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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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新しき星

 サンシャの民らが、ゾロゾロと移動している。


 …


 …



 サンシャ大崩壊、そして庶民には、なかなかお目にかかれない騎士位の授与のイベントも終わり、それぞれ決まった住む処へ帰っていくのだ。


 掘り返しは、明日からです。


 丘とも呼べないような、平地より少しだけ高台の場所に陣取り、ハロさんがアレコレ指示出しをしている。

 その横で、アリ中尉が書記役をしている。

 あの人何でも、できるなぁ…。

 更にその周りには、個性的な顔立ち姿の諸兄姉がいらっしゃったが、素直にハロさんの指示を受けて散り、仲間らしき者達を引き連れて去って行った。

 多分、サンシャの王である[九頭龍]と称された面々であるのだろう…あれ?ハロさんを含めても8人しかいない…数え間違いかなぁ…?

 去るときに、こちらをチラッと見る人がいて、ドキッとする。

 ま、まさか、初対面の僕をハッキリ視認してるわけではあるまいが、目が合ったような、無きような…ドキドキ。

 彼らは、サンシャ大崩壊大脱出から先程のイベントの最中まで、僕らの近場には居なかったので、隠形の術を掛けた僕をモブだと無意識に認識してるはずです。


 僕の隠形の術は、魔力を微量にしか使わない目立たない優れものです。

 何しろ魔力がサランなラップより薄い、もはや雲や霧、粒とも判別つかない微細なまでの….たいしたことのないのが売りです。

 普通の魔法を使わない人が無意識に纏っている魔力と同程度の量しか使用してないので目立ちません。

 その分効果も薄いですが、その薄い分効果に気付かれることもない。

 おそらく超一流の魔導士や魔法使い、魔術師でない限り異和感すら覚えないなず。

 初見では、前情報が無い限り見破られことはまず無い。

 常に見られる圧力に疲弊した僕が学生時代に、普通の生活をするために編み出した常時展開型の術です。


 それなのに、[九頭龍]の面々の皆々様は、去り際にコチラを認識して立ち去って行きました。

 明らかに僕の居る辺りを観ている。

 殆ど仰々しい顔付きの人達でしたが、中には年若い女性もいて、その人は、僕の前まできて睨め付けるように僕がいる付近を観てきたので、目立たないよう眼を瞑り息せず気配をを断ちて、僕は今植物と心中で呟き、佇んでいたら訝しげな顔をしながら去って行かれました。


 おお…あ、危ない。

 サンシャの悪党の頭は、十人十色と聞き及んでおります。

 特殊な地位として[九頭龍]の一人に含まれるハロさん以外は、あまり仲良くはしたくない。


 でも、逆にこれで分かったことがある。

 [九頭龍]が、力だけでのし上がった犯罪集団の頭であるのは、嘘か本当か分からないが、アレらは、魔術師の集団である。それも超一流の…よくよく見ると、数人は微細な魔力による蠢く紋様を服のように纏って居ました。

 あれは、僕の隠形の術の一つの方向への上位互換の魔力の使い方です。

 サンシャの頭は、単純に力だけの暴力集団ではないのが分かりました。

 今後は、近づかないに、すぎないのが吉ですねと、彼らが去った後に判断して、ホッとする。




 向こうから、ルーシー君が走って近づいてきたのが見ゆる。


 今まで、キャン殿下からお声を掛けられていたのだ。

 表舞台は済んでいるから、今は楽屋裏でのオフレコの話しで、おそらく、心優しい殿下の事だから、詫びのお言葉と、いつでも困った事があったら頼りなさいくらい言われていたかもしれない。

 つづいて、先程会った女騎士から、ありがたいお言葉を賜っていたようだった。

 あの女騎士は、姉のジャンヌからの影響を受けたのか、或いはダーマン・エペ家の家風なのか、厳しい物言いなのに、その行動は勇気とお人好しが過ぎる…ツンデレの家系なのでしょうか?

 きっと、後輩たる新人騎士に、騎士たる者の留意点なぞを訓育してたに違いないよ。



 蒼天の青空の下、歳若い騎士が走って僕の元へと来た。

 またまだ幼い少年です。

 頬が上気して、林檎のように紅く染まっている。

 

 …何で、そんなに嬉しそうなんですか?

 これから、あなたは僕の我儘に巻き込まれて、困惑したり苦労したり、或いは…危険に晒されたりするのですよ。

 きっと後悔するのが目に見えている。

 …呆れてしまう。

 いくらでも、自由に選択出来たのに何故に僕を選ぶのか…僕ならば、絶対僕を選ばないよ。

 本当に摩訶不思議である。

 …

 しかし、彼は、もう僕を選んでしまった…。

 マジマジと見る。

 全力で走って来たのか、息が上がり、純真な目で真剣に僕を見ている。


 …ウッ、眩しいよ。


 人間一世紀分の生きながら得た記憶のある大人の汚れた魂を持つ僕から見たら、その純粋な瞳が眩しいのです。

 うん…でも、こんな、幼い純粋な容姿なのに僕の騎士になろうと必死で策を練ってたんだろうな…まさか咄嗟の思い付きではないだろう。


 僕は額面には出さず、心の中で長い溜め息を一つついた。

 …些か思う処はあるものの、僕は彼に言葉を掛けた。


 「ルーシー君、将来、君は僕を選んだ事を落胆し後悔することでしょう。だからその時は直ぐに僕に言いなさい。主従の契約を直ぐに解除してあげるから。」

 ああ、僕は未来に憧れと期待を持つ若者に何を言っているのだろう?

 でも、最低限これは彼のためにも、あらかじめ言っておかなくては。

 チラッと彼を見ると、全然堪えてないみたい…さっきと変わらぬ未来に夢見るような嬉しそうな満面の笑みです。

 …

 「コホン、さて…ルーシー・ロンフェルトよ、そに異論無ければ…我の騎士に任ずる。」

 僕は渋々ルーシー君を僕の騎士に任じた。

 しかも超簡略化した主従の契りの言葉です。

 

 でも僕の掛けた言葉に、ルーシー君は、まるで雷に撃たれかのように姿勢を正した。

 「我が主、アルファルファ・アール・グレイ様に私の全てを捧げます。病める時も健やかなる時も、いついかなる時も私の心は主様と一緒です。私が主を違えることは生涯無いことを騎士位とロンフェルト家の歴代の魂に誓います。この時より、我が剣の主はアール・グレイ様唯お一人のみです。」

 ルーシー君は、口上を述べ、身に着けていた短剣を抜き、返して柄を僕に差し出した。


 ルーシー君てば、せっかく僕がいつでも辞めてよいよと、あらかじめ許しを与えたのに、お断りとばかりに…自らその道を絶ってしまいました。…あなた、どこまで純心で潔癖なんですか!?

 重い…その純心で清い思いが、大人の僕には重いですよ。

 君に相応しい場所は、きっと他にあると思うけどなぁ。


 「そが、思うがままにせよ。その心は大空に羽ばたく翼のように自由なり。それまでは我の騎士として止まり木に留まることを許す。その主命を守るならば、我アールグレイの一振りの剣に任ずるものなり。」

 僕は、剣の柄を握り、刀をルーシー君の肩に押し付けて、改めて騎士に任じた。

 要は、いつでも辞めて良いからねと念押しするように命じたのだ。

 たとえ御先祖様に誓っても、主の命令ならば、辞めても面目は立つと思うから、これは救済措置です。


 「はい!自由にさせて頂きます。」

 剣を返すと、ルーシー君は元気良く返答した。

 …本当に分かっているのだろうか?


 「さて、ルーシー・ロンフェルトよ。我が剣となったからには、…僕からも一つお祝いをやりましょう。但し、僕には手持ちの価値ある品も財産も無いから、新たな名前を贈ることにしました。…ペンドラゴン。君は、これからルーシー・ペンドラゴン・ロンフェルトと名乗りなさい。ペンドラゴンとは、僕が知る遥か昔の、さる高名なドラゴンバスターの王の名前です。」


 「…ペンドラゴン。私、ルーシー・ペンドラゴンは、貴女様に対し、永遠(とこしえ)の愛と忠誠を誓います。」


 ルーシー君は感動したのかブルブル震えながら誓いの言葉を新たにくれたけども、いやいや…名前付けは、タダだし、それ程感動するものではないよ。


 それにしても、ルーシー君の住む処は、どうしよう?

 家臣になったし面倒はみなくてはいけない。

 …

 僕の家だと、二人と二匹になるが何とかなるだろう。

 もちろん、ルーシー君が了承してくれればの話しだけなど。

 「ルーシー、君が良ければだけど…」


 ここで、ガシッと背後から、ルーシー君の襟首を掴んだ男がいた。

 「おい、ルーとか言ったな!俺こそは少尉殿の第一の家臣、ルフナ・セイロン准尉だ。住む所が無いならば、俺の処で世話してやるぜ。感謝しろよ!」

 ルーシー君が、青ざめた表情で後方を見上げる。

 そこには迫力ある笑顔で、ルーシー君を見下ろすルフナがいた。


 「さっそくだが、仕事だぜ。サンシャの孤児院の子供達の面倒をみるんだ…さあ、取り敢えず一人頼むぜ。」

 突然現れたルフナは、赤ん坊を一人ルーシー君に手渡すと、呆然としているルーシー君の襟首を掴み、無理矢理引きずって去っていった。

 ルーシー君が、え?!え??何…何なの?みたいな顔をしながらも赤ん坊を落とさぬように、しっかりと抱き締めながら去っていった。


 ああ…そうか。

 後輩は、先輩のルフナに任せれば良いのだ。

 気が付きませんでした。

 男同士だし、きっと、その方ががルーシー君も気兼ねなく暮らせることだろう。


 僕は、笑顔で手を降り、二人を見送った。

 

 

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