サンシャ大崩壊(中編)
「search!」
僕は、間髪入れず探知魔法を唱えて、魔力波を薄く広く速く飛ばした。
…
…
いた!左方の方角50mの位置地点、およそ殿下より小さい反応があります。
既に、サンシャの崩壊は、最終局面に入ろうとしている。
砂埃はおろか、人間大サイズの大石が雨霰のように降ってきている。
だが、迷わない。
僕は日頃から、覚悟は決めているから。
それでも、家で僕の帰りを待っているペンペン様とシロちゃんのことが脳裏に浮かび上がった。
…
お腹の底から、わやな憤りがこみ上げてきそうになるのを、…無理矢理気持ちを切り替える。
暗闇の断崖絶壁の先で風に吹かれている心境、と昔、刀使いの師匠に、戦いの心構えを教えてもらったことがある。
通算100年近く人の経験を積み重ねても…僕には、その心境は分かりそうにない。
でも、それを思い返して少し気持ちが落ち着いた。
出会いがあれば別れは必ずあって、それはいつも突然にやって来る。
…分かってたはず。
でもせめて、周りに心配を掛けたくはない。
僕はいいのだ。
ただ、周りに今の心境を悟られると気恥ずかしい気がする。
「ギャルさん、…殿下を頼みます。」
努めて、平静にギャルさんに声を掛けた。
既に、これからやる事は決まっている。
僕は、たいしたことのない人間だけど、最低限大人の務めを果たしたい。
僕のお父さんが、そうだったように…。
僕の言葉に目を見張り少々狼狽え気味なギャルさんに無理矢理殿下を手渡し、出入口を指差して、そのまま走るように促す。
「僕、ちょこっと、行って来ます。先に行ってて下さいな。」
ニコリと静かに微笑む。
…心配をかけては、いけない。
僕は、視界が悪い雨霰の中を、出入口ではない方向へ舵を切り、突っ込んで行った。