[閑話休題]ペンペンとの日常(前編)
或る日の、お休みの日。
今日は休養日なのです。
正確に言うと午前中だけお休み、午後からは働きに出なくてはいけない。
階級がレッドに上がったことにより、ギルドの宿直制度に組み込まれ、待機してなければならない日が出来てしまったのだ。
文字通りの待機ではなく、ほぼ強制的に現場に転進、転進で出っ放しで使われるに際し…報酬は最低賃金です。
…何たることでしょう。
気持ちはムンクの叫び状態。
レッドは士官なので、責任が付いて回る。
宿直は、持ち回りなので一年に一回有るか無いか程度だが、その他、役務も結構あるし。
…いっそのことブルーに戻ろうか悩んでしまう。
しかし、前世と違い今世は、実力主義に相応しい報酬が約束されていて、レッドへの普段の依頼料金は、僕からみると破格であり、それだけが降格の願望の歯止めを掛けている。
むむむ…ままならない、ままならないなぁ…。
休養とは身体を休める日であり、安息日であり、正々堂々と怠けられる日であります。
だから、午前中限定とはいえ、しっかりと休みます。
休むから働けるのだ…両者は表裏一体の関係、どちらも大切、どちらも疎かには出来ないのだ。
もっとも農家、畜産業の方々は一日も休めないから、この様な理屈は通じないであろう。
うんうん…大変な仕事であるな。
身体を休めながら、窓から吹き抜ける風に吹かれながら、そう思ったりする。
しかし、人生とは、常に現実に即さなければならない。
うんうん…多少の拘束役務に関し不満はあるものの冒険者ギルドに登録して良かった、良かった。
昔の僕、実に慧眼である。
心の中で、職業選択した昔の自分を褒め称える。
自画自賛だけど、誰も褒めてくれないから自分で褒めるのだ。
…
小腹が空いたので、お盆の上に置いてある蜜柑に手を伸ばす。
すると、いつの間にかペンペン様がやって来て手元を覗きこんできた。
ジッと見られている。
そして、蜜柑であることを確認すると去って行った。
…何あれ?
考えてみると…どうやら、僕が動き始めたのを、空気抵抗の流れの違いから読みだして、何かしら美味しいものを食べてるのではないかとチェックしに来たらしい。
なんて無駄に高性能な能力を、しょーもない理由で発動させている!
そして、なんて自分の欲望に忠実なのだろうか!
凄いや、ペンペン様、僕も是非見習わければ。
…
蜜柑で喉を潤し、ベランダからの風に吹かれていた。
天上からは、燦々とした光りの調べ。
無窮の蒼天に流れる白い雲を、寝そべりながら眺めている。
指先を伸ばして猫の如く脱力な体勢…シロちゃんも頭の先で線対象気味に寝そべっている。
僕の真似ですか?
…実家ならば、女の子なのに端ないと叱られてしまう体たらくです。
いやいや、そこらへんの男女間の格差は無くそうよと思わないわけではないが、前世から時間軸にして5000年以上たったと思料される現世でも、そこら辺は変わってない。
うーん、未だに男女平等ならずか。
これって、要因は別な所にあるような気がする。
僕達は、男女平等に関し、何かを勘違いしている可能性が高い。
だが完全に男女平等になってるものがありました。
男女の違いにより、業種に偏りはあるものの現世は、ほぼ100%男女別なく皆んな働いている。
何故なら働かないと喰えないからだ。
働かざる者喰うべからず。
初代都市王が唱えたこの初勅は未だに現在で、どんなに偉かろうとトビラ都市内で働かない人は存在しない。
都市民皆労働者である。
不労所得者は、発見されたら最後、都市には無用の長物として、財産没収され追放刑に処される。
…不労は罪と定義されているのだ。
そうしなければ、小さな都市社会は維持出来なかったのだろう。
歴史上でも、二代目の都市王の長子が「我は生まれながらの王である。」とほざいて、何を勘違いしたのか成人しても働かず、初めての追放刑に処せられたのは有名な話しで、初代都市王の方針は誰であるを問わず、具体性を持って実行され、違反者は必ず処罰される。
その為に都市王からも半ば独立した部隊が古代に創設された。
その部隊の[王の魔鏡]、[王の神刀]、[王の龍玉]は、今なお健在で地道に活動している。
もちろん、何事にも例外はあり、病人、子供、御隠居様はべつ枠で、取締り対象外です。
つまり、この世界にニートは存在しないのだ。
子供は成人の15歳を迎えたら、実家を出て旅立ちます。
そして、働いて日々の糧を得なければ、当然この世から消滅します。
…厳しくはない。
適者生存は、当たり前の話しで、自ら生きる努力をしない者に生きる資格はないし、大人になったのに自立しないのはおかしな話しだ。
…でも、大丈夫。安心して。
僕が、子供の時は、まだ食糧供給量が低くて餓死する者が居たらしいが、歴代続いた英明な都市王の継続しての農業、酪農振興策の成果が遂に花開き、都市部で働き口の無い者は、農地へ赴き朝から晩まで精魂尽きるまで働きさえすれば餓死することはなくなってきた。
うんうん…なんて優しい世界なのだろう。
社会的なセイフティネットが働いている…素晴らしきかな、ビバ現世!
遥かな青空から吹き抜けて来た風が頬を撫でる。
…
さっき蜜柑一個食べたから、あまりお腹は空いてない。
でも軽く食べておいたほうが良いかもしれない。




