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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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非戦闘②

 10歳位の美少女が、烈火の如く怒っている現場に出会した。


 「…ゴルド卿よ。既に御主の悪虐非道の行いは白日の下に晒されておる。ロンフェルト卿への殺人教唆、騎士団の経理部長の役職を利用した横領、背任…更に横領の罪を亡きロンフェルト卿に擦りつけるとは恥を知れ。お主も騎士ならば、真実を吐露し、着服金を耳を揃えて返還し、ロンフェルト卿の墓前で土下座して詫びろ。もし反省し恭順するならば名誉ある死を賜るよう私が父上に進言しよう。」


 淡々とした静かな物言いだったが、噴火前の活火山のような恐ろしさがある。

 …怒っている。

 …あれは、絶対怒っている。

 まるで、自分の親を卑怯な手段で理不尽にも殺されたような怒り様じゃい。

 

 もしかして仇討ちか…?


 小さいのに、上位貴族の威厳さえ漂わすほどの少女の迫力に、ワシが声を掛けられるはずもない。

 美少女が怒ると恐ろしいわい。

 しかも…漂う品位から、かなり高位の貴族の子とみた。


 こりゃ、ワシの出る幕はないわいと颯爽と踵を返そうとしたら、横から、ガシッとベル氏に上着の裾を掴まれた。

 (いけません…今、動いたら死にます。)

 突然伝わって来た思念にもギョッとしたが、内容の剣呑さにもギョッとした。


 気が付けば、ワシらと争いの当事者以外、中央広場に人が居なくなっている。

 そして、足元には白い冷気が流れている。


 ドヒャ…なんじゃこりゃ。


 …寒い。

 ブルッと身体が震えた。

 

 怒れる少女に対するは、三人の男達と一人の女。

 恰幅の良い40歳位に見える騎士の白い礼服に身を包んだ男と周りから浮く程の美麗な衣服を着た若い金髪の男がテーブルを挟んで椅子に座り、騎士の隣りにギルドのレッドの制服を着た見事な金髪を腰まで垂らした美麗な若い女が立っており、若い男の隣りには、年配の銀髪の執事が直立している。


 この内、最も眼が引きつけられるのは、執事の男だ。

 なんとも言いようのない冷気が、あの執事から漏れ落ちている。


 こりゃ…尋常ではない。


 まるで、死神と対峙してかのように恐ろしい。

 マジでチビりそうじゃ。


 ああ…来るのではなかった。


 後悔の念が沸き起こる。


 …知っていれば、絶対、ワシ来なかった。


 既にワシらの位置は、あの執事の勢力圏内に入っていると分かった。

 ワシでも分かるピリピリとした死の気配が濃厚で肝が冷えてるからじゃ。


 ああ…ワシ最近調子に乗ってました、御免なさい、許してください。


 ワシのような弱い男が、技術を認められたのが嬉しくて、ついつい物見遊山で悪の巣窟と言われたサンシャに来るべきではなかったのだ。

 ハクバ山探索の時のように絶対無敵(イージス)の盾のアールグレイ少尉殿は、ワシの前にはいない。

 あの頃が、今、無性に懐かしい。

 身体を動かせないので、ワシは頭の中で神に赦しを乞うた。


 …何でもしますので家に帰らせて下さい…家族の元へ。



 …



 あれ?…そう言えば、中年の騎士の脇に護衛のように立っている、長い金髪を波立たしている美麗なレッドには、何か見覚えがある。

 緊張感ある状況を無視したかのように表情を変えない妙齢の御婦人である。

 その身姿からは、レッドの制服よりもドレスの方が似合っている。

 女性としては多少大柄ながら、それがよりゴージャスに感じられた。

 明らかに貴族のご令嬢で間違いない。

 身動き取れないまま見つめていたら、チラッと目が合った。

 …眼の奥が笑っていた。


 …


 あ!…マリー・アントワネット・ディスティルリー・エペ准尉?!だ。


 髪が伸びてたし、雰囲気が以前会ったときと印象が変わっていたので、まるで気づかなかった。

 力が凝縮したかのような強さと静かな自信を感じる。

 それは最初会ったときのような傲慢な貴族の圧力を周りに発していた姿とは見違えるほどの印象。

 しかし、それは弱くなったわけではない…凝縮してより力を増した…そんな印象だ。

 …

 彼女は、最初、アールグレイ少尉殿と喧嘩腰で模擬戦をしていたが、その後は姉妹の様に親密に仲が良くなっていた。

 もし、彼女が窮地の際は、きっとかの少尉殿が黙ってはいないだろう。


 …た、助かったのか?

 一条の救いの明かりが見えた。


 眼だけを左右に動かして、辺りを見渡す…い、いない。

 まあ、いくら少尉殿でも神様じゃないから直ぐには無理じゃろう。

 今、気づいたが、ワシはもう少尉殿を神様と同一視してる節があるなぁ。

 あの時折り少尉殿が見せる神威は、人の域を越えている気がする…だが、小さくて、可愛いくて愛らしい…そして神にしては気やすい。


 それは、遥かな高みにいてワシらを見下ろしている存在ではない。

 ワシらの身近にいつもいて、ワシらの心情に寄り添ってくれる小さな小さな神様だ。

 そして、警戒心が強く、気まぐれなのに責任感強く、身内にはメチャクチャ甘い。


 アントワネット准尉は、彼女の身内で眷属には違いない。

 …纏っているオーラが似ている。


 ここは、待ちだ。

 大丈夫、ワシ、大丈夫…多分ワシ救かるわい。

 まだ、ドキドキするけど、救かる望みは潰えてはいない。





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