待機
契約を考察する。
そもそも契約とは、双方の自由な意志により成されるものである。
よって、一方の強制による契約があるとすれば、それは契約とは言えない。
強制的な契約と称する金員の徴収を何というか?
もし、そんな契約が、この世界にあるとするならば、それは、税金か強盗だけである。
強制と契約、相反する概念を無理矢理繋いでる言葉自体ありえない。それは、概念の変質。
実態を言葉で表せば、契約と称して、金を強取…。
それって犯罪ですよね。
栄華を極めた超古代文明…概念の変質が滅びの一因となったことから、今世のこの世界では強制契約は重罪です。
強制契約の問題点は、二つ。
何しろ、契約と自称すれば、無理矢理他者から金員を強取する、いわゆる強盗することと同等の行為が正当化されるので、わざわざ商取引する必要もなくなる。
商取引の根幹を崩壊させるほどの強さを持つ変質概念です。
更に、強制契約は、人から選択する自由を奪っている。
選択することが出来ない境遇の人達を何と言うか?
強制契約は自由主義社会を奴隷制度社会に一歩踏み出させる恐るべき変質概念です。
更に云々…
…
…
僕の考察が、依頼主から殺し屋への契約から始まり、世界の境界から時間軸、果ては宇宙の終わりまで及ぶに至って、このままでは、答えが出ないことに気がついた。
更に約5分間の熟慮の末、自分だけでは解決出来ないと判断し、関係各局に連絡することとした。
僕は自分に解決出来ぬ時は、遠慮なく他者を頼ることにしている。
自分一人で出来る事はたかがしれている。
さて、僕が出来ることはやりました。
後は、回答が来るまで護衛に専念することにしよう。
・ー・ー・ー
護衛3日目の夜。
今日は、僕が夜勤の日だ。
夜勤といっても、何事も無ければ、ただ殿下と一緒に寝るだけだけど。
…でも、なんだか急にお腹が空いてしまった。
ねえ、知ってる?
寒いと、エネルギーを消費するのだ。
今日は、寒波がきて、晴れなのに寒かったからね。
それに頭を使うと、エネルギーを消費するのだ。
今日は、頭脳を酷使して、沢山考察したし。
うーん、しかし殿下のお側を離れるわけにはいかない。
殿下を見ると、殿下も僕を見ている。
アイコンタクトだ。目と目で通じる一瞬の奇跡。
これは…殿下の声が聞こえる…気がする。
(お姉さま、お腹空きました。何か食べたいです。)
うんうん…分かりました。
殿下がその様におっしゃるのであれば、致し方ありません。
さあ殿下、一緒に厨房に行きましょう。
暗くなった邸宅を、殿下の手を繋いで歩いていく。
夜、誰も居ない暗い廊下を歩くと先の見えない暗闇に何かが潜んでいる気がして怖いだろうから、幼い殿下のお手をギュッと握り締めたりしてみる。
…これは、殿下の為ですからね。
しばし歩くと厨房に着いた。
あれ?厨房に明かりがついている。
扉の隙間から明かりが漏れているのだ。
もしかして敵??
とっさに殿下を後ろに隠す。
あれれ?厨房内から、潜入者とは思えぬ無造作なゴソゴソとした音がして、しかも、聞いたことのある男女の話し声も聞こえてきたよ。
「うーん、無いなぁ。余りで良いから何か残ってないかしら。クラッシュ様、そっちはどう?」
「玉葱がありもうした。あと、柚子と生姜とネギ。ふー、ギャル衛士よ、これで何か作れぬか。ワシのこの体型を維持するには、あれっぽっちの夕食ではエネルギーが足りぬ。」
「いや,料理は専門外です。全くつくれません。あっカレーの残り見つけた。」
「おぬし、それでも女子かぁ。それでは嫁にいけぬぞ。まったく使えぬ。」
「あー、クラッシュ様、人の事言えないでしょう。それにそれセクハラですから。訴えますよ。」
「ヌッ、それ逆パワハラじゃな。ワシは食べるの専門職じゃよ。それより何でもよいから何か作ってくれ。腹減ったわい。あ、うどん見つけた。」
聞き慣れた会話の声に、殿下と顔を見合わせる。
あの人達、こんな夜更けに何してんの?
僕が扉を押すと古い扉が、建て付けが悪いのか、ギギッて音を出して開いた。
呆然とした顔二人が、こちらを振り向く。
…
…結局、僕がカレーうどんを作って、みんなで食べました。