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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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雪風大戦(後編)

 周りのタイフーンが襲来して来たかの様相を別にするように、僕と執事さんとの間は静かだ。

 エアスポットのように動きもない。


 台風の目とは、この様な感じてあろうか?


 …拮抗している。

 もし炎のエレメンタルの精霊力を得てなければ、僕はアッサリと捩じ伏せられたに違いない。

 ルーシー君もルフナもアンジェもアリ中尉、鎧武者の面々も皆殺しにされて、僕自身は殺されないまでも貴族の邸宅に連れさられて一生涯飼い殺しです。

 ギリギリ感が半端ない気がします。

 何とか間に合った感です。


 人生のタイムスケジュールが厳し過ぎます。


 身体がホカホカと暖まり、額から汗が一雫落ちるほど。

 その代わり、周りは暖流と寒流が入り交じる風の渦潮があちらこちらに出来ては消えてサンシャの崩壊を促進している。

 完全武装の鎧武者達が何かしらに捕まらなければ、浮いて飛ばされそうなほどの暴風砂の修羅場と化している。

 執事さんに[暴風(テンペスト)]の二つ名をお譲りしたい。


 因みにルーシー君は、僕の腰に後ろから、しがみついているので飛ばされずにいる。

 顔を押し付けてるので息が当たり、こそばゆいです。

 手技脚技の応酬になれば、妨げになるけど、もはやそれ以前の話しで、力が拮抗してるので全力集中して打ち勝たねば後がありませんので放っておく。


 気力体力精霊力が、あっという間に汲み出され消化されていくのが分かる。

 圧倒的な熱波が放射されてるのが目に見えて分かるけど、な、なんて、非効率的な技なんでしょう。

 このままだと、数分も持ちません。


 ま、まずいです。

 体力の消耗も半端ない。

 疲労感で、足腰がガクブルで腰が砕けそうです。

 急速な体力の消耗に、戦いの最中にも関わらず眠くなって、首が座らず目蓋が落ちそうです。


 この状態は、前世で36時間不休不眠で働いた後、帰りの電車に座った時の状態に似ています。

 まさか、今世でも似た経験をするとは夢にも思いませんでした。

 経験上、多分…この後、記憶が途切れます。

 それは、マズイ。


 「ククク…ハハハハ…。」

 僕は、自然と笑ってしまっていた。

 飛んだお笑い草だ。

 前世を反省して、前世のような窮状にならぬよう、今世では相当に努力してきた。

 それなのに、コレである。

 もはや、笑うしかあるまい。

 僕はニヤリと笑い、余裕そうに執事さんを見つめる。

 内心は、トホホと情け無い心持ちです。



 冷静な執事さんの表情が、ほんの僅かだけど変わった気がしました。

 この時、頭上から声がしました。


 「アールちゃんの敵は私の敵!喰らえー!ギャルちゃんキック!」

 懐かしい声色と共に、天井から女の子が降ってきました。

 執事さんは、それを見もせずに、その子の足首をムンズと掴むと横に放り投げました。

 「キャー。」

 女の子は、悲鳴を上げ、飛ばされながらもクルッと回り、床に無事に着地した。


 凄い、猫みたい…それは、よく見るとギャルさんでした。

 何故?とは思わず、キャン殿下の護衛ならば居るのは当たり前でした。

 不思議ではない…。

 そして、ギャルさんの登場を機に、サンシャの中の冷気が吹っ飛び、辺りは春の様に暖かくなっている。

 勝った…?


 執事さんは、再び冷気を纏うことはせず、辺りを見回している。

 階段へと続く向こうから、騎士とメイドを先頭に、チンピラのような服装をした男達が何十人も、こちらへ駆けて来るのが見えた。

 ギャルさんが手を振っている所をみるに、仲間なのでしょう。

 ここで執事さんは、僕達にではなく、柱に飛ばされないよう必死にしがみついていた貴族の若い主に声掛けた。

 「ドリュー様、潮時でございます。」

 若い貴族の主は、顔を上げて不思議そうに尋ねた。

 「何を言う?俺は全員皆殺しして、嫁を連れ帰るよう命じたはずだが?」


 若い貴族と執事は、メイドらが到着して100人近くの敵に囲まれているというのに、まるで頓着せずに会話を続けた。

 「ドリュー様、現在の条件下の戦力差の均衡が只今崩れました。それでも皆殺しは可能ですが、彼女を連れ帰ることは難しいでしょう。そしてその場合、残念ながら主を護りきることは出来ないかもません…残念ですが。貴方様が死亡しての全殺しか撤退の二択となります。」

 「ふむ…全殺しか撤退の二択であるか…シルバーはどちらが俺に相応しいと思うか?」

 「私ならば撤退をお薦めしましょう。何故ならば、皆殺しは可能ですが[暴風(テンペスト)]や彼女に近しい者達は、私に皆殺しを命じたドリュー様を絶対に許さないでしょう。八つ裂きにされるドリュー様の知らせを受けたお嬢様の悲しむ顔を見たくありません。…それに今思い出しましたが、[暴風(テンペスト)]殿には、以前お嬢様の窮地を御助けいただいたまま御礼を受け取っていただいておりません。このまま彼女の友人達を殺してしまえばニルギリ家の面子は潰れましょう。」


 若い貴族は、八つ裂きにされる説明の下りでは、流石に嫌な顔をしたが、面子が潰れるあたりでは、うんうんと頷いていた。

 「ふむ、…礼には礼を持って返さないといかんな。貴族の務めであるに、全てに優先する。よし!本日のところは帰ろう。ゴルド卿とも盟約も結べたし、成果は十分である。さらばだ、皆の衆。命を救けた感謝も礼も不用じゃ。ワッハッハ、行くぞ!シルバー。」

 こうして、戦闘は回避された。


 あれれ?

 呆然としながら、足早に立ち去る主従を見つめた。

 …僕ら、もしかして救かったの?

 話しの展開の早さについていけません。


 「皆の者、避難じゃ。本当に時間が無いぞ!急げ!」

 カラフルな衣装を身に付けた小さな女の子が、大きな叫び声を上げたことで、気がついた。

 そう、サンシャは、まもなく崩落する。

 僕らは、そそくさとサンシャを後にした。


 避難する途中でギャルさんがルフナに向かって、目を丸くして叫ぶように話し掛けてるのが聞こえた。

 「お兄ちゃん、なんばしょっとか!こげんとこで働きもせずにそげな恥かしい格好でなにやっとるばい?ちゃんと就職したと聞いていたのに!…お母さんに言いつけるよ!」


 え!ギャルさんとルフナって兄妹だったの?

 …世間って狭いな。

 ルフナは誤解を解くのに大分四苦八苦していたけど、それは又別の話しです。




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