休日
巷は、すっかり夏模様。
蝉が鳴いている。
うんうん…これぞ日本の夏だよね。
それはそれとして、ああ…僕、外には出たくないなぁ。
自宅にて、窓の外の景色を眺めながら埒もないことを考えこむ。
角度的に青空と白雲しか見えていない。
クーラーの効いている室内で、無邪気にお昼寝している二匹を見るにつけ、来世はペットが良いかもと思ってしまう。
初代都市王が定めた鉄の掟…働かざる者喰うべからずが頭によぎる。
いやいや、…別に僕サボっているわけではないよ。
でもね、こんな暑い中、仕事受けたら倒れてしまうでしょ?
学生が夏期間お休みになるのは、ある意味正しい。
何故に勤労者が、それに反する行動を取らねばならぬのか…外に不思議よのう。
あ、喉渇きました。
仕方無くムクリと起きて飲み物を取りに行く。
…
ドクダミ茶を飲みながら、テーブルの上に突っ伏す。
ああ…そう言えば前世でも、こんな感じでした。
転生しても、夏は変わらないのですね。
現世の景色が前世と重なる。
かわらない…かわらない…かわったのは僕の姿と、前世の家族が居ないことだけ。
もう…会うことは無いのだ。
間には数千年の時と、更に異なる世界にまで飛んでいる。
魂にアドレスがあるわけじゃないから、もう絶対前世の家族とは二度と会うことはない。
…
お茶の中の氷が溶けてカラリと鳴った。
締め切っていても、蝉の声が聞こえ暑さが増します。
この世界では、クーラーが稼働してるだけマシです。
但し、電気代が前世よりトリプルスコア並みな金額設定になっているので、その分稼がなければならない…これ如何に?
サンシャ大崩壊から…大分経ちますが、キャン殿下達はお忙しいみたい。あまり便りが来ない。
頼りが無いのは息災な証拠と言うが、ちょっち寂しくもある。
ハロさんとは、やはり馬が合ったのか定期的に連絡を交わしている。
新しいサンシャが建ったとかで、今度観にきて欲しい旨の連絡が来てたので、その内に気が向いたらと回答した。
観たい、会いたい気持ちがあるが…何しろ暑いから出歩きたくない。
眼を瞑り、夏休みと称して、5日間の強行軍で旅に出た思い出を反芻する。
うんうん…楽しかったなぁ。
行程は、ソコソコキツかったけど。
そんな思いを馳せてたら、ピコンと端末が鳴った。
ん?なんだろうか?
充電器に置いてある端末を手に取り、画面を開くとギルドからのお知らせでした。
なぬなぬ…士官学校入校のお知らせ?何コレ?
…読み上げる。
永らく疫病感染防止のため閉鎖されていた士官学校が今年再開に伴い士官講習も復活するとか…新任将校は必ず受講することと書いてある。
しかも、泊まり込みで二か月近くです。
通常、貴族の士官候補生が夏季休暇の間、学校施設を利用して、叩き上げ将校の講習を実施するらしい。
聞いたことがある。
士官候補生が一年間で修得する項目を二ヶ月に圧縮して無理矢理履修させる、バケモノと恐れられたブルー達が、泣いて逃げ出すと噂された地獄の夏季講習!
おお…これが噂の…再開するのか…暑いのに参加する人、大変だなぁ。
想像するだけで暑くなって来ます。
冷蔵庫から最後の一個のアイスを取り出すと、いつの間にか起きてたペンペン様が、こちらをジッと見ていた。
…
圧力に負け、アイスを手渡すと、ペンペン様は無言で受け取り、器用に袋から取り出して、幸せそうに食べていた。
…
まあ、良いか…幸せそうだし。
それにしても、こんな暑いときに勉強なんて、誰か行くのだろうか?ご愁傷様である。
エトワールあたりが行けばよいなどと、人でなしな考えが浮かぶ。
僕は、エトワールには厳しいのだ。
お金持ちで天才で美人なエトワールに嫉妬してるわけではない…ただ猫をやたら可愛がる人みたいな執着具合がウザイだけである。…特に夏は暑いし。
冬ならば、まあ、いっか。
名簿が添付されてたので、つらつら流し読みする。
知ってる人いるかしら?
…
…
…アルフィン・アルファルファ・アール・グレイ。
…
…あれ?
もう一度見る。
…
…
…アルフィン・アルファルファ・アール・グレイ。
…
僕の名前がある。
同姓同名だろうか?
ダージリンさんに連絡する。
…
最初、僕だと分かって嬉しがってるふうなダージリンさんに、名簿に間違いがあると伝えると、即座に間違いはないと返される。
どうやらダージリンさんは、夏季講習のプロジェクトまで関わっているらしい。
どうにか断れなないかと言い出す前に、講習に関して受ける大切さと、留意点、注意点を事細やかに説明してくれた。
うん…まるでお母さんみたいだよ、ダージリンさん。
途中ダージリンさんを呼ぶ声が聞こえてきたのに、僕を優先して、忙しいのに、僕が準備するものや、講習前に目を通す資料まで教えくれました。
最後に、「ああ、私もついていきたい!」と言ってきたので、ご心配なくと返して、端末を切る頃には、僕は間違いなく講習に行くことになっていた…あれ?
しかも、日付を念押しされたので、とぼけてバックレるわけにもいかない。
しかも、その場合聞かされたペナルティが酷いのだ。
夏の暑さと、地獄と称された講習…暗澹たる思いである。
思わず台所のカウンターに突っ伏す。
…
「キュウー!」
振り向くと、ペンペン様がアイスを食べ終えて満足した鳴き声を出していた。




