暴風とペンドラゴン(中編)
鎧武者達は、[百足]という傭兵集団組織に属しているという。
強さのランクから言えば一流処に一歩譲るものの、防衛上の観点からみれば、一流にも引けを取らないと語ってくれた。
主に護衛や拠点防衛が得意だという。
さもあらん、再起不能にしたと思ったら、ルーシー少年が話してる僅かの間に、黒鎧武者は復活していた。
あの回復力は素直に凄いと思う。
あんなのに拠点防衛されたら、城は落ちない。
何しろ倒しても倒しても即時に回復するのだから、倒すだけでは意味が無い。
ならば、もし戦うとしたら、トドメを刺すしかなくなる。
それは嫌だなぁと、麺を啜りながら考える。
窓からは白じんだ朝の光りが差し込んで来ている。
あれから鎧武者さん達とは和解した。
朝御飯の時間ということで、今は一緒に御相伴になっている次第である。
話しを食べる前に遡り、何故に一緒に食べてるかと言うと、黒鎧武者さんから朝食に誘われたのです。
一度は遠慮したけど、二度三度と誘われて断ったら角が立つでしょう?
どうぞどうぞ、いやいや、まあまあ、などと繰り返し、最終的に、それ程までに誘っていただけるならばと、承諾した。
ならば最初から受ければ単純な話しだけれども、これは様式美と言うものである。
互いに本心を探る意味もある。
一緒に食べることは和解した互いの証明にもなる。
それにまあ、馳走になる立場の僕が、こう言うのもなんだけど、そんな大したものでもない。
一言で、今日の朝食メニューを言うとカップ麺です。
それでもクソ不味いレーションより遥かにマシで、感謝していただく。
「.…いただきます。」
僕は、今回は慌てて急いで出て来たから、非常食のクッキーしか身に付けてない。
皆と車座になり、有り難くいただく。
カップ麺の形態は前世とほぼ変わらない。
中身が一食分づつ包装されてるのを椀にあけて沸騰させたお湯をいれるだけ、あとは箸でサッとかき混ぜれば出来上がり。
味は、強いて上げれば、食感が生麺に近いな、むむ…結構、美味しい…インスタントとは思えぬくらいです。
前世で、ほぼ完成形の完全体だと思い込んでいたのに、こ、これは、進化している!…驚いた。
今世は自炊が基本なので、カップ麺は食べていないから詳しく知らなかった。
進化した味に、ちょっと感動。
トビラ都市5000年の歴史の味だ。
「カッ、カッ、カッ、気にいったようで何よりですじゃ。」
黒鎧武者さんが笑いながら言う。
表情には出してないつもりだったけど、気持ちの変化を察したらしい。
「どうでぃ、[暴風]ちゃん、うちらの会社は携帯食の開発に力を入れていて、こりゃ、ちょっとしたもんだろう?俺が転職しない理由でもある。ふふん。」
ルーシー君を挟んで右側に座っていた青鎧武者さんが、自分の手柄の様に偉そうにニコニコと声を掛けて来た。
美味しいのは同意なので、僕は素直に頷く。
それにしても、初対面なのに気やすいお兄さんだ。
この様にチャラい性格は、僕とは相容れないけど、悩みが無さそうで少し羨ましく感じる。
「それにしても、間近で見ると溜め息つくくらい可愛くて綺麗だねぇ。しかも小さいのに柔らかな感じで抱き心地良さそう、どう?俺たち付き合っちゃわない?もしかしたら運命の出逢いかもよ。」
青鎧武者さんは、ニヤリとしながら僕に胡乱な眼差しを向ける。
…凄い。
この人、照れもなく、こんな人として恥ずかしい台詞を軽く言っちゃってる。
僕には、前世と今世を足した経験を持ってしても、到底この様な台詞を言える心境には、…なれない。
そして、これからもあり得ないだろう。
…言いたいとも思わないけど。
彼は同じ人類とはいえ、僕とは異なる種族であると断言できた。
驚きから持ち直し、しばし言葉の意味と背景を考えたけど彼の心境は理解不能です。
しかし、僕に好意を告げてくれたには違いないから真面目に礼を持って返答しなくてはならない。
「…御免なさい。」
会釈気味に少し頭を下げる。
「あちゃー、惜しいっ。…まあ初回はこんなもんで。付き合うコツは諦めないことだ。しかし、少し考えていたから俺にも、もしかしたらチャンスあるかも。ゲットチャンス。…坊主、俺の生き様を見たか?見習っていいぞぅ、男はなぁ、良い女を見つけたら、推して惜して、押しまくるんだ。」
青鎧武者さんは、変わらずの軽い口調で、とんでもない内容を宣うと、後半、隣りのルーシー君に向かって語り掛けて、その背中を叩いていた。
僕は、彼の言葉の内容を聞いて、またしても絶句してしまった。
…
…何てことだ…驚いて回答にしばし逡巡した間を、この人自分に都合良く曲解している。
そして、断ったのに諦めてないの?!何故?
ゾンビのような不撓不屈の精神構造に、その対象が自分であると思うと背中がゾッとする。
暖かいものをいただいているのに寒気がする。
そして、ルーシー君のような苦労し過ぎている純粋な幼い子に、…何を教えているのだ?!
思わずルーシー君を引き寄せて、青鎧武者さんから遠ざける。
純粋な子供が、彼の思考に汚染されてはいけない。
もしかしたら、彼こそ、今回の最大の強敵かもしれない。
僕の精神を、揺り動かすとは中々手強いです。
もしかして、僕、今、精神攻撃されてるの?
左側に座っていた赤鎧のお姉さんが溜め息ついて「…馬鹿じゃないの。」と呟いていた。
他人を馬鹿にしてはいけないけど、彼の言動についてならば、彼女に激しく同意したい。
ルーシー君を連れて赤鎧のお姉さんの方に、少しづつ位置をズラしていく。
これは緊急避難的措置の自動的な自然現象の類いと思って下さい。
鎧武者さん達とは和解してますから。




