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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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その頃のクラッシュ(中編)

 「…ば、馬鹿馬鹿しい。俺はこれでも忙しいんですよ。もう騒がんで下さい。」

 衛士の若者は、苦虫を潰したような顔をして立ちさろうと踵を返した。


 「…ギャルがお主を、心配しておった。」

 若者の動きが止まった。


 「ギャル先輩が?…俺のことを…ハハハッ…まさか?」


 せっかく適当に言って反応したので、我輩の頭を捻り出してギャルが言っていた言葉を思い出してみる。

 「ああ、えーと、お主のことを、根が優しくて… 実直で、 …志を曲げない芯があるのにぃ、…行動を躊躇して、そのままなのが惜しいと。…あと、行動に繋げさえすれば。…でも、私が居なくとも自分で気づいて、きっと出来る…成長した姿を次に会って見るのが楽しみ…などと言っておったぞ…たしか。」

 切れ切れだが、確かにギャルが言っていた言葉を伝えた。

 じゃが、言ってしまった後で、我輩と言っている内容が被ってるから、伝えても、あまり意味はないかなとも思った。


 ギャルの後輩だし、指導しようという試みだが、まず成功の見込みは、実は無いと思っている。

 だが無駄だとしても、試みるのと試みないとでは、天地雲泥の開きがある。

 砂金も探さなくては、永遠に見つかることはない。

 無駄だと思っても先ず実行することが肝要。

 最初から、無駄じゃ、無駄じゃと諦めていたのでは、人類は文明崩壊の危機を乗り越えて生き残っていない。

 我輩達が、今此処に存在して居られるのは、ご先祖様達が、無駄だと諦めなかったからだ。

 我輩らの中には、諦めない遺伝子が息づいている。

 逆に諦めた遺伝子は、絶滅してしまった。


 歴史を学んだ我輩は、まず、諦めずに自分が試すことを信条とした。

 今回の我輩の言い分は、人類学的見地に基づいた試みの一環じゃ…決してメニューの不平不満をぶつけたわけではない。

 あしからず。


 じゃが、そうだとしても、実際は、やる気の無い者に何を言ったとしても糠に釘、暖簾に腕押しなのは…分かっている。


 …青年は、しばらくの間、我輩に背を向けて黙って佇んでいた。



 …




 ああ、こりゃ、…我輩の朝食のメニューの更新は、やはり無理かのう。

 …ギャルの期待も無駄足だったようじゃな。


 何となくだが、そんな気はしていた。


 ふー、お腹が空いて、…哀しいわい。


 我輩の思いに応えて腹の虫が鳴いた。


 この若者が、我輩の若い時分に似ているは本当。

 我輩は昔、この若者と同じ歳くらいに、何をやっても上手くいかず、僅かのやる気も失せて、無為に孤独と灰色の青春を何年も過ごしたのだ…。


 そう過去に思いを馳せた時、青年がクルリと振り向き、深々と頭を下げた。

 「クラッシュ導師、わたくしめに何でもお申し付け下さい。」


 はあ!?


 予想外の回答に我輩少し驚いた。

 な、なんじゃあ、こやつ、言葉遣いや態度、顔つきも一新しておるわ。

 …まるで別人のよう。



 さっきまで、濁っていた瞳が、今は虹彩さえキラリと光り、無駄口を叩いていた緩んだ口元は、キリッと結んで強い意志を表していた。


 男子三日会わざれば、刮目して見よ!

…とは、言うものの、この衛士は、さっきまで面倒そうに、我輩のことを、まるでクレーマーのようにぞんざいに対応しておった。

 我輩が正当な理屈を述べておったのに、軽薄な口調と不遜な態度であった。

 …なんたる理不尽か。

 じゃが、今の態度は先程までとまるで違う。

 …まるで中身が入れ替わったような豹変ぶり。


 我輩に失礼な態度を為した衛士の若者には、我輩と同じく…暗く灰色な青春が似つかわしいのに。

 むむむ…不幸な仲間を見つけた黒々とした残喜と…その仲間が新たな道へ舵をきり離れていくのを、惜しいと残念がる思いが、我輩の中にあるのを見つけた。


 このままでは、我輩の時とは違い、この衛士の運気は上向きになっていくだろう。

 それは、この者が心を入れ換えた当然の成果だ。

 …

 惜しい…残念…仲間だと思ったのにのう。

 …

 まあ…それはそれとして、いったい、我輩と、この衛士と何が違ったいうのか?

 自分のニノ鉄を踏まなかった衛士の青年の未来を羨み妬み嫉む気持ちが我輩の中に僅かにあるのを感じたが、それよりも、何故に急に態度が180度も変わったのかが気になる。


 何故?

 …首を捻る。

 …

 …

 我輩に無くて、衛士の青年に有ったもの…?

 …

 …

 むむ!分かった!

 それは、我輩じゃ。

 我輩が、若い頃には、こんなにも親身になって声を掛けてくれる師は、あらなんだ。

 だが、この若者の目前には、我輩がおる。


 …なるほどな。

 多分に多分、我輩に違いない。

 そうか…我輩の情熱ある言葉が若者の心を動かしてしまったかぁ。

 我輩に出会うなど、なんたる幸運たる若者か…。




 …




 …よいだろう。

 我輩に憧れる未来ある若者に、我輩が修練し身に付けた数々の技を伝授してやろうではないか。

 …腹も空いたしのう。


 来る者は拒まず!去る者は追わず!

 「衛士の若者よ、我輩の指導に応えたら、姉弟子のギャルのようにカラフルで充実感満載な欲しいものを手に入れた幸福人生、途中で挫折したら今までのように全てがモノクロで惨めな飢えた人生となる。貴様はどちらを選ぶ?」


 「…ギャル先輩と一緒の方でお願いします!」


 うむ、つまり、弟子入りしたいと言う事じゃな。

 「ステーキじゃ、健全な精神は、健全な筋肉に宿る。まずは筋肉の材料を手に入れろ!肉を持ってくるのじゃ。」









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