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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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辺境伯の娘(続編)

 メイベルは、私がお父様の後継候補となった際、私専属になったメイドさんです。

 でもそれは偽装された表の顔で、本当は辺境伯家を裏から支える[暗部]と言われる情報収集機関なの。

 このことは私とお父様しか知らない。

 お父様も匂わせただけで、ハッキリとは言って下さらなかった。

 だから、同じ時期に私付きとなった騎士のソリュート・ジルにも、ギャルにも、このことは言ってはいない。

 もっとも2人とも私の身近にいるから、言わないだけで察しているかもしれない。


 メイベルは最初から私とは一線を引いているように感じだった。

 真面目で表情を崩さず隙がないし、感情をわざと何処かに置いてきてる気がした。

 少し寂しい、

 だって私と年齢が一番近いし、せっかく縁が合って会えたのだから仲良くなれると良いなと思う。



 …


 そんなメイベルが、折り入ってお話しがありますと話し掛けてきた。

 ちょうどジルが執務室から出で行った時だ。

 もしかしたら、ようやくメイベルも私に慣れてて、親しくしてくれるかもと私は期待した。

 もしかしたらメイベルと仲良くなれるチャンスかも…?

 私は内心ドキドキしながら話しを聞いた。



 …でも、メイベルが話した内容は、上気した私の気分を見事に突き落とした。

 真っ逆様だ。


 メイベルが私の耳元で、囁くように話した内容は、私の護衛の任に就き、今は騎士団へと任じられたロンフェルト卿の行く末であった。

 しかも数年前の出来事であり、既に家族は一家離散しているという。

 …知らなかった。


 いや、知ろうとしなかったのだ。

 おそらく、ロンフェルト卿の悲報を知らなかったのは私だけだ。

 城内の私の周りの者達は、気を使って努めて話題にはしなかったに違いない。

 だが、聞けば皆答えてくれたはずだ。


 …私って、なんて薄情なんだろう。


 御別れしてから、これ迄、ロンフェルト卿の近況を知ろうともしなかった。


 衝撃を受けてる私に、メイベルは更に自分で見聞してきたかのように真実を告げた。

 しかも、ロンフェルト卿から私への遺言付きだ。


 …!


 私の表情が一瞬強張ったのが自分でも分かった。

 …参った。

 …周囲が真っ暗に変わり、鉛を飲み込んだように感じた。


 …


 ハッ…イケナイ。

 貴族は如何なる時にも内心を気取られてはいけない。…それは側近の部下にたいしてもだ。

 これまでにも、私はギャルに対しても結構やらかしている。

 だからって、これからも良いとはいえない。


 小さい頃、雪が降る深夜、お父様の時間がたまたま空き、お父様の私室で二人きりになったおり言われた言葉がある。

 お父様とは数えるほどしか会う事はないから一言一句覚えている。

 それは、

 「キャンブリック、貴族は如何なる時にも内心を気取られてはいけない。…それは側近の親しい部下にたいしてもだ。責任やそれに伴う重圧はわしら貴族が引き受ければよい。民は、そんなわしらの思惑など知らぬまま人生を謳歌すれば良い。だが、もし…そんな貴族の生き方が辛いのであれば、対等の者で絶対の味方と言える者が出来れば、愚痴ぐらいは溢してもよかろう。もっともわしには、そんな友は出来なかったがな。」

 疲れたような表情の変わらぬお父様が寂しそうに見えたのは、私の気のせいであったのでしょうか。

 お父様からの唯一無二といってよい諫言です。

 

 だから、守りたい。

 「…そう。また報告があったら早めに言ってちょうだい。」

 内心では、疑問と焦燥、後悔の嵐が吹き荒れて難波しそうであるけど、全てを保留にして何とか堪える。

 紅茶に口を付けてから静かにお皿に戻す。


 …見られている。

 メイベルは私付きの専属メイドであるが、同時にお父様を主であると認める[暗部]の一員です。

 私寄りではあるけれど、絶対の味方ではない。

 

 内心はともかく外面は普通に見えるよう演技を凝らす。


 しばらくして、ジルが戻って来た。




 ・ー・ー・ー・





 …あれから私は、寝る時も仕事する時も、ずっと考えていた。


 約束は守られなければならない。

 ロンフェルト卿との御別れの日、自分自身に誓ったことを私は忘れてはいない。


 …貴方に何かあれば、今度は私が助けに行くと。


 心優しき寛容なロンフェルト卿…あなたならば獅子身中の蟲さえも慈しみの心で赦したかもしれない。

 …

 だがしかし、貴方は、この様な…名誉を剥奪され汚名を着せられて終わるような人では…断じてなかった!


 これは貴方の真摯で誠実であった人生を汚す行いであり、貴方と関わった人達を侮辱する行為です。

 メイベルの推測が本当ならば、事実を私の目で確認し、然るべく処断しなければならない。

 我が父が治める領内で、この様な不条理や不義理を横行させてはならない。

 

 …私が、ロンフェルト卿の名誉を回復させる。

 

 それが亡き敬愛する人の助けとなり、公正をもって領内をあまねく照らす貴族の務めを果たすことに繋がる。

 今回の件は、人としての矜持と、貴族たる資格の有無が掛かっている。

 もはや、ロンフェルト卿だけの問題ではない。



 私は、自分自身に固く誓った。

 このままで済ますことはできない。



 



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