女王蜂(後編)
早朝、目覚めのベッドで秘書子ちゃんから、[暴風]の戦闘データに目を通す。
心地良い目覚めだった。
身体中をエナジーが巡っているのが分かる。
ふんふん…。
最初に結論が記載されているのを見る。
[暴風]の圧勝。
やはり、一蹴されたか…その戦闘内容を見ると、てんで相手になっていない。
秘書子ちゃんはあれから至急で殺し屋、戦闘屋、傭兵に[暴風]抹殺を依頼してくれたみたい。
そればかりか、あの短時間で情報を活用、解析、絵図を描きワザと情報を流して[暴風]を罠に掛けた。
今現在の状況を活用しているだけだから不自然さが全く無い。恐るべき手腕だ。
昔、妾が潰した[蜘蛛]のアジトにいた小さいこの子を秘書に妾がスカウトした。
言わば[仔蜘蛛]であるが、妾の役に立つならば、それで良い。
ふふん、仕事が早いのは良い事よ。
当たり前の事だけど、それが為されるのは気分が良い。
鼻歌混じりに報告書のページをめくる。
こいつらが[暴風]に勝てないのは分かっていた。しかし、その戦闘内容はプロなのに何て情け無いていたらくだ。
もし、うちの社員だったならば懲罰房入りで叩き直される弱さよ。
これが中堅の最良処かと思うと、質が下がった感があるわ。
まあ、結果は分かっていたけどね。
[暴風]は、私と同じ表最強十本指入りしてる程だから…つまり私と同じ位の強さだということ。
だから、これは確認作業。
私と真に同格であるのかどうかの。
詳細に目を通す。
蝙蝠、武者鎧、etc…冷徹者…ギョッとした。
表最強十本指の[冷徹者]の名が載っている!?
詳細欄には、偶然邂逅したらしいこと、[冷徹者]の主の息子が戦うことを命令したらしいが、その命を退け、戦いには至らなかった事が記載されていた。
[冷徹者]が戦うのを避けた…?!
報告書をグシャリと握り潰す。
いかなる理由があろうとも、何の躊躇なく生命を摘み取る百戦錬磨の[冷徹者]が命令されたのに戦うのを避けたのだ。
妾にとってこの意味は大きい。
つまり[暴風]は、[冷徹者]に認められたのだ。
少なくとも戦うには一筋縄ではいかないと。
身体がガタガタ震える。
涙がポロポロと溢れて落ちる。
いつしか妾は泣いていた。
嬉しい…嬉しい…嬉しい…。
これは、嬉し涙だ。
これで妾が戦う事が出来る…全力で。
いつから手加減をし始めてたのだろう
戦うことに飽きを感じたのはいつからだ?
両手の平を見るとブルブルと震えているのが見てとれた。
その手の平に、興奮し過ぎて鼻血がポタポタと垂れた…。
「アズ!」
思い出した秘書子ちゃんの名前を叫ぶ。
急いで入って来た秘書子のアズが、妾の姿を見てギョッとしたのが見て取れた。
アズが急いでティッシュを手にして持って来る。
妾はティッシュで涙と鼻血を乱暴に拭き取りながら、アズに命令を出す。
「[暴風]の位置の特定と案内しなさい。出陣よ、妾が出るわ、…そして勝つ!」
寝室内に妾の大声が響き渡る。
エナジーが身体を巡り満ちて、身体中が熱くて震えてる。
分かっている…久方ぶりだ…これは武者震い。
…
まずは冷たいシャワーを頭から浴びて、冷やす。
冷たい水が心地良い。
多少は頭が冷えた。
…
それにしても、秘書子ちゃん、呼んだら直ぐ来たわ。
いったい、いつ寝てるのかしら?
確か妾が寝る際、まだ居て、起きたらもう居たし。
あの子ったら全く秘書の鑑ねぇ…。