廃墟の森
まずロッカールームで制服に着替え、装備品を身に付ける。
しかし、毎回思うけど、このロッカールームの狭さは何とかならないのだろうか。
もしかして潜水艦の中って、こんな感じなのかな?
人は、反省と改善で成長するが、組織も反省と改善で成長するのだろうか?
もし、そうならばロッカーの狭さもいつか直るのだろうか?
…着替えながら、狭さに辟易して毎回改善を願ってしまう。
でも既に僕は、その回答を知っている。
答えは、永遠に直ることは無いだ。
何故なら、偉い地位と権限を持つ人は、狭いロッカーを使わないからです。
稀に、手違いで使う事があったとしても、その人に意志と暇が無ければ、現実化する事は無い。
まさに奇跡の所業。
無理、無理、無理だから、絶対に無理。
期待するだけ無駄だから、期待しない。
でも、たまに日常で、そんなミラクルが見てみたい。
しかし、絶対有り得ないので、僕は、あいも変わらず、ルーチンワークのように、ロッカールームの狭さは何とかならないだろうかと毎回、思ったりするのだろう。
これこそ、まさに思惟の無駄遣いなので、考えの隅に追いやり、着替えながら、受注した依頼と出る前の注意点を考えてみよう。
…今回は、都市外から離れた辺境近くの探索のお仕事。
…
よし、装備品の点検をしておこう。
忘れても、取りに戻れないし。
もっとも僕は、辺境探索でなくとも、就業前後は必ず装備の点検を行っている。
要所要所で確認する事は、大事な事だから。
今、自分に出来ることを行う。
当たり前の事だけど。
とにかく準備は最大限に行う。
それが結局は自分を助けることを経験則から知っているからだ。
集合時間には遅れない。
遅刻は絶対に駄目。
少なくとも一時間前には着き、準備、点検、確認、挨拶、連絡を済ませて、30分前には集合整列し、何にでも対応出来る態勢を整える。
これも当然のことだ。
さて、仕事に就く前に、ここでギルドの階級の補足説明をしておきたいです。
ここで、理解しておくのが、後々の話しが分かりやすいと思うから、耳をかっぽじって良く聞いてね。
ギルドの組織では、実力主義のランク制を取っている。
色と星の数で区分された18階級は、先に説明した通り。
実は、これは当初、単に当人の実力を表すだけのものだった。
しかし、集団で依頼を受ける場合、いつしか組織内の指揮系統と自然となってしまったのだ。
集団で動く場合は、指揮官である階級が上の言うことは絶対であるとされた。
バラバラだと、集団戦にならないからね。
逆に、個で動く場合は、対等であり、階級は単に実力を示すものでしかないとされる。
今回は、探索の為の臨時編成部隊なので、赤星1個を指揮官にして、青星1個の私が副長、黒星が8人の分隊編成である。
軍隊で例えれば、赤星1個が少尉の士官、青星1個が下士官の伍長に対応している。
今回の依頼は、都市外で危険であることから、黒星以上の編成です。
赤星は、30歳代半ばの工科の人だった。
要は技術職であり、観測、測量、撮影を今回行う。
よって、赤星さんが行き先を指示して観測等を補助の黒星3人と行い、僕が他の黒星と共に、赤星さんらの護衛任務となるのかな。
「宜しく頼むよ。私は観測に専念するから。」
挨拶に行くと赤星さんから声を掛けられ肩を叩かれる。
…つまり、実質的に全体指揮は僕ということですね。
了解しました。
今回の依頼期間は3日間。
赤星さんの名は、アリ・ロッポさんと言う。
アリさんと、その場で計画を立てる。
目的は辺境地の観測、手段としての測量、撮影を行う。
黒星3名で測量と撮影を補助する。
僕を含め6人で周囲の索敵と観測隊の護衛。
車両2台に分乗、車両区分、食糧買い出し積込、観測資材積込、ガソリン確認等、運転担当、任務分担を決める。
二時間で準備し、10:30に即発した。
見知らぬ場所を、探索するのは好きだ。
辺境にも、一口に言って色んな場所がある。
今回の探索場所は、文明崩壊してから、全くの手付かずの、昔は人が住んでいた形跡のある元文明圏だ。
仕事ではあるが、楽しみでもある。
やっほー。
ベテランの黒星に運転を任せて、先導車の後部座席に陣取る。
僕を含め戦闘力の高い4人を先導車に乗せて、索敵し、いざとなったらアリさんの乗る追同車を、先に逃がす予定だ。
エコの速度で車を走らせてる後ろで、流れる景色を見る。
荒野だ。
一面の荒野だ。
遥かな遠方に山々が見えるよ。
僕達の目的地は、山々まで行かない途中の朽ちた住宅群地帯だ。
文明圏から外された、この旧住宅群地帯は、何らかの影響なのか草木が伸び伸びて、周囲の荒野とは一線を画すほどの建物と樹々が混在した地となっているそうだ。
通称名、廃墟の森。
朽ちた建物、樹々に支配された都市…滅びの都。
いやいや、実に楽しみだよね。
車の振動が心地良く、目蓋を閉じて、しばしまどろむ。
夢を見た。
前世、家族で車で出掛ける夢です。
ああ…なんて懐かしい。
楽しかったなぁ…。
二度と出会うことは無い僕の前世の家族。
還ることの無い日々…。
車のガタンとの振動で瞼を開け夢が途切れる。
ああ…僕は今は一人だ。
分かっていた。
だから気にしない。
でも、たまに胸が苦しくなる。
大丈夫。一人には慣れている。
…僕は又瞼を閉じた。