契約
契約の更新はしない。
契約の一週間限定ですが、必ず殿下は守りきる。
以上2つを、僕は決めた。
分相応という言葉がある。
良い言葉である。
自分が出来る枠を決めて守りきるという意味と解釈する。
それこそ蜂が何匹も来たら、僕程度は刺されて御陀仏だと思うし、たまたま一回防ぐことができたが危なかった。
庶民は、やはり庶民らしく、分相応に仕事を選ぶべし。
貯金、年金を積み立てて、マイホームを建てて、半自給自足生活のスローライフを、僕は目指すのだ。
以上、ギャルさん、殿下、クラッシュさんに、僕の持論を聞いてもらった。
…
殿下は、キョトンとしていた。
やはり貴族と庶民では、住む世界が違うのであろう。感覚的にピンと来ないのは、仕方ないことだ。
クラッシュさんも元騎士であり、今はお坊様であるから、庶民の夢とか生活信条とかと、かけ離れている気がする。
一番僕に近いのは、ギャルさんだけど…。
「アールちゃん、若者の特権はね、夢をみることよ。アールちゃんの夢を年寄りくさいとか、夢が無いとか、地味だとか、否定はしないわ。でもね、夢は大きいほうがいいわよ。ちなみに私の夢は、世界平和。皆が争わず、日々幸せに暮らせる世界。私は幸せになりたい。でも私が幸せになる為には、まず、私の周りが幸せにならなくては。だからアールちゃんも幸せにならなくちゃダメよ。」
ギャルさんの言葉を聞くと、僕は切なくなる。
ギャルさんが、この後、儚く散ってしまうような…。
もしかして、これはフラグですか?
ま、まずいのでは?
「あと、私の信条は[全力疾走]だから。いよいよマズイと思ったら殿下とアールちゃん抱えて、全力で逃げるから。ちゃんと付いてきてね。アールちゃん。」
どうやらフラグでは無かったようだ。
実に逞しいです。
前世で、天下を統一した徳川家康は、逃げの名人だったと聞いたことがある。
ギャルさんにも、徳川家康並みの逃げる為の判断力と逃走能力があることを望む。
「大丈夫。私の魔法は、常に逃げる為に、増強系特化だから。殿下とアールちゃん抱えて、100メートル10秒切って逃走可能だから。」
何故に僕を抱える前提なんでしょうか。
「大丈夫。アールちゃん、小さくて羽根のように軽いから、殿下と同じだから。」
…解せぬ。
でも、ギャルさんの周りを気遣う心の暖かさに、ホッコリくる。
僕が居なくなっても、ギャルさんなら大丈夫。
たとえ衛士隊がボンクラのせいで潰れたとしても、ギャルさんなら案外大丈夫だろ。
殿下が直接雇用しても良いし。
問題は、今現在の敵だ。
この時期、急に、殿下を暗殺して誰得というのだ?
暗殺の為だけに一軒家を車に改装する資金、一流の殺し屋[蜂]を雇う資金、かなり高くついたはずだ。
組織の弱体化を図る敵とは、別口の敵だ。
真綿で首を絞めるやり方とは違う今回の襲撃は、まるで蜂の一刺し。…危険だ。
いったい、何処の誰だ。
蜂の雇い主を潰さぬ限り、又は理由が消えない限り、また蜂は来るに違いない。
何故なら殺し屋にとって信用は第一だから。
だから一流の殺し屋ほど契約を遵守する。
蜂は一流だ。
よって蜂はまた来るぞ。
どうする?