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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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ニルギリの後継を名乗る男(前編)

 俺の名は、ギア・ドリュー・ニルギリ。

 ニルギリ公爵家の長子。

 すなわち、将来のニルギリ公爵であり、いずれはトビラ都市を統轄する次代の都市王となる男だ。


 すなわち俺は他の者とは産まれながらに身分が違う。


 時には冷酷に強権を発動せねばならない。

 だが、これは下々の民を護るためである。

 俺の立場がそうさせるのだ。

 俺が間違うと、全体が間違う。

 だから、俺は間違えない。間違えてはならない。

 俺の言う事が、全てにおいて正しい。


 頂点に立つ宿命を持った重責を、俺は背負うとしよう。

 全ては俺の望むままに推移していく。

 俺には、それが許されている。


 父上の姿を見て、俺は学んだ。

 俺は、次代のニルギリ公爵として、いずれは都市王として頂点に君臨しなければならぬ。

 俺が命令し、下の者共が実行していく。

 つまり、決定を下すことが俺の務めと見極めた。

 

 ただ、今現在は、冒険者ギルドで修行中の身である。

 現階級は、金の星一つ…これは軍の少将に当たる位。

 将軍格ではあるが、白服であり、これは所属はギルド職員を示している。

 つまりは、事務方、本部勤めと言えば聞こえはよいが、後方支援の内勤だ。

 俺の高貴な身を案じての戦いの場には出さぬ措置であろうが、俺自身は大いに不満である。

 南ギルドでは、シナガ攻防戦の指揮を取り成功させた実績により昇任して西ギルドに配置されたと言うのに。

 俺には、やはり現場指揮官が相応しい。

 なのに、本部とはいえ事務方をやらされるとは。


 やれやれだ…。


 だがこれは、未来の王候補に、外勤、内勤、どちらの勤務を経験させようという配慮に違いない。

 王者故にままならぬ事があるのは、俺も理解している。

 …

 ふん…ならば、俺の任務とやらを全うしようではないか。

 いくつか実績を作ってやれば、また昇任して外勤の黒服に戻れることだろう。



 ・ー・ー・ー・




 企画を立てた…人類の版図を広げる壮大な企画の第一弾、ハクバ山探索…当然承認され、部隊が編成されてハクバ山系に探索に出発した。

 …

 …失敗したらしい。

糞、クズどもめ、俺様の優秀な企画が台無しだ。

 俺の企画が間違うはずがない…よし第二弾だ。

 第ニ陣を組んで、再度出発させる。

 …

 しばらくして連絡が来た。

 成功…よし!

 当然だ…企画が優秀だからな…わははは。

 …心配はしとらんぞ。

 やはり初回は、実行者が無能だったからだ…俺の足を引っ張りおって、仕方が無い奴らだ。

 こんな簡単なことも出来ないとは。

 …

 第二陣には、ジーニアスを付けたと聞いた。

 フンッ、彼奴は嫌な性格の奴だが、能力は高い。今回、俺の役に立ったならば存在を許してやっても良い。

 高飛車な女だが、よく見れば美人だし、少々頭が良いことを鼻に掛け高慢な態度をとるが、俺様の魅力には抗えないだろうよ。

 将来あの女を、むりやり俺にかしずかせるのも悪くはない。

 あの不遜な態度のジーニアスを跪かせて、辱めることを想像するだけで興奮した。


 英雄色を好む。

 昔から言われている。

 だから、これは仕方ない事だ。

 優秀な子孫を残すことも、俺の責務であると心得ている。

 その過程で楽しむことも王者の特権だ。


 だが第二次ハクバ山探索の成功は当然だか…どうも妙だな?

 第一次で報告にあった大怪異が出て来ない…延長させて探らせるか…?



 ・ー・ー・ー



 クソ、あの技師上がりの将校め、たかが中尉程度で、将軍クラスの俺に舐めた口を効きおって…なにが俺の自由だ!

 巫山戯るなよ、ニルギリから圧力を掛ければ、お前などは、あっと言う間にこの世から消えてなくなるものを。

 不敬罪を適用して、先ずは首にしてやる。

 更に名誉を奪い、それから消してしまえばよい。

 

 そう言って圧力をかけようとしたら、あのとき、無線の向こうから、風切り音が聞こえてきて、突然気分が悪くなり、…スッカリやる気が失せてしまった。


 フンッ…少し考えれば、くだらぬことだと分かる。

 下々の奴らの口が悪いのは、いつもの事だ。

 そのたんびに怒っていたのでは、キリがない。

 奴の任務成功に免じて許してやろう。


 ああ…俺はなんて寛容な男であろう。


 後世の者らは、きっと俺のことを寛容王と呼ぶに違いない。

 優秀な者は活かして役立たせるべきであると、俺は父上から学んでいる。

 父上の真似をしてれば、きっと間違いはない。



 ・ー・ー・ー



 父上の施策の一つに外交の巧みさがある。

 父上があれほどに強硬な施策を取るに、問題にならずに実行出来るのは、いたるところに熱狂的支援者がいるからだ。

 そろそろ俺も独自の支援者のネットワークを作らなければならん。

 思えば妹は、この手の手段を得意にしていた。

 兄が妹に負けるわけにはいかない。

 まさか妹に家督がいくことはないと思うが、それでも油断は出来ない。


 トビラ都市の南は、我がニルギリ家が支配している。

 西には俺がいるから、西ギルドで、実績をこのまま作り上げていけばよい。

 成功すれば自然と人は集まる。

 実力による成功と利益に人は集まるのだ。

 次は北側と東側に支援者が欲しい。

 トビラ都市内の俺自身の支援地盤を堅めるのだ。


 噂によれば、アカハネの騎士団が支援者を募っているようだ。最初は同等の相互支援で良いだろう。

 だが、俺の実力と家格から、いずれは俺の下に組み込んでやる。

 

 …


 …繋ぎがついた。

 アカハネの騎士団経理部長が、俺の要請に応えた。

 どうやら利に聡い男のようだ。

 これから組織化していく上で、下賎な金勘定を出来る役割りは必要だ。

 よし、会ってやろう…だが俺から行ったのでは、俺の格が下がる。

 同様にやつからも警戒して西には来ないだろう。

 …

 そうだな…割と俺よりに近いサンシャはどうだろう?

 会談だ。

 金勘定が上手いだけでは我が配下に相応しくない。

 …見極めてやる。


 だが、サンシャを選んだのは、なかなか秀逸だと我ながら思うが、サンシャは悪の巣窟と言われている。

 俺一人でも大丈夫だが、格から言えば、付き人か護衛は必要だ。

 だが、俺には未だに武に長けた配下がいない。

 周りの世話役を連れて行っても役には立たないだろう。

 …

 業腹だが、妹の執事を貸してもらうか…。

 なに、兄の頼みを嫌とは言わないだろう。

 父上は、女だから心配だと、妹に我が家最強の執事を側に付けた。

 あの執事は見ただけで、その武威が分かり落ち着かなくなるほどだが、護衛としては最強…安心して悪の巣窟に乗り込める。


 そうだ、そうしよう。


 よし、早速妹に連絡してやろう。




 

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