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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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パフェ・クト未知との遭遇に驚愕する(前編)

 あたしは、パフェ・クト・ノルデン言います。

 平民ながら学校に通っている学業優良児や。

 これでも生きて生活するにエライ苦労してはるんどす。


 いやはや、生きるって厳しいねん。


 親のスネを齧れないわたしは、ギルドでアルバイトして生活費を稼いでいる。

 ギルドって言えば、冒険者ギルドのことどすえ。

 怪しげな方言なのは、ご勘弁を。


 これには理由がある。

 およそ3000年前に西からトビラ都市に来た当時のわたしのご先祖様達は、災禍による避難民だったらしい。

 西のあらゆる地方から合流して、トビラ都市に流れついた人達は、血族関係無しでまとまって協力し合った。

 やがて協力してるうちに親しくなり、婚姻から血が混ざり合い融合していった。

 それがわたしたちノルデン氏族の発祥やねん。


 けど、融合する過程で、誰も彼も自分が使っていた言葉を直すことなくそのまま使い続けた結果がこれやねん。

 ごちゃまぜや。

 共通語つくるか、トビラ都市言葉にすれば良かったのに、誰も引かなかったんやろな。

 我が御先祖様達ながら、その意固地には、まったく呆れてしまう。


 そのお陰様でコレやねん。

 しかし、この言葉のイメージで助かることもあるんやで。

 しかもわたしみたいな可愛い若い女の子だと、結構受けがいいねん。

 わりと図々しく言っても許されてしまう。

 もちろん、反発してくる人も一部にはいらはるけど極一部やねん。

 人間やから相性はある…仕方無しや。


 なら、どんどん行かへんと損やで。


 世の中は、嫌な奴もいるけど、助けてくれる人らも沢山おるんや。

 だからといって、もちろん頼り過ぎてもあかん。

 …節度や。

 giveがあったらtakeがなきゃあかんねん。

 阿ってはあかん、人間が腐ってまうから。

 助けてもらったら、姿勢を正して助け返す。

 それが、ちゃんとした社会人ってもんや。



 わたしは、将来は好きな車関係の職業につくか、商売するのも良いかなとも考えてます。

 このまま、ギルドでキャリアを積んで人脈を広げるのも良いかな。

 なんせギルドは半自営業で自由だし、信用あるし、便宜を計ってもらえる。

 真面目に働けば、ちゃんとリターンあるし…こんなん当たり前のことをシッカリ堅実に通用してる点も評価できる。

 ギルドはわたし達をちゃんと評価してくれた。

 だから、わたし達もギルドを相応に評価するねん。


 …ギルドの誰かがわたしを正当に評価してくれたお陰様で、わたしは学生でありながら緑の星三つ貰えてはる。

 これは、軍隊で言えば、三等兵や。

 一般会社で言えば、研修が終わった新人が指導期間をも終えて、そこそこ使えるくらいになった若手で、あと少しで一人前と評価もらえるん。

 つまり、バイトリーダーみたいなものなのかしら?

 まだ新人やけど、学生の分際で星3つは凄いでしょう?

 わたしの仕事がちゃんと評価されている証拠やねん。

 わたしを正当に評価するとはギルドやりおるわ。


 わたしは仕事中は、男のなりをしてるけど、これは自分の身を守る為と動きやすいから。

 中身はしっかりと女の子ですから。

 でも、この格好は割と男性にも女性にも受けは良いのや。



 今日の依頼人は若い女性、端末画面上では元気溌剌の美人のお姉さん。

 運転手兼車を保管してくれる人が必要らしい…依頼料金は、黒星レベルであるから。


 よっしゃ、きた、きました。


 お客様は神様ではないけど、大事にして損はないねん。

 ….端末越しでも分かる、別嬪さんで話していて心がすくような思いがする。

 やったー!このお人は大当たりや、なにより言葉に嘘がない。

 …真っ正直で、話していて気持ちが良いわぁ。

 

 わたしも、およそ数百人相手しとると、ある程度は、その人の為人が、わかるんだわぁ。

 今回は多分…最上のお客様。


 今回とは逆に最悪なのは、良い人のように見えて、私を値踏みしたり試すお客様…わたしの心象は最悪です。

 この人何様…?

 その場では何も言い返さないけどね。

 そう言う人とは、慇懃無礼なほど丁寧に扱って、自然と切れるように持っていく。

 だって、およそ対等な人に対して行うような態度ではないと思うから。

 ハッキリ言って、人の能力はそんなに変わらない。

 その人の実力が発揮するのは、やる気があるか無いかによる。

 …人の能力など、殆ど変わらないのだ。

 それなのに上から目線で相手を試すだなんて失礼しちゃうわ。

 それは傲りってもんでしょう?

 その時点で、あんさんに人を判別する能力も資格もないと言ってるようなもんでしょう?

 どんな良い人を装うとも、こんな人は信用ならない。

 だから、わたしとは相性が悪かったなと思い、最初から心の内で切ってしまう。

 実際、この手の人の根性は他人がいくら言っても直らない。他人を最初から下に見てるから、言葉で言っても心まで届かへんねん。

 だから、付き合っても碌な結果にはならない。

 これが、付き合ってる男で、後でこのタイプだと分かったら最悪や。

 この手の男は外面は良いから、最初はええわぁと思い、騙されちゃうから皆も気をつけるんやで。

 将来の相手は、冷静な目で見極めなきゃね。


 そんな体験談はともかく、わたしは内心ドキドキしながら、別嬪さんとは外面仕様で対応し、依頼を受諾した。

 外面なのは、心象第一を心掛けているから。

 …こちらにも見栄がある。

 良い人には、こちらも良く見られたいから相応の丁寧な対応をしたい。

 もちろん慇懃無礼ではなく心がこもってます。

 だって、もしかしたら、この最上のお客さんとの出会いが、わたしの将来の転機になるかもしれへんし。




 …




 待ち合わせ場所に彼の人は来た。

 騎士とメイドを伴って…?!

 疑問が沸くが、余計なことは聞かない。

 仕事に必要以外聞かないことは、この仕事の原則。



 にこやかに対応して、車を受け取る。

 運転して、目的地であるサンシャまでお送りした。

 このサンシャは、悪党の巣窟と言われるほどに剣呑な場所として有名です。


 あんな若くて綺麗な女性の御三方で大丈夫かしら…?


 少し心配になったけど余計なお世話だったらしい。

 遠目に覗いていたら、サンシャの前でたむろっていた大の男共を軽くあしらっている姿が見えたから。





 …





 サンシャから若干離れた場所で待機やね。

 実に優雅で楽な仕事です。

 こんなんで依頼料貰って良いのかしら?

 持参してきた行動食を啄ばみながら、紅茶を飲む。


 ここで指示あるまで一日待機してればいい…。


 音楽を聞き、手脚を伸ばす。


 んー、少し、何かあっても良いかも…


 そんな風に思って、退屈を紛らわしていたら、何やらサンシャの方から音にならない振動を感じました。

 したらば、サンシャの出入り口から一斉に人が蟻の行列のようにズラズラと出て来はりました。



 …


 これ…尋常ではないんじゃない?!


 茫然と見ていると、サンシャから天に響くような物凄いた音が聞こえてきて、一角がグシャリと崩れ落ちはりました。

 

 あらら…。


 た、大変や!


 だからと言って、わたしには出来ることはない。

 避難は整然と進み、大量の人がはけて…やがて人の列はとぎれた。

 しかし、依頼人は戻って来ない。



 …


 

 こ、これは、ちょっとヤバいわ。

 ギルドに連絡した方が良いのでは…?

 胸中不安になるも待った。

 契約は、絶対です。

 待つより仕方ない。


 青空の下、サンシャからは、内から不気味な音が聞こえてくる。

 一体中で何かが起こっているかは不明なれど、とんでもないことが起こっているのが、この音から分かる。



 …



 大分待ったかも知れへんかも。

 出入り口から、飛び出すように駆けて来る一行が目に止まりました。

 おそらく避難の最後の組であろう。


 カラフルな衣装に身を包んだ少女を先頭に駆け出して来る。

 なんや、なんや、絵になるような景色やな。

 一行には依頼人の綺麗なお姉さんもいてはって、お貴族様と分かる小さな少女を大事そうに背中に抱えている。


 まあ、…目的は達成したらしいことにホッと胸を撫で下ろす。

 直接は関係ないけど、やはり依頼人の目的は達成して欲しい…それが人情や。

 もしかしたら、チップも弾んでくれるかもしれへんし。


 しかし、…行きに居た女騎士の姿が見えない。


 …


 わたしは、ここで何やら嫌な予感がした。

 因みにわたしの予感は嫌なことに、よく当たる。



 …依頼人が近づいて来る。


 「パフェクト!出動準備ー!」

 依頼人の第一声に背筋が凍り付く。


 出動って、あなた何処へ…?

 まさか…?


 依頼人が出て来た出入り口の真上は、60階建てのビルが天を突き刺すように建っている。

 それが、僅かにこちら側に傾いているように見えるわ。

 …気のせいかしら?

 そして聞きたく無い鈍い音が先程からそのビルの方から響いているのだ。

 

 わたしの手は言われるがままにキーを回してエンジンを掛ける。

 いつの間にか青空が曇天へと変わっている。

 …違う。

 サンシャから噴煙が舞って、空が曇天になっているのだ。

 どひゃ…。


 エンジンが掛かり、シフトレバーをドライブにチェンジ。

 サイドブレーキを外して、ブレーキペダルを踏んで待つ。

 

 近づいて来て、依頼人のお姉さんの顔が、焦っているのが分かった。

 あの表情は…わたしにはよく分からないけど、依頼人の一大事です…助けなくては。

 お姉さんは、背中の貴族様の御子を、横を走っていたメイドさんに預けはると車の助手席に飛び乗りました。

 「ゴー!」

 そして、倒壊しかけてるビル方向を指さす。


 曇天に突き刺さる摩天楼から歪な音が聞こえて来ます。

 まるで終末の鐘が転がり落ちるような不吉な音色です。

 かじかむ右足を無理矢理突き出す。


 …契約は、絶対です。

 もし破ったら信用に関わります。


 自分の生命の灯火を消すような行為にリバースしそう。

 絶対、あのビルは倒れて来る…そんな気がしはります。



 頭の中身がグルグル回って大回転して泣きそうになる。

 誰ですか?楽な仕事と思ったのは?


 こうして、わたし達は、ビルの根元の出入り口に向けて車を発進させたのです。






 

 




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