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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの冒険
35/615

小雀(後編)

 1023手目まで読み切った。私の勝ち。


 後は消化試合だ。

 決められた予測通り、私は身体を動かす。

 1023手目に、私のレイピアの剣先がアイツの喉元を貫く。

    これは既に確定未来の約束事項。


 アイツは、一つ一つ丁寧に私の剣撃を受けてくれた。

 (ああ、美し、可愛い、尊い。)

 制御の緩い第8意識から思考がダダ漏れである。


 だが、剣を交わす度に、為人が分かるような気がした。

 コイツは、おそらく、おそろしく人が良い。

 真っ直ぐな正々堂々とした剣筋からわかる。

 (ああ、もう直ぐ終わってしまう。)


 剣戟の音が鳴り響く。

 まるで、私とアイツの会話だ。


 挨拶の様に剣を振るう。

 剣を交わす度に、親しみがわいていく。


 敵として、戦わなければ、コイツとは友達になれた、きっと。

 なんて、丁寧で正確な剣筋。

 軽やかな華やかな、まるで春風の様な剣だ。

 これは、全てを受け入れて祝福する剣だ。


 小雀は、剣を振るう中、光の風に包まれるような、心地良さを覚えた。


 惜しい…切りたくはない…だが契約は守らなくてはならない。


 985手目。

 小雀は、何やら、やり難いことに気づいた。


 おかしい、なにやら、変だ。

 これは、心情的なものではなく、妙にやりづらいのだ。

 まるで、剣が引っ張られるような。


 998手目。

 小雀は、明らかに変と気づいた。


 粘りつく、嫌な処に、アイツの剣が伸びてくる。速さは変わらないのに遅く感じる…これは…何だ?


 999手目。

 こちらが攻めているのに、引きずられていく。

 だか、予測は変わっていない。私の勝ち…。


 1000手目。

 私の剣が、アイツの剣の渦に巻き込まれるように、もぎ取られ、宙に舞った。

 アイツの剣先が天を刺し、その目は私を見つめていた。

 

 その瞬間、アイツが光り輝いているように見えたんだ。

 可憐で、美しい…その姿に私は見惚れてしまった。


 第1から第7までの意識が混乱し、思考が錯綜する。

 そんな馬鹿な…予測は完璧だった、私の方が速さに優っていた、読み切ったんだ、何故、手元に剣は無い、私の負け?

分からない、私には分からない…


 おそらく私は呆然としていたのだろう。


 刃先を突きつけられ、投降を促されてることに初めて気がついた。

 負けた理由が分からないまま、私の8つの意識のうちのひとつが囁く。

 (ああ、なんて美しい。尊い。)

 アイツの後背が輝き、私に光りが降り注ぐように感じられた。

 そうか、おそらく私の意識の末端である第8意識は、奴が遥かな高みにあることが分かっていたんだろう。

 降参…


 ガシャーーン!

 その時、壁がいきなり壊された。

 漆黒の大キノコが、うねりながら、大音声の胞子を撒き散らしながら、向かってくる。

 …よく見ると魔王だ。


 なんか…いや。

 身体が無意識に動き、引き下がる。

 

 引き時だ。

 意識を統合し、逃走する前にアイツに声を掛ける。

 すると、アイツはニッコリ笑った。


 どはーーっ、な、な、なんだ、この破壊力は?!


 真剣な表情も見惚れるほどだけど、笑った顔は、もっと素敵…脳味噌が沸騰してまう、身体中が熱い、心臓がドキドキしてヤバイ。今、私は未知なる攻撃をうけている。


 ぐぅー、これ以上受けたらヤバい。

 「私を覚えていろー!」と告白して、逃げた。



 逃げたあとで、鼻血を出してることに気づいた。

 


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