あるメイドの心情と慟哭(中編)
まさしく私の黄金時代は学生時代の三年間だったと思う。
今の仕事は、私には向いてない。
断言出来る。
裏の仕事は、落ち着かないし、緊張感半端無いし、楽しくない…実は私は争い事は嫌だし、武術にも全く興味が無い。
恐るべきセンスの妙とか、才能の塊りとか、100年に一人の天才とか、師匠方が私のヤル気を引き出そうと、ボソリと呟いて、さも自然に持ち上げようとしても私の気持ちは変わらないよ。
裏の仕事のせいで表で目立つことが出来ず、空気や壁とか植物並みの背景に徹しているから、極力無口で無表情だ。
私は、本当は喋りたいし楽しく笑いたいのに、全然そんな環境にではないのでストレス溜まりまくりだ。
お菓子作りの方が楽しいし癒しの時間です。
更に表と裏と重なる部分はあるが、単純計算で私は他のメイドの2倍は働いているし。
まさにブラック。
伯爵の次子付きになった時は、専用だから他の仕事を命ぜられず、多少楽にはなったけど。
…止めてやる。
いつか、私は絶対に辞めてやる。
(ごめんなさい…キャンブリック姫殿下)
チクリと心が痛んだ気がした。
むろん冷静冷徹な私だから気のせいに違いない。
こんなんだから、私には次子に対する忠義心など無きに等しい。
でもそんな事は噯にも出さない
そう、誰にも気取られてはいけない…私が辞めるまでは。
私は紅茶と茶菓子を台車に乗せて、今日も次子の執務室へ押して歩いて行く。
次子付きになってからは既に日課になった行動だ。
私の裏の任務は次子への護衛と監視。
だが護衛に関しては城にいる限り本来ならば必要無いし、外出する場合には、騎士と衛士のどちらか、若しくは両方ともが必ず着くから心配ない。
衛士には個人的にイラッとすることがあるものの、どちらも護衛としては若いけど優秀だ。
お陰で菓子を作る時間を捻出出来るようになった。
あの次子が一人になれるのは、トイレと風呂と寝室くらいで、その時も扉の前か、その付近に護衛が待機している。
やれやれ…その窮屈な身上に些か憐憫の情も覚えるが仕方無いのだろう。
私なら窮屈で一日で音を上げてしまうかも。
だとしたら、存外あの次子もか弱く儚げに見えて図太い精神を持っているのかもしれない。
城内の廊下で台車を押して歩き、執務室の前まで来るとノックをする。
中から女騎士の誰何する声が聞こえたので、素直に返答すると扉は開いた。
扉を開けたのは女騎士。
騎士然とした厳しめの顔つきに反する綺麗に波打ったゴージャスな金髪が真っ先に目に付く。
煌びやかでコンパクトな身体付きはドレスを着ても似合うだろう。
年齢は私と同じくらい。
この女騎士は、私と同じ時期に次子に就いた。
全てにおいて高性能だから私も一目置くしか無い。
もし、この者とまともに正面から闘うような馬鹿な真似をするならば、おそらく勝つのは難しいだろうと思う。
やるとしたら相手が防御の態勢をとっていない初撃に全力を出し、失敗したら即逃走するしかないな。
ついでに女騎士のスペックは下記の通り。
武力はAプラス、魔力Dマイナス、智力A、忠義心Sマイナス。
魔力は、魔法を見てないので不明だが、騎士団員は最低限の魔法は嗜みとして身につけてるから仮にDマイナスとした。