見上げれば空(前編)
僕の名前は、ルーシー・ロンフェルト。
夢を見ていました。
父上がいて母がいて妹がいて食卓を囲んでいる。
そして僕の横には、愛らしいテンペスト様がいた。
あれ?何故テンペスト様が隣りに座っているのだろう?
ジッと見てると妹のアンが口を挟んだ。
「お兄ちゃん、いくら新婚さんだからって、そんなに奥さんの顔見つめてたら、穴があいちゃうぞ。」
え?テンペスト様が、僕の奥さんだって…?
いったい何の冗談だ?
そう言えば、何故父上が?父上は確か味方に刺されて…
「何言ってるの?まだ寝ぼけてるの?お父さんは騎士団の副団長に就任したし、お兄ちゃんは騎士になってギルドとの親善試合でテンペストさんと出会って今年結婚したばかりでしょう。もう美人の姉さん女房もらって散々皆から羨ましがられたじゃないの!」
ん…そうだっけ、横を見ると今や僕よりも小さくて可愛いくて、甘い笑顔をしたテンペスト様が僕を見上げていた。
ああ…そうか。
そうだった…僕は学校を卒業して、父上と父上の親友であるゴルドおじさんの推薦で、騎士団に入団して、親善試合で戦ったテンペスト様に一目惚れして、何回もアタックして結婚にこぎつけたんだっけ。
なんだか…今まで悪い夢を見ていたかのようだ。
父上が殺されて、横領の汚名を着せられ、一家離散となり、彷徨い、悪の巣窟へと流れついたなんて最悪な夢だ。
ああ…夢で良かった。
ああ…この幸せが長く続けば良い。
「ルーシー君、起きて。」
いまや僕の妻となったテンペスト様が、僕の身体をゆすってくる。
ははは、やだな、もう僕は起きてるよ。
「ルーシー君、起きて!」
そんなに言うなら、お早うのキスをしてくれれば、起きようかな?…ははは。
身体を大きく揺すぶられた。
途端に 周りの景色が歪んで、真っ暗になる。
あれれ…おかしいな、父上、母上、アン。
何処に行ったんだ?僕を置いていかないでくれ!
…
…眩しい。
瞼を開けると、テンペスト様が心配そうに覗きこんでいた。
あれれ?
僕の顔を覗いているテンペスト様は、美人で愛らしい大人の女性ではなく、可愛く愛らしい十代の少女だった。
「あれ?父上は?母上、アン?」
僕の言葉を聞いたテンペスト様の表情が心配そうなお顔に曇る。
ふと、自分の身体を見れば、まだ小さいままで、テンペスト様に抱き抱えられてる状態なのが分かった。
あれ?…ああ、そうか、あれは夢であったのか…。
あの夢は、父上が不慮の死を遂げずに、幸せを謳歌していた可能性のもう一人の自分だ。
それにしても、テンペスト様と結婚してるなんて、なんて羨ましい。
自分で、自分に嫉妬してしまう。
いや、いい…この際、この世界でも僕はテンペスト様に出会えた。
そして、今は未だ子供だから、こんなことも出来る。
僕は、テンペスト様に正面から抱きついた。
身長差で、ちょうど柔らかい胸の処に顔を埋める。
「キャ…ど、どうしたのかな?寂しくなったのかな?」
甘い香りがして柔らかくて幸福感が半端ない。
ここは天国です…ずっとこうしていたい。
抱き締めて…極楽を堪能する。
テンペスト様からも、抱き締めてくれて背中をさすってくれたけど、…避難するよう促される。
極楽を堪能していた僕は、それで初めて地面が微細に揺れており、周りが壊れて瓦礫が、所々にあることに気がついた。




