ギャル達、縦横無尽に暴れ廻る(前編)
私ことギャル・セイロンと愉快な仲間達…女騎士ジルとメイドのメイベルは、チンピラ改め門番の若衆頭に案内され、一緒にサンシャの中に入った。
ほへー、初めてサンシャの中に入ったよ。
昼間だというに照明がふんだんに使われ、窓など見えない建物の中なのに、外と同じくらい明るいです。
…
意外な感を抱いて、中央のフロアまで来ると周りを見渡した。
悪の巣窟、築5000年を経過した建物…古くて暗くて汚いイメージでした。
でも…床を見ても塵一つない。
…
こ、これって、毎日誰かが掃除している?!
だって城と同じ位、綺麗で清潔です。
中央の広場では、階上から滝が地下に落ちている。
…何コレ?
滝から爽やかな風が流れて来るようだ。
これは、流石にアカハの城にも無いよ。
店舗が整然とならび、裕福そうなお客がチラホラと店内を覗いていく。
此処は高級そうで、物が溢れて、衛生的です。
お客は、庶民でないことが一目で分かる服装で、それぞれ護衛か、案内人が付いている始末。
なんなの?此処は…?
サンシャの外の店舗のほうが殺伐として、汚くて、品揃えは、それ程ない。
そんな外のどこか薄汚れた古びた世界とは、まるで違う明るい輝いている夢の街が、悪の巣窟と噂されるサンシャ内に存在してました。
正直言って驚きました。
学生時代に授業で習った超古代の人類文明最盛期のイメージ映像に近い街並みの有り様に度肝を抜かれました。
信じられない…こんな場所にこの様な煌びやかな世界があるなんて。
私が、周りを見渡して呆然としていると、メイベルから救けた若衆の頭が、両手をスリスリしながら、口を開いて説明を始めた。
「へへ、姐さん方、如何ですか?サンシャは、素晴らしいでしょう。なんせここは完全実力制度を取ってますから、法律も規制も関係無く、トビラ都市以外からも大量の物量が、入って来て又出て行きますから、商人には一攫千金のチャンスのある街であり、実力さえあれば、幾らでものし上がれるから脛に傷あるお尋ね者でも再起の場でもある夢の街でもあるんすよ!おいらも、いつかは門番からのしあがって、頭の9人にのし上がるのが夢です!」
おお…チンピラさん改め門番さんが眼を輝かせて夢を語っている。
でも、いい歳をした大人が夢を語っても、正直、全然感動しませんし、…気持ち悪いです。
「そ、そう。頑張ってね。」
ですが無視するのも社会人として、なんなので適当に答えておく。
これは、社交辞令というものですからね。
建前は、社会の潤滑油です。
うーーん、それにしてもまいったなぁ。
こんなにも広くて、人も予想外にいる。
てっきり寂れた廃墟に近いものと思って、ろくに調べもしませんでした。
…先入観ってこわい。
ふと、メイベルの無表情を観ると読心術により、「…当然私は知ってましたよ。事前に調べるのは基本中の基本す。」と読み取れてしまった。
だから「マジ?何故教えてくれなかったの?」と心に思い浮かべたら、「…聞かれなかったからです。」…などと顔から回答が読み取れてしまった。
あぅ、メイベルの薄情者…いや、基本だから私が未熟なだけですか?…反省。
アールちゃんの読心術は、クラッシュ様より先に私の方が身に付けてしまった…しかし私の場合、直感に頼るきらいがあるのか、時と人を無造作に選ぶ。
いきなり、脳にダイレクトに思い浮かぶので、私に選択権はほぼ無く、使い勝手が悪い。
反省はするのは、やぶさかではないにしろ、事前調べを疎かにしたのは、私だけではあるまい。
未熟な仲間を求める気持ちで、振り向いて女騎士の顔を見る。
すると、ジルは、私が見ていることに気づくと顔を赤らめて、…誇らしげに胸の前で右の親指を立ててきた。
いやいや、…よく分からないけど、あなた絶対何か勘違いしてるでしょ?
しかし、読もうとするも、今回の読心は不発に終わった。
私には女騎士の考えてることが全く読めない。
いや、もしかしたら、読めない方が良かったのかもしれない。
どちらにしろ私の読心は、まだまだ当てには出来ないようだ。
…
しばらく方針を考えて、結局ガイドに頼ることにした。
この広いサンシャを見境無く探すのは、広大な砂漠で金の一粒を見つけ出すに似ている。
ローラー作戦は現実的ではないし…それに時間が惜しい。
ここは、素直に新しく仲間?になった夢を語る若者に、私達の用件を話してみようと決めた。
但し、キャン殿下の身分は、やんごとなきお方と称して隠して話す。
もし、彼が私達の話しを聞き終えてから悪巧みを巡らすのであれば、責任を取って私が彼を終わらす覚悟を既に決めている。
無論そんなことはないと思うが…万が一の事を考え、先に彼には心の中で謝っておこう。
キャン殿下は、お優しく慈しみの心をお持ちであるが貴族である。
その殿下を悪巧みの対象にするのであれば、すべからく殲滅しなければならない。
私自身は、そんな処分はしたくないし、厳しい措置であるとは思う。
だがしかし、それが貴族の常識なのだ。
ほとんど庶民に近い立ち位置にいる私であるが、殿下の護衛で中位以上の貴族に接する機会が多いし、また、貴族籍から飛び出した私だけど学業で歴史を習い、貴族としての教養も受けている。
…だから分かるのだ。
人口の僅か1割以下の彼ら貴族の役割は、裁定者であり断罪者であると。
都市民の上で君臨する、厳しく断固とした絶対者が彼ら貴族…青い血を持った高貴なる者達である。
都市民のリーダーたる彼らの立場が揺らげば、都市政府は瓦解して、未だ人類存亡の危機を脱していないトビラ都市は滅ぶ。
だからこそ、断固たる措置を取らねばならない。
…
しかし、今のところ心配は杞憂に終わりそうだ。
…ホッとする。
私達の用件と大まかな事情を聞いた彼は、一切合切承知してくれた。
「ようがす。姐さん達のご要望は、洗濯屋のケンが確かに請け負いました!大丈夫、泥舟に乗った気持ちで任せくだせえ。…へへへ。」
え!…泥舟では沈んでしまうよ!
それに、本業は洗濯屋さんだったんですか?
聞けば、門番に付いていた若衆達は、サンシャの商店主達の息子達であったらしい。
自警団を組んで積極的に治安の維持に当たっていたとか…。
あー、ゴメン。
またも、私は先入観で決めつけてしまっていたらしい。
…
ハッとして、思わずメイベルを見る。
その澄ました顔には、こう書いてありました。
(…分かっていたら殴ったり蹴ったりしてませんわ。)
まあ…そうだよね。
でも、メイベル、君あんだけ殴ったり蹴ったりしたのに、全然動じてないのは、何故ですか?




