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アールグレイの日常  作者: さくら
アールグレイの救出
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ギャル・セイロン大いに悩む(前編)

 ああ、私は良くも悪くも前衛だ。


 今までの自分を振り返り、今の自分を確認する。

 座して待つタイプの人もいる。

 しかし私は違うんだ。

 私は、前へ駆けることを選んだ。


 殿下をお救いするに、前衛の私が後方でヌクヌクしていられるかと考える。

 そう、それが私、ギャル・セイロンなんです。


 私は車のアクセルを踏んだ。

 車のエンジンが唸りを上げる。


 その振動で車がグワンと揺れる。


 おお、この揺れ具合ならば、まだまだいけますね。

 急発進、急加速は運転の基本ですよね?


 「ギャル衛士、先程からたまに前輪が浮いてる気がするが、おぬし、運転は大丈夫であろうな?」

 左横の助手席から女騎士のジルが些か青い顔して聞いてくる。

 むむ、運転に集中しているから話し掛けるなゃ。

 でも心配そうに私を見るソリュート・ジル騎士にはこの言葉を贈ろう。


 「疑うな、信じよ、されば救われん。」


 これは以前アールちゃんが冗談まじりにクスリと微笑み、言っていたお言葉である。

 意味は良く分からないけど格好良いから覚えていた。

 多分使い方は合っている。


 「ギャルは運転免許を持っている。適正で3回落ちても諦めず、試験官が呆れ果て、根性で4回目にギリギリ受かった。」

 ジルが座っている背もたれに後ろからしがみ付きながらメイベルが余計な説明を入れてくる。

 何故にそれを知っている?

 それって暗部の情報収集力の無駄遣いですよ。

 隠しているわけでもないけど、努めて宣伝することでもないので、そっとしといて欲しい。

 だって恥ずかしいじゃん。


 そう…私達は、今、車に乗っている。

 そして運転しているのはこの私だ。

 女は度胸、女は度胸と何度も呟く声が横から聞こえて来る。

 むむ、失敬な。

 私がハンドルを握っている限り大丈夫だ。


 ジープは無人の荒野を滑空するように突き進んでいく。


 どちらかと言うと、ハンドルを握ると独自の高揚感があったりするから運転は好きかもしれないと思う。

 でも以前に同僚から、頼むからハンドルを握らないでくれと泣いて懇願されたので、今まで運転は控えていた。

 私は周りの助言、諫言は聞く方。

 何故なら、私よりも皆んなの方が物事を広く見えていると思うから。

 私は皆んなの人格を信用しているし、皆んなの能力も信頼している。

 …私の周りの人達は、私よりも優秀で尊敬すべき人達ばかりなのです。


 しかし、今日は運転免許を持っているのは私一人だけだから、私が運転しても致し方なしなのだ。

 大丈夫、既に私は運転を見切ったよ。

 運転とは推進力を無駄にしないことでブレーキを掛けないことが肝要。

 掛けるのはチキンの証し、だが私はチキンではない。

 つまり、運転とは風となりて突き進むことと見つけたり。


 どう?正解でしょう。


 そして、聞いているもの達が、私の物言いに感銘を受けた処で私の自己紹介をする。

 私の名前は、ギャル・セイロン。

 失踪した主を探す為に謹慎場所からメイドと女騎士と3人で飛び出したアカハネ伯爵領の一衛士だー!



 私達は、女騎士の言葉に乗っかり、クラッシュ様が大切にしているジープを徴用し(クラッシュ様宛てに緊急事態故借りる旨置き手紙はして来た。メイベルが多分大丈夫と太鼓判押してくれたし、大丈夫だと思う。)、私とメイベルとジルの3人でアカハネを飛び出し、トビラ都市のフクロウ区のサンシャに向かっている途中である。

 普段運転しない私が運転している理由は、残り二人が運転免許を取得していないからだ。

 いやいや…免許取ってよ。

 いざという時どうする気だったの!?

 様々な免許取得は護衛の基本ですよ。


 しかし二人とも運転技能はあるらしいので、荒野に出た処で女騎士のジルに運転を変わりたいとお願いされ変わった。

 本当はダメだけど、ジルは仮免は持ってるらしいので私が助手席に乗って指導監督するならセーフです。

 流石に無免許で一番小さいメイベルに運転させるわけにはいかないから。


 因みに私は事故った事は無い。

 安全確認は執拗に舐めるようにしてるし反射と感覚により手足の延長で運転してる。同乗者が怯えるから運転しないだけで不得手というわけではない。


 …本当ですよ。


 ところで先程から私が女騎士を名前で呼んでいるのに気づいてるだろうか?

 これは私が、メイドのメイベルを名前で呼んでる事に気づいた女騎士が、何故メイドの名を呼んでいるのに私の名は呼ばないのか?とクレームをつけて来たから。

 …ん?

 良く分からない理屈だから一度断った。

 すると女騎士は柳眉を逆撫でで怒り出したのだ。

 それはそれは怒涛の剣幕だった。

 仕舞いには、ズルいズルい、メイドばかり贔屓だ、贔屓だ、嫌だ嫌だ!私の名を呼ばなければ許さないぞと、嫌だ嫌だと涙目で散々駄々を捏ねに捏ねまくった。

 しかも、これは絶対に引かない構えだ。


 いい大人が…なんて面倒くさい騎士殿だ。

 あんた、子供ですか?!


 しからば、もう正直面倒くさくなり…名前を呼ぶことにした。

 普段颯爽としてるのに、今日はヤケに子供っぽい物言いしてくるし…しかも引かない。

 今日の騎士殿の思考が読めないよ。


 しかし了承すると、ジルはアッサリと元の颯爽とした騎士然とした姿に戻った。

 ?!

 …今のもしかして演技だったですか?


 ジルは、私のジト目に多少恥ずかしかったのかワザとらしく咳払いして「小さい頃、姉上にこの様にお願いすれば100%効いてくれたのだ…。」と弁解した。


 お姉さん、甘やかし過ぎです。

 

 ジルの説明によれば、名前呼びを主張したのは3人組構成の場合、差を付けるとチームワークが崩壊すると盛んに吹聴していた。

 …一理あるけど、何だか後付けの弁明くさい。


 しかも、さん付けはNGらしい。

 メイベルと同じ様に呼び捨てにして良いと言う。

 これってばもしかしてジルから慕われてるの?

 初見で会って以来ツンケンしてたのがデレた?

 先日戦って友情が芽生えたとか?

 アールちゃんが口にしていたツンデレとはこのこと?


 …騎士殿…もとい、ジルの態度の豹変の理由は分からないけど良い方に解釈しておこうと思った。






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