蠢動
…自宅へと帰る。
何故ならば、キャン殿下の次期領主が急遽決定してしまったのだ。
う、嘘ー?!
申し訳なさそうに護衛の契約解除を、キャン殿下に告げられて、暫し呆然としてしまいましたが、アンネのゴホンッといった咳払いにハッとして、慌てて殿下に祝福を告げる。
但し、今回はエフェクト効果はない。
殿下にとって喜ばしいことだが、別れはいつも寂しさがつのるもの。
殿下も、何やら浮かぬお顔です。
何やら懸念事項がお有りなのかしら?
…
…僕の出番はこれで終わりだけども、殿下にとっては、これからが勝負の時であると気がついた。
…
僕は、不敬であるを承知で手を引いて殿下を抱き締めた。
女騎士さんが、前に出ようとするをギャルさんが止めてくれる。
「困った事があったら、頼って下さい。殿下のためならば、地獄の底からでも駆けつけてみせます。」
殿下を胸に抱き締めながら、耳元で囁く。
そうしたら、殿下の方も僕をギュッと抱き締め返してきた。
…暖かい。
…
しばらくしたら、コホンッと、今度は女騎士さんが、咳払いをした。
尊敬すべき小さな友よ、また人生が交差する時を、楽しみにしています。
僕達は、別れを惜しむようにお互いにヒシッと抱き締めあったが、最後には引き離され…。
「…お姉様。」
「…キャン殿下。」
キャン殿下一行は、車に乗って、北方向へ去っていかれました。
その車は、殿下に似付かわしくないランドクルーザータイプの、傷だらけで、ボコボコに凹んだ、泥に汚れた車です。
先程、僕らをビルの倒壊から、救ってくれた車ですから、倒壊の難はギリギリ逃れたけどど、細かい石や砂利などが吹き付けられた傷は逃れられなかったのだろう。
うんうん…この傷は人命救助の勲章みたいなものですね。
そう言えば、今回、クラッシュさん見なかったなぁ。
アンネとも現場で別れ、歩きで駅まで行き、電車に乗った。
ハロさんとは、忙しそうなので声は掛けなかったが、既に連絡先は交換してるから、後でメールしてみよう。
車内は空いていた。
座ると力が抜けた。
ボゥッとしてたら、車窓の景色が流れていく。
…
青空と朽ちた建物と絡まる緑。
車窓から陽射しが入ってきて、外が眩しい。
いつもと変わらぬ景色です。
今日は、暖かい。
窓が半分開けられ風が入ったきて心地良いな。
…
ああ…返す返すも残念です。
これから、キャン殿下やギャルさんと、ウフフ、アハハな護衛任務に付けるかと画策していたというのに。
下世話な話しだが、実際、この護衛任務は、美味しい。
報酬が5倍だし、決まるまで努めて城の自室に籠っていればよい。
前回のときみたいに、怪異やドラゴン、悪魔が出てくることなど通常はない。
…前回が特殊過ぎたのだ。
その目論みが、ほぼ半日で終わってしまった。
…
電車の席に座り、揺られながら今回の反省点を振り返る。
…
…
…
…うん、ないな。
完璧です、パーフェクトですよ!
今回、一つ間違えたら、いつ死んでもおかしくありませんでしたよ。
今、思い出してもガクブルです。
それになに、あれ!あの魔人執事は?
あっぶなー!
相手が引いてくれたから良かったものの…炎のエレメンタルの威力が無かったら、一蹴されてました。
いやー、世界って広いなぁ。
僕も、少しくらいは強くなったかもと思ってたけど、全然認識間違ってました。
危ない、危ない。自分、勘違いも甚だしいわ。
反省、反省です。
やはり、僕は弱いのだ。
うんうん…今回の収穫は、自分は弱いものと改めて認識出来たことです。
今世は、生き残るに、なかなか厳しい世界です。
一つの油断が生命とりになる。
でも、何故か謎な充実感があるんだよね。
この世界は、前世より100倍も1000倍もマシマシです。
後悔はない。
しかし、今日は未明から起きて働いたのでクタクタです。
身体中に疲労感が蓄積して…座席の暖かさと振動が眠気を誘う。
車内には、人はあまりいない。
僕は、いつしか意識を第二人格に任せて、眠りこんでしまった。
ペンペン様やシロちゃんは、ちゃんとご飯食べたかな…?
…