仔蜘蛛②
因果律の糸を操るのだ。
より、外側から自然を装うように。
今はまだ未明。
既に[女王蜂]からの依頼は果たしている。
罠は手配済み。
…奴は罠に掛かるであろう。
この時間帯にあっと言う間にサンシャに着いた速さは驚いたが、既に奴は因果律の糸には巻かれている。
[暴風]怖るるに足らん。
奴の直情径行の性は、私の糸と相性が良い。
この時は、そう思っていた。
…
だが…包帯を巻いた右腕を見る。
暗闇を通して直接空間を捻り糸を伸ばしたら、察知され辿られて、斬られた。
しかも、この私を取るに足らぬ者として手加減されたのだ。
私のプライドも積み上げてきた自信もガタガタだ。
…ゆるせない。
けれども、私は分かった。
天啓を受けたとも言う。
この空間を超えて糸を辿り攻撃する能力…[暴風]は私達[蜘蛛]の天敵である。
私達の存在は相容れない。
奴は滅ぼさなければならない。
傭兵集団[百足]の完全武装鎧武者形態一個中隊50名…倒しても倒しても起き上がり襲ってくるゾンビ部隊…遮蔽物が何も無い限定された空間内において無限の波状攻撃に晒されるのだ。
[暴風]と言えども、この人数差による対集団戦は致命的であろう。
通常ならば、これでジ・エンドだ。
だが不安感がもたげる。
仮にも私達[蜘蛛]の天敵だ…罠の穴に突き落とした後、更に上から土砂を落として封じるくらいしなければ安心出来ない。
小物を動かし、囁き、因果を捻りて[暴風]の運命のレール上に畏るべきモノを誘導する。
おまえなど轢かれてしまうがいいわ。
[暴風]の身目麗しい可憐な姿が無惨にも潰される姿を想像して悦に得る。
ククッ…。
私を傷付けた報いを受けろ。
泣き叫び赦しを乞い、苦しみにもがきながら、絶望にその美しい顔を歪めて、この世から消えていくがいい。
冷蔵庫から冷やした赤ワインを出して、グラスにつぐ。
グラスを掲げて勝利の乾杯を捧ぐ。
グィッと赤ワインを喉に流し込む。
…
それは[暴風]の血の味がした。
まるで新鮮な果実のような芳醇な美味さに酔いしれる。
朝になれば、当然の結果が私の元に届くであろう。
楽しみにしながら、特注した椅子に座りしばし休むことにした。