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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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ギャル達、縦横無尽に暴れ廻る(後編)

 あれ以来、ケンちゃん達は甲斐甲斐しく私達の世話してくれる。

 それは、信用せず出されたお茶を飲まなかったメイベルやジルにもご同様です。

 人を疑いたくはないが、厳つい男達が私達に、こんなにも親切なのは何故だろう?

 …

 …

 …

 先入観は持たないと言っておきながら、舌の根の渇かぬ内にこんな疑いを持つのは人として、どうなのだろうと思いつつも、考えを巡らすうちに、私という人間は、基本、人の善意を信頼してないことに思い至った。


 私の中の、真実を見つけてしまった気がして、少し興奮。

 普段、私は、こんなに考えないので、このような解答に至るのは頭が良くなった気がする。


 いつもは思うがままに動くだけである。


 今日は、柄にもなくちょっと考えてる。

 まるで、私より考えるに長けた人の思考の影響を受けてるような…もしかしたら先祖に私とは逆タイプの人がいて、今、守護霊となって智慧を貸してくれてるのかもしれない。

 … … …

 …そんなわけないか。

 

 だが…なるほど、人の善意を信頼しないとは、これもまた先入観の一つに違いない。

 この先入観は、良いとも悪いとも言えない。

 多分、私のこれまでの経験に裏打ちされた現実に即した思考の偏り…だからだ。


 いや…世の中には本当に善意の人もいるとは知っている。

 だが同時に、善意に依存して負担になってはいけないとも思うのだ。


 世の経済とは、つまるところ資力で廻っている。

 資力とは、平たく言うと金と人です。

 人はお金で雇用できるから、一言で言うと、お金です。

 世の中はお金で動いている

 金とは、資材や箱物、土地といった動産不動産といった財も含む。


 お金の効力は絶大…私の生活もお金で巡っている。


 だから個人の親切や善意からなるボランティアでは、恒常的には成り立たないと思う…組織化しても地盤が弱い。

 そこにお金を流して初めて組織が生きる。

 だから、私は個人の善意は信用はしても、信頼してはいけないと思っている。


 甲斐甲斐しく世話をやいてくれる彼らを見るにつけ、その善意と親切心に感謝すれこそすれ、何も含むところはないはずなのに、妙な座りの悪さを覚えるのは、きっとお金が介在してないから。

 報酬が無いのに何故に彼らは、こんなに嬉しそうに協力してくれるのだろうか?

 一文の得にもならないのに?怪しい?


 …親切に過ぎる気がする。


 メイベルに、心でそこら辺の疑問を投げかける。

 すると、言葉と同時に少しの驚きと疑問と呆れた気持ちが伝わってきた。

 (はーー、あんたがそれ言う?こいつらの思惑なんて決まっているでしょう!…鏡でも見て考えてなさい。)


 (まさに同意。ギャルは己れを知るべき。)

 メイベルと顔を見合わせて、思念で会話していたと思われるジルの内心まで、今回は少し読み取れた。

 むむ…もしかしてジルの思念が読み取りにくいのは、普段読み取れないよう表層思念を沈黙させてるのか?

 …ジルの回答は無かった。


 二人の言ってる意味が分からない。


 でも二人のことは信用も信頼もしている。

 多少臍曲がりなところもあるが、信用できる人格だし、信頼たる高い能力を持つ。

 私よりも優秀な自慢できる同僚です。


 その二人ともが主張してるならばと、せっかくなのでコンパクトを取り出して、鏡に映っている私を見た。

 …

 そこには変わり映えしない、いつもの私の顔が映っているだけだ。

 …何もピンと来るものがない。

 …分からない。

 不細工ではないとは思う…かと言ってアールちゃんほど造作が整っている訳でもない…産まれてきてから今まで見慣れているごく普通の顔ですが。


 ヒントを出して貰って、考えてみても分からなかった。

 むむ…私の頭が悪いのか?

 やはり、考えるのは私の柄ではない。

 今日は、何故だが知らないけど考え過ぎている。

 不思議現象です。


 よし!下手な考え休んでニタリです。

 考えるのは、私より頭脳に長けたこの二人に任せよう。

 頭から煙が出てショートしそうです。

 私は、余裕ありで二人に向かいニタリと笑った。


 私の余裕ある笑顔に、何故かジルとメイベルの表情が強張った。

 まるで私に畏れを抱いたような…とにかく、私の気分は楽になった。

 …らしくないことはしない。

 私は自分の出来ることに全力を尽くす。


 …


 それは、突然の一報だった。

 休憩していたカフェテラスに駆け込んで若衆の一人がケンちゃんに急いでる調子で報告する。

 「ケンちゃん、大変だよ。閻魔焦熱地獄組の奴らが小さい女の子を事務所に連れ込んだって情報が聞き込み先から…」


 途端に私の意識がカチリと鳴った。

 若衆の首根っこを右手でガッシリ掴み、立ち上がる。

 口から蒸気を噴き出さないよう低く静かに言葉を紡ぐ。…大声を出して驚かせてはいけない。

 「…案内(あない)しろ!」

 首根っこを私に掴まれた若衆が、青い顔してアウアウ言いながら、指で向こうを指し示す。


 私の出番だ!


 私は、そのまま若衆を右手で掴んで引き摺るようにして、駆け出した。

 現場では、巧遅より拙速を尊ぶ。

 間違っているかもしれない…だが本当ならば一刻の猶予もない。今は決断し、行動するとき。

 間違ったとしても、誰かが決断しなければならないときがある。

 先の不安で心臓がドキドキし、責任の重さに頭がクラクラします。


 今に集中し、突貫する。



 …



 私は、案内された閻魔焦熱地獄組の事務所前まで来ると、錐揉み状に蹴りを放ち、扉を蹴破った。





・ー・ー・ー・ー





 …捕らわれた少女は、救う事が出来た。

 だが、…殿下ではなかった。


 そして、私と、慌てて着いてきた女騎士ジルとメイドのメイベルにより、閻魔焦熱地獄組は壊滅した。

 情報が不確定だったので、取り返しが付かないことがないよう武器使用せず、二人にも指示して、無手で全員倒したから、…多分、死人は出てない。

 もし本当に殿下を拐っていたら、この部屋は血の海になり誰も生きてはいなかったろう。

 貴族に逆らうとは、そう言うことだ。

 だが、私とて血生臭いことが好きなわけではないのだ。


 なんて理性的な対応…自分で自分を褒めてあげたい。


 昔、衛士隊で犯罪組織のアジトと思われる場所に突入したとき、些か私の突入の仕方が乱暴だったのか…可憐な私のことをゴリラ呼ばわりした上司や後輩がいたが、当時は超ムカついた。


 今でも思い出すと、ムカつく。


 ふふん…だが見なさい。


 …


 全員倒れてるだけで、死んでないじゃない。

 ピクピクしてるから、皆んな大丈夫。…多分。

 損害は、ひしゃげた扉と割れた窓ガラス、真っ二つに割れた机や席だけの物損だけだ。

 

 この様な甘い優しい対応は、アールちゃんの影響かもしれない。賛否両論あるかもしれないが、私は、これはこれで良いと思っている。

 可憐かつ優しい私…に相応しいやり方だと思う。

 アールちゃんだって、「オケラだってミミズだってアメンボだって、みんなみんな生きているんだ。」って言ってたもの。

 …こいつらも似たようなもの。


 だがこれでもし更生せず、頭悪い行動するならば…クラッシュ流にモード変換、即殺デス。

 世の中には、消滅するのがベストケースなものもいることを私は知っている。


 だから注意深く、恨み言を言ってないか耳を側立てる。

 こちらの情けを理解できない頭悪い者は、恨んで来る可能性が高い。

 そんな者は面倒だから、あらかじめサクッと処分するのです。

 だが杞憂だったようだ。


 …捕らわれていた少女は、サンシャ自警団に引き渡す。

 か弱い私達にも親切な対応してくれた商店街の子息らならば、適切な対応をしてくれることだろう。

 だが念の為、少女には、自警団の団長はロリコンだから注意するよう言い含めておく。

 泣いていた少女が、クスリと笑った。




・ー・ー・ー




 外れ情報が、あの後3件続き、組事務所を同数壊滅させ、少女達を救出した。

 流石、悪の巣窟です。

 日常的に、この様な悪業が横行しているとは…。


 「ケンチャン殿、少々ハズレ情報が多くはないか?」

 言葉は丁寧だが、女騎士が苛立たしそうにケンちゃんに詰め寄っている。


 今は、三階のオムライス屋で休憩です。

 本来なら昼前の開業なので、開けるには早かったけど、自警団にオムライス屋の息子がいたので、問題はない。

 ケンちゃが、そんな女騎士の前に、トロトロの湯気が立っているオムライスを申し訳なさそうに持っていく。

 ケチャップの美味しそうな匂いが此方にまでハナにつく。


 あ、あれ、絶対美味しいヤツだ…。


 今まで苛ついていた女騎士のジルの表情が溶けるように変わった。


 案外チョロいのですね…ジルさん。騎士ともあろう者がオムライスに釣られるとは。


 そう言えば、朝の未明から強行軍で車を全速で飛ばし、朝食も食べずにフルで動いている。

 私のお腹も、食べ物の匂いに触発され、キュッと鳴った。

 

 そんな私の前にもオムライスが…。


 え!…食べていいの?

 私は、ケンちゃんを見た。

 ケンちゃんの厳つい顔が、神父のように優しく頷いた。

 「無駄足踏ませたお詫びで御座います。…罪のない女の子を救出してくれてありがとうごさいます。」

 ケンちゃんが、私達にお礼を言ってきた。


 …


 私は、…ケンちゃんを見誤っていた。


 オムライスを一口食べる。


 誤解していたよ。


 …美味い、ビックリする程に美味しい。

 卵の食感と甘みと温度、ケチャップライスの酸っぱさと旨味が奏でるハーモニーが絶品です。


 みくびっていたとも言う。


 奢ってくれてありがとう。

 美味しくてスプーンが止まりません。


 偉いよ。ケンちゃん。

 あなたは、唯のロリコンではない。

 …訂正しよう。

 ケンちゃんは、凄いロリコンだ。

 彼は、どうやら全少女の保護者のつもりらしい。


 ふー、ご馳走様でした。

 あっと言う間に食べ終えてしまいました。



 因みに、メイベルの前には一番早くオムライスが置かれていたことは言うまでもない。

 うんうん…一貫してブレない。

 彼は真のあるロリコンだと認めようじゃないか。





 ちょうど、私達がオムライスを食べ終えた頃、最新の次なる情報が来た。

 「ケンちゃん、地下1階の中央広場で、少女が騎士と貴族に喧嘩を売ってるって情報が…。」

 同時に、魔法力の波が通過したのを感じた。

 サンシャの壁が、アチコチ光りだし、光り玉が飛び回る。


 …驚きはしない。

 アールちゃんと一緒に過ごした経験で、こんな不可思議現象は慣れている。

 良く見ると、光り玉は、小妖精です。

 耳を側立てると、アブナイカラニゲテと喚いている。


 このような大規模の警報の作り…これは、多分、サンシャの管理者からの緊急時の避難警報だと、直感する。

 だが私達は、避難しない。


 …意識がカチンと切り替わる。

 私は、多少驚いた様子の二人に言い放った。

 「ジル、メイベル、腹を括りなさい。これより私達は殿下を救出に行く。避難警報は無視する。」


 私は、確信した。

 騎士や貴族に喧嘩を売る少女など、キャン殿下以外考えられない。この情報は当たりだ。

 ならば、至急駆けつけて、私達は、殿下のお味方をしなけなければならない。

 一刻の猶予も無しと判断した。


 だが、この時、突如、怒涛の揺れが大音響と共に来た。

 世界が揺れている…景色ごと視界がブレて身体が浮いている気がする…立って居られずに坐りこんだ。

 世界が軋んでいるような不快な音と揺れが永遠に続くのかと思われた頃、その揺れは突然止んだ。


 思わず閉じていた眼を開けると、周囲は一変して瓦礫と化していた。

 むむ…オムライス食べ終えていて良かった。


 私は、眼があったジルに、先に行く旨を告げるとオムライス屋を飛び出した。

 この様な予想しない変異の直後では、人はなかなか動くことは出来やしない。

 だが、それは殿下の敵対相手も一緒であろう。

 尋常ではない相手でなければの話しだが…。


 だがピンチは、逆にチャンスでもある。

 

 私は、瓦礫を避けて、中央まで走って行くと、吹き抜けから下を見下ろした。…キャン殿下、ご無事で御座いますか?

 思わず目元が潤む。

 …

 だがこの時、金髪の若い男が、吹き抜けを下から、この階まで浮き上がってきたのだ。

 「キャッ…。」

 これには私も驚いた。

 思わず驚きでた声を抑えるため口元に手をやる。

 きっと、目も丸くなってるに違いない。


 男の顔は、歪んで腫れ上がっていた。

 原色のカラフルな衣装が、あまりにも周りと溶け込んでいない…もしかして夢かマボロシ?


 だが男は、そのまま落ちていった。

 床に叩きつけられて、吹き抜けの上にまで、その音が響いたので現実であると分かる。


 恐る恐る柵越しに吹き抜けの下を覗くと、キャン殿下を発見したと同時に、…アールちゃんも発見した。


 凄い、偉い、嬉しい、流石アールちゃんだ。

 既に私より先に、殿下を発見していたとは!


 むむ…だが、いつものアールちゃんとは様子が違う。

 私には分かる。


 そして、先程宙に華麗に舞っていた若い男が騒ぎだし、執事風の男が、アールちゃんの方へ歩きだしている。


 一目見て、その男が尋常ではないと分かった。

 アレはマズイ。

 状況から、アールちゃんの敵と認定した。

 そしてアールちゃんは、理由は不明だけど不調とみた。


 執事とアールちゃんは、互いに距離を置いたままの状態で、緊張感をはらんだまま、周りの空気が揺らぎ、余波の風がここまで押し寄せて来た。

 何が何だか分からないけど、二人が戦っているのが分かった。

 そして既に、台風の様な風の渦が辺りを席巻しだしている。

 …尋常でない事態が起こっている!


 私の良い所は、決断力の早さです。


 えーと、アールちゃんの敵は、私の敵で、おそらくキャン殿下の敵でもある。つまり、…乙女の敵です。


 ならば、躊躇する必要もなし。


 アールちゃんも確か言っていたもの…「女は度胸!」

 私の友達の言葉に嘘はない。

 私は、柵に足を掛けて飛び出し、吹き抜けを飛び降りた。


 …救ける、絶対救ける。

 

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