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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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君に贈る夢(前編)

 僕は、少しの羨望と懐かしさを覚えながら、足早に去っていくサラリーマンのおじさんを見送った。


 きっと、生意気ざかりの娘さんから頼まれたお土産は、家族全員で食べられてしまうに違いない…。


 前世、今世の家族を懐かしく思いだすと、自然と口角が上がるのが分かった。

 それは、多少の胸の痛みを覚えた。


 …


 少しして、僕は、おじさんの後を追うようにして中央広場方向へ向かった。


 …ストーカーではないよ。


 待ち合わせの場所が、おじさんが向かった中央広場とたまたま同じなだけです。

 きっとおじさんは、広場を通過して、地下からフクロウ駅前の繁華街跡の出口から地上に出て、少し歩いてフクロウ駅から電車に乗るのだろう。

 そして、家族が待っている家路へと着くのだ。

 暖かな灯火のある幸せな我が家へと。


 …


 現世では、サンシャに来るのは初めてだけど…実は前世では何度も来た事があるから、周辺の地理は頭に入っている。

 特にサンシャの商業店舗が並んでいる地下一階から三階については、壁の細かな模様は別として、建物の構造は全く一緒であるから、迷うことはない。


 ちょうど目指していた中央広場にあと少しで差し掛かる辺りで、ソレは来た。


 細かな振動が数瞬続き…

 前方が柱の影で立ち止まったその瞬間、ドーーンと轟音が鳴り響いた。


 地震などは慣れているが、それらと一線を画するような縦揺れでシェイクされ、立っていられず僕は地面に座り込んだ。

 ルーシー君を背中から降ろして、瓦礫が落ちてきても庇えるように上から覆い被さる。

 それから突如、花火が咲くような光りの乱流が、空間一面に展開し、そして爆発音に似た乱雑な音の奔流が無限に思える時間を通り過ぎていく。


 …世界の終わり??

 …早すぎる、まだ、僕はこの世界を何も見ていないのに。

 …まだ僕は、スローライフを実現していないし。


 いろんな思いが錯綜するなか、ルーシー君だけでも救けなければと、ギュッと抱き締めた。



 …




 …






 だが、やがて、…振動は収まった。

 …

 目蓋を開けて、辺りを見渡す。

 アチコチと壁や柱が崩れている…そしてそれはまだ現在進行中らしい…いまなおガラガラと崩れる音がしている。

 

 危ない…サンシャは、もう持たない。

 キャン殿下を見つけて早急にサンシャから避難しなければ。

 驚いたことにルーシー君は、…寝ていた。


 …凄い、君、大物です。


 危急の際なのに可笑しく感じる。

 きっと無事だったことで一安心した反動の感情であると、自己を客観視して見てみた。

 

 だが、このままでは、大丈夫じゃない気がする。

 今のは、多分、余震だ。

 本番は、これから来る…これは予感です。

 僕は直感を疎かにはしない。

 何故なら、数字で計算出来ない無意識の集合知の結果が直感であると思うから。


 可及的速やかに、行動を起こさなければならない。

 僕は、幸せそうに眠るルーシー君を起こすと、寝ぼけ眼で、瞼を擦る彼の手を握り引っ張りながら、中央広場に向かった。


 あちらこちらから瓦礫が落ちる音が断続的に聴こえる。


 驚くべきことに、先程会ったおじさん以外とは誰一人とも遭遇しない。

 既に避難は、僕ら以外はほぼ済んでいるのだ。

 サンシャの管理者が誰であれ、恐るべき手腕だ。

 完璧を通り越して、超超有能です。

 惜しむらくは、僕らを勘定に入れてないことだけど…僕らは自分から居残ったので、恨むのは御門違いである。


 このまま全員で探していれば、全員お陀仏であるから、連絡先を交換していた黒色鎧武者のポンパドール氏に端末から連絡して至急避難するように言う。

 電磁波が飛び交っているのか、かなりのノイズが酷いが、なんとか伝わった。

 それからダメ元で、searchを飛ばすと、この先の中央広場で該当者がヒットした。


 …!


 …え?マジ?こ、これは、適合率9割であるから、殿下に間違いはない。

 残りの1割が不鮮明であるのは、多分空間を飛び交っている電磁波の影響であると予想する。


 思わず、溜め息をつく。


 一安心である…これなら最初から何度もsearchを打てば良かったよ。

 自己の能力を信用出来なかった自分にもどかしさを覚える…うん…反省、反省。

 赤面ものです。


 そう言えば、僕らの先を歩いていた、あのおじさん大丈夫かな…?



 …



 中央広場に着くと、そこには殿下を始め何人かいた。

 それは、searchで把握していたので驚かない。


 僕の視線が行ったのは、壁が崩れたと思われる瓦礫の山だ。


 瓦礫の山の側に…無造作に紙袋が落ちていた。


 …あれは、見覚えがある。


 僕が拾って、おじさんに渡したイヅヅ屋のロゴが印刷してある紙袋です。


 

 …辺りを見渡したが側にはあのおじさんは見当たらない。



 僕は、瓦礫の山を凝視した。

 




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