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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
355/618

悪人同盟

 携帯端末の画面をニタリと笑い見る。

 表の始末屋では一流の[蜂]に依頼を出して受諾されたのだ。

 「ウヒッ…。」

 思わず、喜悦の声が漏れ出た。


 周りを見渡す…誰もいない…ニタリと又笑う。

 [蜂]は依頼達成率99%。

 これで次子の生命は、もはや風前の灯火だ。


 ダッダッダ、ダダッダッダ、ダッダ


 騎士団の役付きに与えられた経理部長の執務室内でタップを鳴らして、足韻を踏む。

 わしは銀狼騎士団の経理部長。

 今は執務室にわし一人しかいない。


 「クククッ、ワハハハ。」

 やはり、世の中は金だ。金が一番強い。

 金を持ったやつが一番の強者なのだ。

 

 勇気だ愛だの、正義だ徳だの、廃れた権利を言いたてるとか、今は権力だ武力だとか、システムがどーのこーの、みんなみんな一様にくだらぬものだ。

 やはり金だ、金があれば何でも出来る。

 実にシンプルな(ことわり)

 何故に皆分からぬのだ?

 まっこと摩訶不思議でならぬ。

 金銭を得ることだけに全てを傾注すれば、容易く金は集まって来る。更に金が金を呼び込むのだ。

 金が無いとお嘆きの諸兄は、金に対する敬いが足りぬのでないか?

 金は敬えば、大事にすれば、儲ける為だけを考えて全力で当たれば必ず集まってくる。


 綺麗事ばかり周りに宣伝するかの如く言いたて金を嫌う奴がいるが、そんな奴ほど金が好きな事は分かっている。

 だが奴らには金を敬う心が無い。だから直ぐに金が逃げ出すのだ。

 奴らの本性は、本当は金が好きでは無くて自分が好きなだけだ。


 だが金ほど力強く魅力的なものはない。

 金の魅力に抗える者などこの世にはいない。

 何故ならこの人間社会で金を最上位の価値に置いたのは人間自身だから。

 金の力が通用しない奴など、この世にはいない。

 ここでわしは、何やら喉元に引っ掛かるものを覚えた。

 …

 いや、いたな、たった一人だけ。


 …ロンフェルトだ。

 金の有り難みが分からぬ馬鹿な奴だった。



 フンッ、テンションが少し下がったわい。

 [蜂]には秘匿料金も倍額で支払っている。

 依頼人が、わしだとバレる事もない。

 これで全てがわしの思い通り。


 更にわしは今、ツキについている。

 規律と実力に定評のある冒険者西ギルドの高官がわしに接触を図ってきたのだ。

 やはり、分かる者には分かるのだ…真の強者と言う者が。

 これから先、わしの輝きに寄ってくる輩は多くなるに違いないが、今日アポを取って来た者はニルギリ公の後継者だと名乗った。

 …偽者ではないだろう。

 苛烈で容赦無しのニルギリの名を騙る命知らずは、このトビラ都市界隈では存在しない。

 それほどまでにニルギリ公は恐ろしい。

 わしの金の力とニルギリ公爵の武威が結託すれば、まさに最強、もはや怖い者なし。

 「ゲヒ、ヒヒヒッ。」

 実に気分が良い。


 だがニルギリ公爵の後継を名乗るギルド高官は、接触日時を明日の午前中朝方、場所はフクロウ区のサンシャと指定して来た。

 接触場所が音に聞こえた悪の巣窟サンシャだと?!

 フンッ、これはわしを試しているのか?


 ふん、甘いわ、騎士を舐めるなよ。

 金を積んで得た地位だが、普通の騎士が化け物並の強さなだけで、わしでもそこらへんのゴロツキ程度の5、6人なら余裕で倒せる。

 …

 …一応、わし一人でも大丈夫だが、金で安全を買おう。

 金を積んで一流の護衛を雇うのだ。

 そうだ!どうせなら西ギルドに依頼しよう。

 レッドと契約して連れて行けば、わしの箔もつく。

 まさに一石二鳥。



 ・ー・ー・ー



 騎士団長に外泊休暇の申請をとり、西ギルドにも依頼した。

 注文を付ける。そうだな、女が良い。

 若くて美しく強い女が、わしの金の魅力に籠絡される姿が見たいわい。

 強い女騎士が、わしにメロメロになる姿を想像する。

 ニチャリと笑う。

 「ニヒヒッ。」

 邪魔なロンフェルトも居なくなったし、我が世の春だ。


 これで良い、…これで良いはずなんだ。

 でも、たしか最初はロンフェルトを殺す気は…わしは無かったはずなのだ。

 それが何故に、死ぬようにけしかけたのか?

 分からない。

 考えようとすると、頭の中が霞が掛かったようになる。


 …


 どっちにしろ奴は死んだ…もう遅い。

 今さらの話しだ。

 もう奴の真面目くさった苦言を聞くこともない。

 二度と会うこともないのだ。

 訳の分からない苛立たしい空虚を感じた。

 「フンッ…。」


 わしは鼻を鳴らすと、副官に明後日まで戻らぬ事を通達すると、装備を整え街中に出た。

 街中の外れの広場にサンシャ行き長距離バスが出るのだ。



 途中、貴族の子供らが平民の子供を虐めている現場に出くわす。

 わしは貴族の子供らを文字通り蹴散らした。

 更にステッキをブンブン振り回し、痛めつける。


 フンッ、このヤロウ、このヤロウ、これでも喰らえ!


 泣き出して逃げていく子供達。

 フンッ、わしの今の地位と金の力があれば低位貴族などは怖くはないわ。

 一人残された虐められていた子供は、チビでデブの見るからに鈍臭そうな子供だ。

 わしにすがるような眼差しを向けて来たので一喝してやった。

 「わしは、他人を虐めるような糞のような下賤な奴らも嫌いだが、お前のように虐められて、それを甘んじて受けるような奴隷根性の奴は、もっと嫌いだ。フンッ。」

 吐き捨てるように言う。

 驚いている子供を残し、わしはその場から立ち去った。


 まったく気分が悪い

 昔を思い出したのだ。

 霞んだ記憶の中で、子供のわしが虐められていた。

 チビでデブで何も言い返せない弱い自分がいた。

 その時に救けに来てくれた者がいた。

 ああ…何故に忘れていたのだろう?

 救けに来てくれた子供の顔は、…ロンフェルトだ。

 見上げてみた奴の顔は、輝いていた。

 ああ、わしもいつかはロンフェルトのように…


 頭がズキンと痛む。

 大昔の話しだ。

 今では、ロンフェルトの奴はいない。

 わしが殺した。何故?


 ステッキを石畳に叩きつける。

 いったいわしは何を考えているのだ。

 激しくなった動悸に気づき、呼吸を整える。

 もう奴はいないのだ。…わしはひとりだ。


 今は…そう、会談を成功させねば。

 冒険者ギルド、ニルギリ公爵と手を組めば、もはや都市政府でさえも、わしに口出しはし難くなるであろう。

 もう少しだ、もう少しで叶うのだ。



 前を見れば、広場に古ぼけたバスが一台止まっていた。

 陽の光りの下だとボロが際立つ。

 本当に動くのか心配になるほどだ。

 近くまで寄ると、うるさいほど駆動音が響いていた。


 前方のドア前に立つとブザーが一回鳴りドアが開く。

 ステップを登り、透明な箱に規定の料金を払うと、底が流れて支払った料金を呑み込んでいく。

 運転手も居るが何も言わない。


 サンシャ行き長距離バス、運賃はちと高く感じるが、これでサンシャまで問題無く行けるのであれば適正な価格だ。

 適正価格ならば当然に支払わなければならない。フンッ。

 

 わしは通路を奥まで行くと、左側の座席にドカッと腰を降ろした。

 窓からは陽の明かりに晒されたアカハネの城が見える。


 …もうすぐだ、もうすぐあの城もわしのものになる。


 ブザーが鳴り、出発を告げる運転手の無愛想なアナウンスが車内に流れ、バスはアカハネを出発した。

 



 

 

 


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