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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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黄昏れの指し手②

 私の面前の、白い端末画面が暗闇の中、切り取ったように浮かび上がっている。


 ここは、冒険者ギルドの私の個室。

 私の名はダージリン。

 今は、それだけを覚えといてくれれば良い。

 普段は受付だけを生業とするけれど、[黄昏の姫巫女]様が戦っているのに私が安穏と寝ているわけにはいかない。


 カタカタと私がボードをイジる音が、私以外誰も居ない部屋に、夜半から鳴り響いていた。


 …やるだけのことはやりましたわ。


 今は未明…夜明け前で、外はまだ暗い。


 …恐るべき相手だ。


 徹夜で、情報収集し、解析して、指示連絡して…敵に備えた。

 初めは、上手く行っていた。

 だが、途中から悟られたようだ。

 …筋道が変化したのだ。

 敵手は、偶然を創り出し使ってくるらしい…あまりにも自然な作為不作為に、意図した糸を忍びこませるやり方…判別など出来ようはずがない。


 …読めない糸を読む。


 膨大な情報から、ほぼ無限大に渡るシュミレーションが脳裏に浮かび沈んでいく。

 脳内の糸がブチリとショートして擦り切れそうになるが、まだまだ大丈夫。


 ふふん…ダージリン一族一の指手を舐めるな。


 無論、私の小さな脳に情報は無限は収まるはずもないから、各シュミレーションの代表たる一片の欠片が顔を出すだけである。

 氷山の一角にすぎるから、まだ平気。

 

 …


 電子の海を走査してると、画面の向こうにいる敵手の顔が見えてくる。

 敵が人間である以上、手繰る糸にも好みがでる。

 其れらを抽出して精査に掛ける。

 それは、まるで砂漠から一粒の砂金を見つけ出す行為に似ている。


 …


 …



 …




 …だが、痕跡を見つけた。

 案外に脇が甘い。

 まるで、自分と同等の者と対手したことないような幼いミスを各所に残している。

 …罠?

 初めは、そう思った。

 ワザと痕跡を残し、掛かったら罠ごと全滅させて痕跡すら消し去る。

 私が、良く使う手だ。


 …だが違うわ。

 あまりにも自然すぎて、もしこれが罠だとしたら恐るべき手練としか言いようがない。

 些か気になるが、罠ではないと判断して踏み込む。


 私には敵手の底が見えた。

 恐るべき技量の持ち主だが…この者はまだ幼い。

 まるで産まれたての仔蜘蛛のよう…だが、その天から授かったギフトとも言うべき糸を紡ぐセンスは侮れない。

 

 ….だが、調子に乗り過ぎですよ。


 敵手の意図に合わせて、対抗できるよう全体の事象を調整して推移させる。


 …場所をサンシャに誘導させる。


 いや、…私ではない。

 全ては、天の配剤である。

 私は、少しだけ角が取れるように調整するだけ…あの場所は、近々崩壊する。

 あの場所ならば、姫巫女様が暴れても大丈夫。

 管理者のベル伯爵は、公正で生命の大切さを知ると定評がある[橙の精霊]の一族。

 長のハロウィンとは知り合いで、中道より味方になってくれるだろう。

 なにより公正さと生命を尊ぶならば、[黄昏の姫巫女]様のお味方に自然となるに違いないと確信している。

 第三者の避難誘導はハロウィンに任せておけば間違いはない。


 それにサンシャは、ルフナ准尉のホームグラウンドで、既に私が意図するより早くサンシャ入りしている。

 …流石ですね、ルフナ准尉。

 まるで、私が感知できない異能力を持っているかのようで、[無名の英雄]の二つ名は伊達ではない。

 これは私にも姫巫女様にも好都合の展開。


 私達のリードですよ!どうしますか?[仔蜘蛛]よ…。

 私は、敵手の幼い伝手から、仮に名前を[仔蜘蛛]と名づけた。


 敵手が銀狼騎士団を籠絡するならば、ニルギリの長子に会談場所を思い付かせるよう僅かに情報を一滴、紅茶にブランデーを入れるかのように投下する。

 …これは誘導ですらない。

 長子が自分の意志で勝手に決定しているだけ…。

 だが、敵手は、私と同じ手腕で、[冷徹者(アイスマン)]を護衛として、選ばせたようだ。


 …やりますね。


 これは、やられた気がする。

 飛車級の駒を盤外から、いきなり投入された威力があります。

 ならば、こちらは複数の金と銀で、対抗しましょう。

 正面からの戦いには使いづらい角行も今回投入です。

 更に遠間から、香車と桂馬を調整して決戦の時間に間に合わせる。

 敵手が用意した罠は、…逆に大量の歩を獲得できるだろう。


 …私は自然と笑みを浮かべていた。


 きっと私が、この様に差配しなくても姫巫女様ならば、きっと敵手の意図を挫くに違いない。

 だから、これはほんの手助けに過ぎない、

 なにより彼女が歩む王道を、たかが[仔蜘蛛]如きの薄汚い浅薄な意図で汚されるのが、私には我慢ならないのだ。


 [仔蜘蛛]よ、[黄昏の姫巫女]様に対し、()が高い…身の程をわきまえろ。



 …



 …





 …








 窓から、白じんだ空が見え始めた。

 …朝がきまし…のね。

 既に、私の脳は、満遍なく使い過ぎてエネルギー切れを起こしている。

 …まるで、力が入りゅない。

 だが、そりは敵手の[仔蜘蛛]も同じに…違いない。

 

 …


 私は、前日、珈琲専門雑貨店のギルティから、期間限定で買って来た珈琲粉を取り出しセットして、お湯を入れた。

 珈琲の良い香りが部屋中を充満する頃、冷蔵庫からシュークリームを取り出して休憩に入る。


 現場では戦いは、これからです。

 私も彼らと思いは一緒ですけど、現場とは違い珈琲を飲む時間は取れる。

 些か後ろめたいですが…これは、これから、より良く素早くバックアップに対応する為の、脳への補給と覚醒のためだから、許して欲しい。


 …


 あら、珈琲の強烈な苦味がシュークリームの甘さを引き立てて、とっても美味しいわ。

 こんど姫巫女様にも、ご馳走してあげたい。




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