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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
372/618

ニルギリの後継を名乗る男(後編)

 …夢を見た。

 

 俺が、まだ学生だった頃を、夢に見た。

 今、思えば、アレが俺の初恋だった。


 当時俺が12歳、彼女は10歳位だった。

 儚い妖精のような可愛いらしい女の子だった。

 親戚の子に連れられて、校舎の隅の誰も来ないような暗がりで彼女を紹介された。


 「好きなだけ触って、何をしてもいいですから。彼女もそれを望んでいます。彼女はニルギリ様のファンなんですよ。」と、親戚の女の子から言われ、こんな綺麗で可愛い子が俺の事が好きなのかと舞い上がってしまった。


 精緻な硝子細工のような儚さと煌びやかさが混然として、匂い立つような魅力を放っていた。

 ウェイブの掛かった見事な金髪。

 花が開く前から美しさを予想させる首元から足首に至るまでの曲線美。

 小造りながらも、俯いている悲しげな顔が愛おしく感じられる。

 潤んでいる碧眼は、まるで宝石のように美しい。



 俺は、彼女を一目見ただけで心奪われてしまった。

 更に親戚の子が、この娘が俺の事が好きで何されても良いと聞いて、すっかり間に受けてしまった。

 その時は、彼女の悲しげな瞳をまるで考えもしなかった。

 そして、俺は言われるがまま、おそるおそる、彼女の頬を触り、首元を触り、膨らみ掛けた胸元に手を伸ばした処で記憶がとんだ…



 …



 次に気がついたときには、自宅のベッドの上であった。

 聞いた話しでは、校庭に下半身丸出しで縛られていたらしい。

 …なんたる屈辱か。

 ニルギリ家の[隠し]により、早急に回収された為、目撃者は殆どおらず誰かも特定は出来なかったらしいが、取り留めのない噂だけは残った。

 だが、それよりも俺は彼女の方が気になった。


 彼女は無事であることを聞いた。

 そして彼女の事情も聞いた。


 彼女の父親が亡くなったことに端を発して、陰湿な虐めが始まり、親戚の子がそれを主導していたこと。

 おとなしい彼女は、あの日までジッと我慢し続けてたらしい。

 だけど、あの日、とうとう堪忍袋の緒が切れたらしい。

 [隠し]からの目撃情報では、あの場にいた男子は全員彼女にぶっ飛ばされ、校庭にフルチン姿で縛られて放置の刑に処せられたらしい。

 首謀者の親戚の女の子は、彼女の華奢な肩に担がれてお尻を丸出しされ叩かれながら、校内を一周したそうだ。

 その子は、以来引き篭もりとなり、親戚の集まりでも会ったことはない。


 儚げで華奢な見た目を裏切るなんたる行動力か。

 惚れた!

 だが考えてみれば、俺は虐めの片棒を担がされたことになる。

 じゃあ、彼女が俺を好きとかも嘘だったのか?

 …なんてことだ。

 だが、不可抗力と魅力にフラフラと惹かれて、彼女の柔らかい身体を触ってしまった…取っても良かった、近づいたら芳しい良い香りもしたし…ここまでしたからには男子たる者責任は取らねばならない。


 「…お兄ちゃま、最低でしゅ。」

 声をした方を見ると、幼い妹が軽蔑の眼差しで俺を見ていた。




 ・ー・ー・ー




 …雀の囀りで眼が覚めた。

 窓辺から朝日が差し込んでいる。


 ああ…またこの夢か…。

 深い悔恨の情が未だに湧いてくる。

 

 妹からの誤解は、何度も説明して漸く解けたが、あの日以来、妹には何やら頭が上がらない。

 そして初恋の彼女とは二度と会うことは無かった。

 俺の不祥事を示談にする為、ニルギリ家と彼女との間で約束が交わされたらしい。

 その約束の一つに彼女の正体も名前すらも俺に教えてはならないとある。

 偶然以外に会う事も禁止。

 …なんてことだ。

 ならば、偶然、学生同士が校内で出逢うならば、禁則事項に該当はしないはず。

 だが、不思議なことに校内をいくら探しても彼女を見つけることは出来なかった。

 きっと、ショックで退校してしまったのかもしれない。

 

 あの日以来、俺は彼女の姿を探し続けている。

 輝くような金髪と憂いを含んだ潤んだ碧眼、可愛らしい儚く精緻な小さい顔と、細い色気を感じた首すじと柔らかそうな胸元をハッキリと今でも覚えている。


 約束は守らなければ、ならない。

 だがしかし、偶然出逢うならば約定を破ることにはならない。



 …彼女の夢を見るとは、幸先が良い。

 きっと、今日の会談は上手く行くだろう。


 そして、俺の成功の先には、彼女との運命の出逢いがあるかもしれない。

 実は、その出逢いに関しては、それ程悲観的ではない。

 幼くてもあれ程の気品と麗しさは貴族ならば隠し通せるわけがない。

 既に、見目麗しいと評判の姫君達の噂を集めて吟味中であるから判明するのは時間の問題…全くの別ルートから正体が判明して、偶然出逢うのならば問題なし。

 …出逢うのが待ち遠しい。

 どんなにか美しくなっているであろうか。

 実に楽しみだ。




 俺は、鼻唄を歌いながら、華麗に朝食を取り、執事のシルバーを従えて、サンシャに向け出発した。




 

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