ギャル・セイロン大いに悩む(後編)
何だか最近アールちゃんに考え方というか行動が似て来た気がする。
私は昔から、まずは我が我がと考えずに突っ込んで行く性格ではあった。
社会人になって、故郷のセイロン子爵家から、ちょっと出掛けて来ると言い残し、そのまま家出同然に旅をして、北の衛星都市の衛士隊に押し掛け就職してからは…少し自重しました。
私が就職しましたと連絡を入れるまで実家では大騒ぎだったらしい…今では多少悪かったと思うけど、端末買ってもらって無かったから連絡できなかったの…仕方無し。
それから世間を知らない私は、日々働くに自分の実力の無さを痛感した。
…それでも足掻き、偶には我慢し、大半は何か言われても言い返した。
「無礼無謀は若者の特権ですよ!」などと。
私ったら諸先輩方が心配して言ってくれてるのに何たる言い草。
帰った後で必ず頭を抱えて後悔した。
生意気にも程があるよ、私の馬鹿!
それでも3年間、歯を食いしばり頑張り、後輩も出来たある日、先頭切っていた私が逆に止め役になっている事に気がついた。
あれれ?
だって、セロを含め後輩達ら無思慮で無謀な行動ばかりだし…。
世間や仕事が分かり始めた私から見たら、私と同じ失敗を平気でしようとしてる彼らを放っておけなかった。
何故に私が、規律規範礼儀などやりたくも無い、縁遠い苦手な分野を躾けなければならないのか…何か違う、何か違うと思いながらも。
それがアールちゃんと出会ってから元の私に戻ったばかりか、それ以上になった感がある。
原因は分かっている。
他人のせいにするのは心苦しいが、アールちゃんのせいです。(キッパリ!)
あの無謀さには畏れいる。
何も考えていないかのように見える大胆不敵な行動力。
後から省みれば細心の注意を払っていることに畏れいる。
あの人格や考え方からして私には驚異的です。
まるで古老の智慧と若者の大胆さを、男性的な荒々しい勇気と女性的な慈愛をも併せ持つような心象なのです。
私は時々考える。
もしかしてアールちゃんは、天から私達を救う為に地上に降りた天使なのではないかと…。
アールちゃんを見てると眩しく感じる時がある。
そんな時は、きっと後光が出てる。
アールちゃんのやることは全て正しい。
だから、あの無謀さも正しい。
そしてそれを見倣う私の一見して無謀に見える行動すらも正しい。
うん、論理的です。
だから…私達が、馬鹿者…若者達を叩き伏せることも正しい行いなのであろう事は明白です。
そうですよね?
…
馬鹿者がメイベルに抱き着こうとしたのを、メイベルは後の先で一歩踏み込み肘打ちを鳩尾にかまし、くの字に曲がって落ちた顎先を肘でカチ上げた。
その後、メイベルはクルリと回り始めると馬鹿者が衝撃を受け腰を落とす度に上方にかち上げる…横と縦の連撃、倒れたくても倒れられない馬鹿者は人形の様に不自然な無様な動きで踊り続ける。
打撃音だけが辺りに響いた。
…
アレ…ヤバくない?
馬鹿者は白目を剥いて、既に気絶しているし。
倒れようとする度に、かち上げ蹴り上げられ倒れることは叶わない…。
「や、や、ヤメテあげて、メイベル。」
あまりの酷さに私はメイベルに止めるよう声を掛けた。
メイベルの機械の様な正確無比な動きがピタリと止まる。
途端、糸の切れた人形のように倒れる馬鹿者…。
いやまあ、多分、この馬鹿の好みがメイベルだったのだろうけど…この男の味方をするわけではないが軽率なすけべ心の応酬がこれではあまりにも可哀想だ。
今やボロ雑巾と成り果てて倒れ伏した馬鹿者を、ゴミを見る目付きで一瞥するメイベル。
ある意味相応しい姿になったのか?
味方ながら恐ろしい。
何がと言うと、この躊躇の無さと容赦の無さが恐ろしい。
えっと、彼、まだ生きてるよね?
戦いが始まって30秒すら経ってないのに既に第一の犠牲者が!
果たしてこれで正しいのかしら?と一抹の不安が脳裏をよぎった。
この場にいる全員が呆然とする中、ジルが馬鹿者から木刀を無造作に取り上げて、一発パカンと殴りつける。
呆気なく気絶して、その場で崩れるように倒れる馬鹿者。
え!
私が呆然として、見ている中、ジルは歩きながら、まるでモグラを叩くようにポンスカ殴って行く。
バタバタと馬鹿者達が倒れていく。
全てが一撃で非常に効率が良い。
最後の一人が倒れ伏した時、ようやく私は動くことが出来た。
数十人の男共が、サンシャの出入り口前に倒れ伏している。
地獄絵図のようだ。
そして分かった。
…弱過ぎるのだ、こいつらは。
私の出番すらなかったよ。
一番過酷な状態である最初の犠牲者の元へと駆け出して、辿り着くと身体を抱えて、瞳孔、脈、呼吸、のチェックに入る。
よ、良かった、生きてる。
見た目ほど酷くはない。
致命傷は負ってない。
…良くやった、メイベル。
頭を膝に乗せて、手当てを試みる。
以前アールちゃんに習った白家神道の[白掌]をかざす。
私とアールちゃんとの間で、結界術と神道系の技を互いに教え合い習得した神道系回復術[白掌]、私に合ったのかその威力は驚くほど絶大。
くらえ、クラッシュ様も驚いたアールちゃん直伝[白掌]の威力を見よ。
かざした私の掌が暖かく白く光り出す。
無惨な顔立ちが普通にみるみる回復していく。
残念ながら元に回復するだけで顔の造作は変わらない。
元々のアホづらのままだ。
しばらく照らすと意識が回復したらしく呻いて、目を開けた…。
…
「こちらです、ギャル様、姐さん方も、どうぞどうぞお通りなってください。ご案内致します。」
あれから、何故か私達は改心した若者に先導されサンシャに入った。
私が治療した、馬鹿者は態度が180度変わり、超協力的になった。
どうやら私に生命を救われたと勘違いしているらしい。
いや、君の怪我、うちのメイベルが付けたものだからね。
私に感謝するのも違う気がするしと、意識を取り戻した当初土下座してお礼を言う彼に慌てて説明したら、彼は上を向いて目を瞑り、しばらくしてから私に自分の心の内を吐露した。
「あっしは、あちらのお嬢にタコ殴りされて気が遠くなり掛けた時、貴女様が止めて下さるお声を確かに聞きました。そればかりか倒れ伏したあっしを抱き締めて、「大丈夫?しっかりして!」と優しく呼びかけ、あまつさえこのような奇跡の技であっしを死の淵から回復させてくれました。貴女様はあっしの生命の恩人でございます。たとえ貴女様のお仲間があっしを傷つけたとしても、それはあっしの不徳の致す処で御座います。それなのに、あっしに対する温情ある御心からの御言葉、あっしは先程感動してしばらく声もだせませんでした。お願い致します、精一杯貴女様に御恩返しさせて下さいませ。」
どうやら門番の兄貴分だったらしく他の者も彼に倣った。
大丈夫かと声を掛けたのは意識のチェックの為ですが、彼の中で善意に解釈されているらしい。
もしかして[白掌]って心まで浄化してしまうのか?
いや、以前クラッシュ様にも大分使ってみたけど回復した以外変わらなかったから、副作用はないはず。
今の彼の心情に嘘はないかなぁ…?
まあ、信じても良いと思う。
しかし…これは好都合では?
情けは他人の為ならず。
アールちゃんだったら、こうするだろう出来事な行動を咄嗟に取ってしまった結果がこれだから、やはりアールちゃんは凄いや。
この様に大仰にかしずかれるのは、ちょっと慣れないけど。
「うん…それじゃあ、頼んじゃおうかな。実はね私達がここに来たのは人を探す為で…。」