女王蜂(前編)
「北方の銀狼騎士団の経理部長閣下から妾に依頼か?」
妾は高いぞ。
あのデブに払えるかのう。
クッションに寝転び本を掲げながら疑念が浮かぶ。
あの容姿には、どうにも気が乗らない。
それに暇を持て余し寛いでる最中に仕事の話しをされてもテンション小指の先ほども動かず。
今の妾は、グデっとした卵か、夏の陽に晒されたスライムのよう。
「…社長、言い値で前金で払うとの申し出です。」
秘書が、声に出さない妾の疑念に淡々と補充報告する。
「はー…。」
溜め息をつく。
この秘書の子は、若くて優秀過ぎるくらい優秀なのに、人情の機微に疎い。
いまのは、どう考えても気が乗らなくて嫌じゃと言うてるに、何故分からんのじゃ。
いや、待て…この子が気づかないはずがない。
ワザとか?ワザと言ってるのか?
ギロリと殺気を飛ばす。
…
長椅子の上でクッション越しに背面にのけ反りながら、秘書子ちゃんを見る。
まるで変わらぬ姿がそこにあった…つまらない。
「…で?誰をヤレばいいの?」
「アッサム辺境伯次子キャンブリック姫とその護衛。」
「あらら、確か閣下は、次子派閥の筆頭だったんじゃなくて?」
「最近は、長男外戚派閥と仲が良いようで…。」
ふーん、あの可愛い子は割と気にいってたんだけど。
優秀過ぎて傀儡には不適格かしらということかしら。
やっぱり気分が乗らないわぁ…。
逆にあのデブだったら八つ裂きにして焼却措置を1イエンで受けて妹にやらせるのに…。
「護衛には[暴風]が就いたとか。」
!
秘書の言葉に気分が180度変わる。
あー、これってコペルニクス的転回かしら?
「それを早く言いなさい。」
ガバっと起きて考える。
ん、ん、んん〜♪
前に妹から聞いた[暴風]らしい少女の容姿を脳裏に想像する。
…良い!
良いわぁ…なんだか久しぶりに萌えそう。
「…いいわ、受けると伝えなさい。但し相手は[暴風]よ。妾でもおそらく五分の相手、約束は出来ぬ。依頼途中キャンセルありの違約金無し、成功報酬のみの後払いで受けなさい。」
ふふっ。
萌え、萌え、燃え萌えおう♪
ららら、ら〜♪
服装は、どれにしよう、か・し・ら♪
扉がパタリと閉まり、秘書子ちゃんが出ていった。
むふ、あの子も、なかなか分かってきたじゃない。
あらあら、皆んな、妾の名前を知ってるかしら?
妾のコードネームは、[大雀蜂]又の名を[女王蜂]。
一流の暗殺会社[蜂]の社長であり、一流の暗殺者、それが妾よ。