珈琲
朝食後の食堂に珈琲の香りが漂う。
戦う為には、まずは情報収集が常道だと、僕は思う。
知らなければ、見えないこともある。
要所を潰して、それで済めば楽だしね。
相手が何を望んでいるのか知りたいから。
この会議で方針が決まれば、後は行動あるのみ。
まずは目的地をハッキリさせて、ルートを決めるのだ。
「えーと、実は情報収集をギルドに依頼していて、回答が来たので連絡します。回答は大まかに分けて3つありました。」
ざっと要約して、皆に話す。
一つ目、依頼人について。
男性、65歳、元公益財団法人●●●会長秘書。現公益財団法人○○○執行部執行役員、都市民、第3区在住。
殿下との接点は、ありません。
面会は拒否。依頼した理由も拒否。
二つ目、殿下の特異活動について。
殿下の役割は主に他の有力貴族との外交ですが約1年前に一度だけ、衛生都市代表代理として査問会に出席されてます。当時査問会に出頭し、処分を受けたのは、現在は解体されている元公益財団法人●●●会長◉◉◉◉。当時75歳、いわゆる奴隷契約事案の当事者。唯一、責任を取って処断された。刑罰は死刑以上。
三つ目、一つ目と二つ目が繋がる奴隷契約事案の関係者について。
ここ1年で、関係者6人が死亡。死因は、自殺、事故、他殺、病死と多岐に渡りますけど、これって偶然ですか?
更に殿下と殿下のご家族、アッサム衛星都市を守る衛士隊からも自殺者が今年になって既に二人出てます。
食堂内が静まりかえる。
食堂の掃き出し窓から、お陽さまの光が差し込んでいる。
左様に今日は良い天気らしい。
都市内の一等地にありながら、この邸宅は庭が広くとってあり眺望が素晴らしい。
春に来られたら、花々が咲き、華やかな眺めになっていただろう。
また、来たいな。
珈琲に口をつける。
僕が珈琲カップを受け皿に置いた頃、おもむろにギャルさんが挙手をして、発言する。
「衛士隊の自殺は、あー、なんてゆーか、実は毎年あって珍しいことではないので、今回の件とは関係ないかも。」
え?マジですか。では、少なくともギャルさんが配属された5年前から毎年?
「キッチリ毎年というわけではないけど、珍しいことでもないので気にしてなかった。」
そう言いながら、ギャルさんは渋い顔をしていた。
面識ないけど仲間の不幸であるからギャルさんにとって好ましい話題ではないのだろう。
「私もギャルと同意見です。ただ自殺者が多数でるのは異常です。何某かの問題がある証拠です。前から耳にはしていたのですが、異常事態に感覚が麻痺していたようです。今回の件が片付いたら、お父様に相談してみましょう。」
殿下がギャルさんの方を向いて、語りかけた。
クラッシュさんがゴホンと咳をして話し始める。
「これは明白ですな。奴隷契約事案で殿下に恨みを持った、この元秘書の依頼人が差配してるに違いない。やられたら倍にしてやり返すのが我輩の信条。我が神も申してます。100倍返しだと。今なら神の慈悲により倍返しで、プチッとミンチが適当な処置ではないかと。」
なにやらクラッシュさんが剣呑なことを言っている。
「えー、ミンチはちょいヤダかなぁ。でも元秘書さんとは限らないじゃない?例えば処断された会長とかさぁ。一番殿下を恨んでそう。こういう人って心狭そうだし。きっとそうだよ。私の勘!」
まあ、結構ギャルさんの意見が順当かも。でも会長って処断されてるのに今も生きてるの?回答書には死刑以上の刑罰だと記載されている。死刑以上って何?
「お姉さま、死刑以上とは、秘匿するような情報ではないのですけど…。」
殿下は、知ってるらしいけど、あまり言いたくないらしい。
頷いているクラッシュさんも知ってるらしい。
では具体的な死刑以上の内容を知らないのは、僕とギャルさんだけ。
なんだろか?
古今東西の残虐な刑を思い浮かべる。
…
うん、これはあんまり良い気分ではないね。
「死刑以上の刑罰とは、…。」
言い淀んだ殿下に代わり、クラッシュさんが説明し始めた。