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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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アリ・ロッポ建物の寿命を診る(前編)

 この日、一人で朝飯のホットチキンを食べてたら、ワシに依頼が来た。

 端末がブルッと振るえる…端末に直接来るとは、ワシへの指名依頼だ。

 画面を開いて依頼内容を見る。


 いつもの測量の依頼ではない。

 建物の非破壊検査依頼。

 久しぶりだな…。


 ワシの名はアリ・ロッポ。

 冒険者ギルドに登録し、技能系の仕事を請け負っている冒険者じゃ。


 今でこそワシは測量メインに仕事を受けてはいるが、若い時分には仕事が軌道に乗るまでは何でもやった。

 それこそ必死に働いた。

 資格も片っ端から取ったぞ。


 この世界は生き残るに厳しいから、常に泳いでなければ沈んでしまう…鮫のように。

 だから分野を選ばずして何でもやった。


 …じゃがワシは争い事だけは苦手だから戦闘に役立つ武術は修得出来なかった。


 そんな男として情け無いと悩んでいた若い頃の自分に爺ちゃんは言った。


 人には性格的に得手不得手がある。

 これは魂に根差すものだから如何ともし難い。

 …良いじゃないか。

 おまえには、その代わりに先入観のない博愛の心と不撓不屈の精神がある。…充分じゃよ。それ以上望むのは欲張りというものだ。

 男なら手持ちのカードで勝負しろ。

 

 …


 その爺ちゃんの言葉にワシは救われた。

 …ワシは人とは戦わない。

 じゃが、その代わり、戦う以外は、それこそ選ばず何でも挑戦した。

 だって、もう弁明のしようがないからのう。

 ワシはもう戦わない事を選んでしまった。

 それ以外にアレコレ言い訳して選んでいたら、それは唯の我儘と言うものじゃ。


 じゃが結果、結構何でも出来るようになった。

 その有用な技能の一つとして習得した資格に建物の非破壊検査がある。

 これは建物を破壊せずして、建物の損傷部位や壊れそうな危ない箇所などを知って、耐用年数を決める検査だ。

 調べるに様々な方法があるが、若い時から修練を重ねた結果、ワシは最終的にトンカチ一本で出来るようになってしまった。

 

 …これってワシ何気に凄いじゃん。

 

 食後の珈琲を香りを楽しみながら口に着ける。


 嗚呼…これで見た目さえ良ければ、女の子からモテモテなはずだったのに。

 だが、こればかりは遺伝子の仕業であるので、それこそワシには如何ともし難い。


 しかし、見る目のあるカミさんに出会い、子供にも恵まれた。好き勝手に人生を進んだ割に、運に恵まれている。


 …ワシは今、幸せであるな。

 珈琲がとても美味く感じる。


 …


 

 依頼についてはちょっと考えた。


 検査依頼が少ない事から、トンカチ以外の検査資機材を処分しちまった。

 超音波装置とか機械は維持費も場所も取るからな。

 それに、労力の割に儲けも少ない。


 端末画面の依頼元を見る。

 依頼人はサンシャのハロウィン・ティンカー・ベル。

 知らない名前だ…だが同じティンカー・ベル一族の者の依頼を昔、受けた覚えがある。

 その時も、たしか依頼内容は非破壊検査だった。

 彼らは[橙の精霊]の一族であるな。

 この一族は皆、容姿が似通っていて非常に仲が良く情報共有度が異常に高いらしい。

 …ワシの昔請けた仕事内容を評価してくれたのだろうか? だとしたら嬉しく思う。


 …



 珈琲を飲みながら思う。


 この歳まで生き残る事が出来た。

 世間様のお役にたってきたという自負もある。

 今まで必死に働いてきた。

 財産と言える物は無いが、多少の蓄えならばある

 もし、ワシが居なくなっても家族の行く末は、何とかなるだろう気がする。


 昔、為した仕事を評価されて、また依頼をしてくれるのは…嬉しいものだ。

 いや…正直に言うと、座りながらスキップしたいほど嬉しい。…しないけど。

 …請けても、儲けは少ない。

 昔とは違って、今は測量一本で、喰ってはいける。

 生活の為ならば受ける必要は無い。


 だが軽やかな心臓の鼓動が聞こえた。

 胸が暖かい…まあ…受けても良いかな…今日一日で済む案件だし。

 指名依頼されたのは、ワシの技量を、仕事を褒められたようで悪くはない。

 少なくとも承認欲求は満たされた。


 (…良くやりましたね。)

 突然、アールグレイ少尉の笑顔を思い出した。

 初恋の君とは違う顔なのに雰囲気が似てるせいか顔や姿の記憶が重なる。そんな経験は無いはずなのにお褒めの言葉まで賜わる。

 

 高揚して幸せな気分になる。

 カミさんが、居なくて良かった。

 居ないのは分かっているが、思わず周りを見渡す。

 …

 まあ…良いじゃろ。

 前向きに検討してみよう。

 想像だけど、少尉からお褒めの言葉を賜ったし。


 場所は悪の巣窟…サンシャ。

 …

 だが、依頼ならば安全は保証されるであろう。

 ならば、観光がてら行ってみるのも悪くはないな。

 依頼でなければ絶対行かない場所であるからに。

 この機を逃せば、二度と行く事は無いかもしれん。


 …


 よし!…受けてみるか。

 ワシは端末から依頼受理を選択した。


 端末画面の受理ボタンの表示がピコンと緑に点灯した。


 この時は、まさかあんな事になるとは予想だにしなかった。



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