ギャル達、縦横無尽に暴れ廻る(中編)
「ケンちゃん、ケンちゃん、…バスの発着場と会館の住居階には、居なかったよ。」
「ケンちゃん、劇場には、来てないよ。」
「ケンちゃん、ペンギンランドとプラネタリウムにも来てなかったぞ。」
次から次へと、チンピラ改め門番頭改め、洗濯屋のケンに情報が集まってくる。
あれから私達は、商業地区を回遊して捜しながら、門番改め商店主の息子達らで結成された自警団員達の報告を次々と受けている。
やはり一朝一夕では、殿下は見つからない。
人探しは…焦っては、いけない。
それにしても、洗濯屋のケンは、なかなかの人望のようだ。
若衆達から、ケンちゃん、ケンちゃんと慕われている。
考えてみれば、ケンちゃんは、治安の為に、サンシャの門番を仲間に募ってまで自主的に務めたのに、私達に理不尽にもボコボコにされた。
それなのに、ボコってきた私達に協力して殿下を一緒に捜してくれている。
これは、なかなか出来ることではない。
私だったら、実力で敵わなかったら、絶対恨んで罠に嵌めようと画策するに違いないのに…?
…
…
…
今では親切なケンちゃんの顔つきが、下卑たいやらしい顔つきに見えた。
「ギャルの姐さん、いかがしましたか?お疲れならば休憩しますか?…ウヒヒ。」
いやいや…いけないいけない。
人を、顔や言葉遣いの外見で判断するなんて。
それと、単に初見の印象が最悪だっただけ。
そう言えば、こいつメイベルにご執心だったっけ?
ケンちゃんは、もうよい歳なのにロリコンなのだろうか…?
いやいや…イカンイカン。
ロリコンだって良いじゃないか…人間だもの。
外見の顔つきや言葉遣いがいやらしくて、中身がロリコンだって、即、悪人と決めつけるのは、それは先入観と言うものだ。
「姐さん、お茶で御座います。寛いでくだせい。ヒヒ。」
ああ…こんなに親切なのに、少しでも疑った自分が恥ずかしい。
…うん、いけないね。
これは、先入観に囚われて、人物を誤ってはいけない。
そうでしょう?
だから、ケンちゃんが持ってきたお茶にも口を付けた。
うん…冷たくて美味しい。
途端にケンちゃんが笑いだした。
「グフ…ククク。飲みやしたね。」
…!
「そのお茶は、シズオカから取り寄せた100グラム5000イエンの上物の玉露でさぁ。その味わいは爽やかなのに余韻に深みが残る、まさにギャルの姐さんに相応しい逸品。私が姐さんの為に選びました。是非ご堪能してくだせぃ!…それにしても戦った私らを信用して出された飲み物を躊躇なく飲んでくれるとは…その度量の広さ深さに、この洗濯屋のケン、新ためて感服いたしやしたぁ。流石姐さんです。こんな外見のあっしらを信用してくれて感動しました。」
ケンちゃんは、言葉通り涙を流して感動していた。
「…ギャル、迂闊、普通は飲まない。」
冷静なメイベルの声に、当の本人を見たら、全く飲んでいなかった。
飲んだフリだけで飲んでいなかったらしい…量が全然減ってない。
もう一人の女騎士に至っては、持参してきた水筒から飲んでいた。
「…いや、我が流派では、大昔、尊師が毒殺されてな。以来出された飲み物には口を付けるのは厳禁なのだ。どうかご理解いただきたく願いたい。」
ジト目で見てたら、そんな言い訳をしだした。
この子達、私よりも歳下だけど、よっぽどしっかりしている。
…でも、それならそれでお姉さんにも教えてくれないかなぁ?
そう思いながらメイベルの澄まし顔を見てたら、考えていることが読むことができた。
(…未熟者、精進しなさい。)
私は、溜め息をつきながら、お茶を一口飲んだ。
ケンちゃんの解説どおりの味わいに、確かに美味しいと思う。
…なにより、この気遣いが嬉しい。
よし、たとえケンちゃんがロリコンでも私は先入観を持たないぞ。
…キャン殿下は、まだ見つからない。




