touchdown
僕は朧月夜の暗闇の夜空を飛んで行く。
頭の中の地図とsearchの群青色の光点を重ねる。
段々と接近して行くのが分かる。
黒雲の上で向い風に吹かれながら段取りを組む。
光点は移動していない。
キャン殿下は屋内に閉じ込められ、就寝中であろう。
周りには、パターン白が何点か光っている。
パターン青は、殿下と思われる群青色が一つだけ…。
であれば、殿下の御身一人だけ救出すれば、事足りる。
ならば、ドカーンでヨイショでバヒューンですね。
分かった?
前世の僕から抗議が来るような粗忽な段取りと表現内容です。
でも良いのです。
事ここに及んでは熟慮は不要。
現場には居ないけれども僕の最後衛にはダージリンさんがいる。
場所は連絡したから、関係各局への連絡と後始末はしてくれるはず。
安心して現場に集中できる。
今回は、敵を倒してお姫様を救出するだけの簡単なお仕事です。
これで報酬5倍は美味しい。
そう、今直ぐにキャン殿下をお救いする。
誘拐犯には鉄槌を下す。そして僕には報酬が来る。
…だから、無事で待っていて下さい、殿下。
多少の焦燥感に駆られながら祈るように心の中で呟く。
あの優しい少女が不幸に落ちるなど見過ごすことは出来ない。
…絶対にだ。
フクロウ区の東の街外れ、サンシャと呼ばれている廃墟にsearchのパターン青が光っているのが分かった。
むむ…残念ながらドカーンは無しです。
黒雲を纏いながら、フワリと屋上に降り立つ。
touchdownです。
組んでいた呪印を解くと、黒雲が霧散するように散って消えていく。
廃墟と形容したが、サンシャは今でも使用されて住んでいる者もいる。
廃墟と住居と店が混在した蟻塚のよう…一般都市民はまず近寄らない安心度逆MAXの建物と化している。
前世の昔で言う九龍城のイメージ。
反社会団体組織の温床となっているが、子供達も暮らしているから、建物事ぶっ飛ばすことは出来ない。
出来ないのだ…惜しい…残念です。
風で乱れた髪を整える。
寝癖がひどく髪先が跳ねている。
うん…恥ずかしい。一人で良かった。
僕の髪質は柔らかく、ウエィブが自然と掛かっているので、起き抜けは、特に寝癖がひどいように見えてしまう。
むう、おのれ!これも誘拐犯のせいである。赦すまじ!
屋上には誰もいない。
当然だ。
まともな人間なら仕事以外で、こんな時間帯に廃ビルの屋上にはいやしない。
屋上の扉のドアノブを握って回す。
鍵は掛かっていなかった。
僕は扉を開き中に侵入した。