制であったな…。

 古代では現場の必要性から二年制に短縮したと聞いた。

 それが、現代では一年制になり…私達、講習組は二ヶ月ですか?

 元々、講習は戦時の野戦昇任士官のためのものだったらしい。


 本のタワーを、見うる。


 …蝉の声がミンミンとうるさい。

 

 果たして普通の人間に、コレを二か月で修得できるのだろうか?




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